死神はFF外から失礼する〜痩せたい女〜

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今回のブラックユーモア焙煎度

フルーティーさ:★★

強い酸味:★★★

スパイシーさ:★★★

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何の取り柄もない、どこにでもいる太った若い女。

彼女は死んでも痩せたかった。

今度こそは痩せるとTwitterで宣言し、何度もダイエットに挑戦しては失敗を繰り返す日々。


だが本当に今度こそはダイエットを成功させたかった。

なぜなら彼女が追いかけをしているアイドル星田 純也の握手会が迫っていたからだ。


星田君と痩せた姿で握手をすると意気込む彼女。


『星田君のために死んでも痩せる』


そう呟くと「FF外から失礼します」とリプライが届いた。


「痩せたいなら、ここのエステどうですか? すごく痩せると評判ですよ。それに今なら無料キャンペーン中です」


その一文と共に、お店のURLが記載されていた。


えっ!無料キャンペーン中。ラッキー。

あっ、でもこれ、初回だけ無料で有料会員にならないといけないパターンじゃないの。


彼女は怪しみながらも、お店のURLを開く。


そこには綺麗なエステ店の内装。

無料キャンペーン中である文面。

それと、綺麗な黒髪の女の人が、笑顔で写っていた。


綺麗な人。やっぱりこういうエステ店で働いている人は、みんな綺麗。私もこういう風になれるのかな。

お店のWebページはちゃんとしてるみたいだし。

それにエステは一回で効果が現れるとある。本当かな?

興味がそそられる彼女。


一回で効果が現れるなら握手会の当日、受けたらいいじゃない。


どうせダイエットに挑戦しても努力無駄に終わりそうだし。

うん。そうだ。これに賭けてみよう。と短絡的に考える。


無料キャンペーンの受付はこちら↓↓↓


リンクを開き、握手会の当時にエステの予約を入れる。

リプ主にもお礼を言っておこう。そう思ってリプ主のアカウントを何気なく見る。


異沢 奈未@izawa_nami

フォローもフォロワーも0人。

何のツイートもしてない。

そして長い黒髪の女のアイコンと画像。


最近始めたのかな?ここのお店で働いている人?

あと、どことなく後ろ姿が先程の受付の人と似ているような。


ちょっとした疑問は浮かんだが、まあいいか。となる。


「ありがとうございます。さっそくエステ予約しました」返信すると「きっと痩せると思いますよ」と返ってきた。


彼女は痩せた自分が星田 純也と握手を行う姿を想像する。

そしてそこから始まるシンデレラ的な恋物語で頭がいっぱいになりながら、

エステと握手会を楽しみに待った。


予約当日。

店内はWebページ通りの綺麗な内装。

そしてあの綺麗な黒髪の女の人が受付で出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ」


あれ? 男の声?


「えっ、えっとあの本日、無料キャンペーンで予約したんですけど」

「はい、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


黒髪の女の人は先を歩いていく。

まさかこんな綺麗な人が男の人だったなんて。いやーなんかすごい。艶めかしい後ろ姿をまじまじと眺めながら彼女は思った。


彼女は別室でエステの説明を受ける。


・ただいま無料キャンペーン中でお金は一切いらない

・当店のアロマオイルは南米にしか咲かない特殊な花が原料

・一度エステを受ければ効果が絶大に現れる

・etc.


「よろしければこちらにサインをどうぞ」


彼女は黒髪の女の人からペンを渡され、同意書にサインをした。


「では、スタッフが来ますので、こちらでお待ちください」

「えっ、あなたがマッサージをしてくれるんじゃないんですか?」

「ええ。私は受付専門ですので」

「あーあ……そうですか」彼女はなんだか残念な気持ちになった。

「大丈夫ですよ。当店のスタッフは一流です。死ぬほど痩せますから安心してください」


黒髪の女は微笑を浮かべてそう言うと出ていった。


しばらくして。

スタッフが来てマッサージが始まった。

全身をくまなくマッサージされ心地よくなっていく。

彼女は眠気に誘われ、瞼が重くなっていった……。


「お客様。終わりましたよ」


目を開けると黒髪の女が彼女の顔を見下ろすように覗き込んでいた。


「あっ、私、寝ちゃってた」

彼女はあまりの気持ち良さに途中で寝てしまっていた。

「はい。豚のようにイビキをかいて、爆睡していましたよ。どうですか? 気持ち良かったですか?」

「えっ、あっ豚? えっとマッサージは気持ちよかったです」

「効果はもう現れていますよ」


黒髪の女はそう言うと、鏡を彼女の前に持ってきた。


そこには、スラリとモデルのように痩せた彼女の姿が映っていた。


「これが、私!?」


彼女は驚き、全身をくまなく見る。


「ええ。そうよ。さあ、さっさと握手会に行かないと遅れるわよ」


黒髪の女は彼女を急かす。

時計を見ると握手会の時間ギリギリだった。

何故、握手会の事を知っているのか疑問に思ったが、彼女は気にせず、ありがとうございました。とお礼を言って握手会場へと急いだ。



道中。

彼女は身体に異変を感じた。

なんだか全身がむず痒いのだ。

左腕をボリボリと掻きむしる。

肉が爪に食い込みボリッとえぐれた。


「なによこれ!?」


右腕も人差し指で穿ってみる。


生花を刺す緑色のスポンジのようにググっと凹むとそこからボロボロと崩れ骨が見えた。


「ぎゃあーー! 私の体がボロボロと崩れていく」


彼女は絶叫した。


だが、こんな事で立ち止まっているわけにはいかなかった。

握手会に遅れてしまう。もう時間がないのだ。

彼女は走った。


走る振動で足がグズグズに崩れていく。

腕を大きく振ると肉が飛び散り通行人に当たって弾ける。


「ぎゃあ、なんだこれ」

「うわーなんだあれ!?」

「ねえ、ママ見てあれあの人、お化けが走っているよ」

「見ちゃいけません!」


向かい風で顔の肉もボロボロ剥がれ落ちる。

余計な肉がほとんど削ぎ落ちた事で彼女は風のように走る事ができた。



握手会場。



「はーい。今日は来てくれてありがとう。次の方どうぞ」


星田 純也はファンの1人と握手を終え、次の人を促す。


「はーい。今日は来てくれてありがとう。あっ、これはまた、細くて白い冷たい手だね。……てっ、骨!」


彼女はなんとか握手会に間に合ったのだった。骨になった手で星田 純也の手をギュッと握る。


「私、ずっと星田君を応援していました」


彼女が喋ると上顎と下顎の骨がカタカタと鳴る。


「いや、骨!」


「本当に今日この日のために生きてきました」

「いや、この状態は生きているのか死んでいるのかわからん」

「星田君と握手ができて本当に良かったです。私、幸せです……」


彼女は満足そうに言うと、カランと地面に崩れ落ちていった。


「おい、あんた大丈夫か!? おい、おい! 骨!」


星田 純也は声をかけるが、返事はなかった。


彼女はもう、ただの屍になっていた。

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