第09話 国王なんだけど、大国から嫌な縁談が持ち込まれたんで全力で断りたいんだけど家臣たちが邪魔をする

 シルチス王国へ大国スワト帝国から持ち込まれた縁談。すごく魅力的な申し入れに国益を考えて大臣たちは諸手を挙げて賛成した。しかし国王バルガスは最終段階になってもこの話を渋っていて……。なんで王は嫌なのか? 臣下の突き上げに国王は苦悩する。そうこうしているうちに帝国の使節団も到着してしまい……結婚まで持ち込ませる気満々の帝国使節団をバルガスは追い返せるのか?


   ◆


 大陸のほぼ中央辺り。合従連衡を繰り返す様々な国に挟まれる形で、シルチス王国という小さな国があった。

 何があるというわけでもないのどかな国だが、大陸の真ん中にあるだけあって交易路のほとんどがシルチス王国の中で交差している。それがこの小国の財政を支える長所であり……他国に狙われやすいという短所でもあった。



 

 その小さな王国の小さな都にある小さな王宮で。

 閣議を行う小広間に、この国を動かす男たちが集まっていた。


 会議卓を囲む男たちが注目する中で、最も上座に座る壮年の男が重々しく発言した。

「このたびのスワト帝国からの縁談……やはり断ろうと思う」

 上座の男……シルチス王国国王バルガスの意思決定を伝える発言に……居並ぶ大臣・将軍たちが一斉に首を横に振った。

「却下します」

「一考ぐらいしてもいいだろう!?」

 王の悲鳴に、代表して宰相が冷静に答える。

「考えるまでもありません。我が国と帝国の国力の差は歴然。軍事力は軽く二十倍を超えます。圧迫される一方でこのままジリ貧一直線だったのが、なんとあちらから手を結ぼうと言って来てくれたのですぞ。」

 軍を代表する将軍も頷く。

「もっとも脅威である帝国が友好国に変われば、国境問題はもはや無いに等しくなります。帝国の圧力が消えるだけでなく、帝国の後ろ盾で他の国は我が国に手も足も出なくなります。帝国の要求は大まかに言えば同盟の証になる我が国への輿入れのみ。領土の割譲も利権の譲渡も無し。こんな美味しい話は二度と無いですよ」

「判っている。判っているが……」

 重臣たちは皆同盟に賛成している。理屈で言えば王自身も賛成だ。今回の話は確かに奇跡的なありがたい話。それはよく判っているのだが……。

「しかし……しかしだな……」

「良いではないですか。国防の課題が解決したうえに、陛下の独身も解消される。良いことづくめじゃないですか」

「そこな! そこが問題なんだ!」

 そう、帝国が申し入れてきた縁談とは。それは三十代半ばで未だ独身の国王へ、帝国の姫を押し付けようという話だったのだ。


 宰相が理解できないというように肩を竦めた。

「何が嫌なんですか。お相手のメリア姫は亡くなられた元皇帝シャハト三世陛下の妹君と家柄も文句なく、皇帝の名代として大神殿で巫女も務められたご立派な経歴もお持ちです。お心も優しく堅実な性格で、質素を好み贅沢もされません。素晴らしい方ではないですか」

「ああ、確かにな。それはそうなんだが」

「いいじゃないですか、年上なぐらい」

「簡単に言うなよ!?」

 王が切れかかったところへ、入口を守っている衛士が顔を出した。おかしな空気に戸惑いつつも、自分の役目を思い出して報告を上げる。

「帝国の御一行が到着されました。謁見の間へお通しいたしますか?」

 卓を囲んだ男たちは顔を見合わせ、代表して王が指示を出した。

「いや、二十日もかけて遠路はるばる来て下さったのだ。まずは宿舎へお通ししろ。一服されたところへ我々があいさつに出向く旨お伝えしてくれ」

 王の指示に宰相もウンウンと頷く。

「そうそう、まずはゆっくりお休みいただこう。宿舎までの廊下には休憩所を三か所ぐらい設けて、案内係は椅子を持ち歩け。メリア姫がお疲れならどこでも一休みしてもらうんだ。過労で亡くなられては大変だからな」

 外務大臣も同意した。

「どこでポックリ逝かれるか判らん、慎重に時間をかけて誘導するんだぞ。近いうちに昇天されるのは仕方ないとしても、せめて新婚生活を楽しんでからにしていただかないとなあ……そうしないと帝国皇帝に顔向けできない」

 閣僚たちが口々に同意のつぶやきを漏らす。近衛の将軍が嘆息した。

「なにしろ姫は……御年八十七歳だからな」


   ◆


 指示を一通り出してメンバーが『国王陛下・帝国姫 婚礼対策会議』に戻って早々。

 バルガス王が卓を叩いた。

「やはりどう考えても八十七歳と結婚てありえないだろう!? 確かに私は独身で後継者をなんとかせねばならんが、そんなお歳の姫と結婚して子供ができると思っているのか?」

「陛下……アラナイのご婦人と子作りする気ですか? なんてチャレンジャーな……」

「できるか! 一発で天に召されてしまうわ! 私が言いたいのは年齢差だ。九十近い老女だぞ? 俺はまだ三十四だ。結婚相手が年上なんてレベルじゃないぞ! いくらなんでも離れ過ぎだ」

 王の剣幕に、内政を担当する大臣の一人がなだめるように発言した。

「まあまあ陛下。発想を変えてはいかがでしょう?」

「発想?」

 他の者も注目する中、大臣は自説を披露する。

「今の年齢で考えるからものすごい年上に思えるのです。例えば陛下が生まれたての赤子と考えればメリア姫はまだまだ現役のお歳。陛下がマザコンになったつもりで甘えればちょうどいい。えーと、陛下が零歳として姫は……五十三歳」

「……私の生まれた時、今は亡き御祖母様は四十二歳だったが」

 静まり返った閣議室。

 自然と集まった視線の先で、提案した大臣が咳払いしてから親指を立てた。

「陛下がおばあちゃん子だったら何にも問題ありません!」

「御祖母様を尊敬はしているが、結婚相手として意識したことなど無いわ!」

「そういう趣味の人もいます!」

「赤子の段階でそんな性癖持っている人間がいるか! 私はむしろ年下のピチピチした方が好みなんだ!」

「独身こじらせると理想ばかり高くなるんだよな」

「権力も地位もあるのに三十四まで相手が見つからなかったんだろ? 選り好みしている場合じゃないんじゃ……」

「私が独身だったのは国の立て直しに奔走していたからだ! モテなかったのとは違う!」

 ひそひそ囁き合う大臣たちに一喝して、国王は卓をドンドン叩いた。

「父上の急な戦死で十五で即位して以来、内憂外患で荒れた国を何とか立て直さんと走り続け……気がつけばこんな歳になっていたんだ! 好きで結婚していなかったわけじゃない! 王妃の選定さえする暇もない激動の治世だったのだ! 国の重鎮たるお前たちが判らん筈はないだろうが!?」

 顔を見合わせる一同の中で、宰相が代表して頭を下げた。

「もちろん国難の連続に東奔西走しておられた陛下の雄姿、我ら陛下に付き従う者どもも眩しく拝んでおりました」

「うむ」

「陛下の御尽力で国内は落ち着き、国境の安全も小康状態を保ちつつあります。身を粉にして働いた陛下の努力が今まさに花開こうとしております。臣下として我々大臣一同、その厚恩に感謝の念に堪えません」

「そう言ってもらえると私も今までの苦労が報われるようだ」

 ウンウンと頷く皆の中で、立ち上がった宰相は拳を握って語気を強めた。

「と、そういうわけで! あと一歩、あと一歩で陛下の求めた理想が完結するのです! メリア姫を陛下が娶れば外国の脅威は一掃され、我が国の環境は完璧になります! もう結婚しない理由が見つからない! 陛下が姫と結婚すれば全部丸く収まる! さあ陛下、式の日取りを決めましょう」

「ちょっと待てーッ!? 散々持ち上げといて言いたいのはそこだけだな!? 私を生贄にして外交利益を得ようというだけだろう!」

「まさに! 陛下、冷静に考えてください。陛下が黙って老婆と結婚すればあらゆる問題が解決するんですよ? たった一人意に添わない結婚をするだけで我が国は得しかしないんです。悩む場所がありますか?」

「その通りなんだがなあ……」

 バルガスが頭を抱えて卓に突っ伏す。

「あらゆる私事を犠牲にして国を立て直そうと二十年……行きついた先が八十七歳と無理やり結婚させられる未来とは……」

「良くある話ですよ。基本的に貴族の社会は女は言いなりで結婚するしかない世の中ですからね。その立場が逆転したと思えば……」

「世の女性に同情はする! しかしだからと言って慰めになるか」


 将軍の一人が腕を組んで唸り声を上げた。

「しかし陛下、そもそもの話ですが……すでに婚約前提で姫は到着してしまっているのですぞ? いまさら止めたのでお帰り下さいと言うわけにはいかないでしょう」

「あー……それは」

 バルガスもさすがに口をつぐまざるを得ない。

 婚約を受ける前提で話が進んでいるので、使節団がたった今到着したところなのだ。すっかりその気の相手に今さら中止なんて言えない。何より、二十日もかかる長旅をしてきた老人にまた同じ行程で帰れとは……。

「……婚約破棄を伝えたら、その場でポックリ逝くんじゃないか?」

「姫が納得してくれたとしても、失望してがっくり来ているだろう。とても無事に帝国までたどり着くとは思えん……」

「そもそもどんな理由で納得してもらうんだ。歳食ってるから嫌だなんて理由が通用するか?」

「初めから判っていた話だしな……帝国に喧嘩売ってるとしか思えない」

 やっぱり王が結婚するしか……という視線がバルガスに集中する。


 目をつぶって考えていたバルガスが、皆が議論を終えて静まり返ったところで目を開いた。

「婚約を破棄するという考えから離れよう。視点を変えて、こういうのはどうだろうか」

バルガスが指を一本たてた。

「私じゃなくて大臣か将軍の誰かが結婚する」

一斉にバツ印を出す首脳陣。

「ず、ずるいぞお前たち!」

「この中で結婚していないのは陛下だけです」

「そもそも国王と結婚するはずが格下の閣僚が相手に変更では、帝国の了解が取れると思えません」

「ううう、それはそうだな……」

バルガスが二本目の指を立てる。

「では次だ。国王が結婚する。しかし私は結婚しない」

「は?」

 列席者が首を傾げる中、ゆっくりバルガスが立ち上がる。

「つまりだな」

「はあ」

「私は退位するから後は誰か頼む!」

 脱兎のごとく逃げ出そうとしたバルガス……だったが、反射神経のいい将軍たちにタックルされてあっと言う間に捕まった。

「いきなり何投げだしてるんですか!」

「放せ、私は結婚に夢を持っているんだ!」

「夢は夢で終わるから夢なんですよ! いままで結婚できなかったのにさらに国王を辞めて、無職の三十男に嫁が来ますか!? 後を継がせる息子もいないんだから、諦めて結婚してください!」

「できなかったんじゃなくて、して無かったんだ! その結婚をしたって、八十七歳相手に子供なんか作れるか!」

「やってみなくちゃ判らないでしょう!?」

「試して死なれたらどうするんだ!」


 バルガスと将軍たちがもみくちゃになっている横で。外務大臣が「そう言えば……」とつぶやいた。

「そうだ、陛下……他の方とも結婚できますよ」

「は?」

バルガスと閣僚たちは顔を見合わせた。


   ◆


「帝国との折衝の際に話が出ておりました」

 シルチス王国もスワト帝国も、クルランド教を国教とするクルランド教圏に属する。そしてシルチス王国にその習慣がないためすっかり意識の外にあったが、クルランド教ではやむにやまれぬ事情がある場合、妻を四人まで持っていいことになっている。

 不妊の妻を離縁して新しい妻を迎えるというのは貴族の世界では昔からよくある話。そういう時に妻を捨てないよう、特段に理由があれば一夫多妻を許すという建て前だ。

「その規定を使えば、メリア姫を正妃にしてもまだ結婚できます」

「おおっ、なるほど!」

 一気に顔色が良くなったバルガスと大臣たちが肩を叩きあう。

「良かったですね陛下」

「うむ、確かにメリア姫と子供を作れるとは考えにくい。そう考えれば二人目を娶る解釈も可能だな」

「じゃあさっそくメリア姫との婚礼が終わりましたら、早々に第二夫人の選定を……」

「そのことなんですが……」

 問題が解決して喜び合う一同に、外務大臣が水を差した。

「なんだ? 年齢の事は帝国側も判っているんだ。第二夫人を取っても問題なかろう?」

「ええ、その件については当然帝国も判っておりまして」

 外務大臣が手元の資料をめくった。

「それで帝国より、今回の使節団にメリア姫に合わせて第二から第四夫人(候補)も同行させるから丁重に扱うようによろしく頼むと……」

 沈黙する人々の間を隙間風が吹き抜けた。

「……嫁の人数枠を全部帝国人で埋めて来るって、我が国を吸収する気満々じゃないか」

「もし正妃のメリア姫が亡くなられても、他にも帝国出身の妃が重用されていれば同盟が揺るがないと……」

「理屈はそうだが、四人枠を全員用意するのはおかしいよな? なあ?」


「他の候補の方々は……御年いくつだ?」

 宰相に訊かれて外務大臣が資料を見る。

「名前と経歴だけで、年齢はないな」

 全く期待してない顔でバルガスが外務大臣を見る。

「どうせみんな似たようなもんじゃないのか? 帝国はうちの後宮を養老院だと思っているのか……で? どんな奴が来たんだ。四人もいれば誰か一人ぐらい断ってもいいだろう」

 すっかりヤサグレているバルガスに促され、慌てて外務大臣が読み上げる。

「えーっとですね……皇族のメリア姫に、帝室派で国軍総司令官の侯爵の令嬢、議会派で与党重鎮の辺境伯の令嬢、中立派で新興貴族筆頭の伯爵の令嬢の四人です」

「一人も断われねえ……」

 再度頭を抱えるバルガスの後ろで、内務大臣の一人がハッとした顔になった。

「陛下、これは期待が持てますよ!」

「ん? というと?」

 したり顔で大臣が頷いた。

「メリア姫以外は親が現役です。例え帝国人が長命でも、親の歳はいいところ八十かそこらでしょう」

 言いたいことに気が付いた将軍が弾んだ声を上げる。

「なるほど!その子供と考えれば、娘は五十代か六十代!」

「おおっ! 陛下、それなら十分許容範囲内ですよ」

 良かった良かったと頷きあう大臣たちにバルガスは待ったをかけた。

「いや待て待て。それでも私の親の歳なんだが」

「仮定の話ですよ。最大値でそれなんだから、もしかしたら四十代が混ざっているかもしれない」

「おまえら、どうしても私をマザコンにしたいのか」

「したいんじゃありません。国の安寧の為になっていただきます」


   ◆


 閣議でありながら取っ組み合いの喧嘩に発展しそうな乱れた空気の中。

 怒りの反論をしようとしたバルガスの足に、ポスンッという軽い衝撃が伝わった。

「?」

 背の高いバルガスが見下ろせば、そこには……異国風の装束を着た美少女がしがみついていた。


 額で中分けにした長い黒髪に、抜けるような白い肌。

 こぼれそうなほど大きな黒目がちの漆黒の瞳が、邪気無くバルガスを見つめている。

 少女は胸だけを隠すチューブトップに袖なしの上着を羽織り、両サイドに腰まで届くスリットの入ったスカート状の民族衣装に編み上げのサンダルを履いていた。この肌色分がかなり多いセクシーな服装は帝国の貴族階級の物だ。


 見たこともない美少女にいきなり抱き着かれ、バルガスの思考が停止していると。広間の入口が騒がしくなり、帝国風の衣装を着た男と自国の衛士が慌てた風に入ってきた。

 帝国の従者らしい男が平謝りに頭を下げる。

「大変失礼を致しました! フィリア様が旦那様の顔を見に行くのだと申されて飛び出してしまいまして……」

「フィリア?」

 バルガスや大臣たちが外務大臣を見る。外務大臣は手元の書類を見た。

「第二夫人(候補)のラクン・サン将軍のご令嬢です」

「あ、ああ……」

 バルガスはゆっくりとしゃがみ込むと、純真無垢を絵に描いたような少女と視線を合わせた。

「お嬢ちゃん、おいくつ?」

 呆けたようにバルガスを見ていた美少女はニパッと笑って指を四本突き出す。

三歳しゃんしゃい!」

「……そ、そうか。三歳か……元気が良いな……」

「うん!」

 少女は元気に返事をすると、それから不思議そうに可愛らしく小首を傾げた。

おじさまおいちゃま、なんで泣いてるないてうのー?」

「ふ、ふふふ……何でもないよ……フィリア殿が可愛らしくて泣いてるんだよ……」

「ふーん?」

 なんか納得いかなそうな顔で、幼き第二夫人(候補)は四つん這いで涙を流す夫(候補)の背中をポンポン叩いた。


 しばし黙っていた宰相が、orzを全身で表現している王に声をかけた。

「……良かったではありませんか陛下。ご希望のピチピチの年下ですぞ」

 将軍もしきりに首を振る。

「そうそう。これは十五年後……いや、十年後には相当な美女になりますよ。羨ましい」

 外務大臣も乗っかってきた。

「いやいや、帝国もちゃんと考えていますな。うん、第一と第二で釣り合いが取れてる」

「そう思うんなら誰か替われやぁーっ!!」

 バルガスが切れた。


   ◆


 床に転がる国王からとめどなく涙が溢れる。

「超熟女の次は超幼女……新妻が八十七歳と三歳って、どういう取り合わせだ!? 私は世間からどう見られているのだ!?」

 大臣たちが顔を見合わせた。

「それはまあ、つまり……」

「陛下が今まで適齢期の女性に興味を示してこなかったから、帝国もそこら辺を勘案してストこの世界ライクにこんな言葉ゾーン無いよねに当たるように送り込んできたんでは……」

「興味が無かったわけじゃナイィィィィッ!! 興味はあった、大ありだ! 状況が許さなかっただけなんだぁぁぁぁぁっ!!」

 バルガスがバンバン床を叩く。石造りの床はさすがに揺れはしなかったが。

「嫁の年齢差が八十四歳? ストライクゾーンが広すぎだろ! アラナイから三歳児まで美味しくいただくって、私はどれだけ高等な変態紳士なんだ!?」

「笑えちゃいますね」

「笑えんわ!」

 バルガスが顔を起こし、鬼の形相で外務大臣を睨みつける。

「で? ここまでくると三番目と四番目はどんなのだ? もう何が来ても驚かんぞ。次は驚異の百歳越えか? それとも親の腹の中を予約済みか? いっそ男子か犬猫か……まさか宇宙人やモンスターではあるまいな?」

「ははっ、陛下の御趣味の広さに感服いたしました」

「希望してるワケじゃねえよっ!?」


   ◆


 大の大人たちが取っ組み合いの喧嘩をしているのを横で三歳児が眺めているという訳の分からない空間を、部屋の入口で柱の陰から二人の女が見つめていた。

 二人は飛び出してしまった幼児を追いかけて来たのだけれど、何か騒ぎが起こったところへフィリアが入ってしまったので追うに追えなくなってしまったのだ。

 二人ともフィリア嬢と同じ服装に同じ髪色、同じ髪型。典型的な帝国貴族の姿だ。清楚で健康的な肢体の十代後半の美少女に、その後ろから一緒にのぞき込んでいたメリハリの効いた肉感的な身体の二十代前半の美女が囁きかける。

「サミア様、どう? 聞こえる?」

「えーと、騒がしくてよく聞き取れないんだけど……三番目と四番目は男の子か犬や猫が良いなあ、とか言ってた……みたい?」

「……超マザコンでロリコンな上に、さらにショタコンでケモナー……? あとはシスコンも発症していたらグランドスラムじゃない……」

 帝国からシルチス国王の三番目と四番目の妻になるべく派遣されてきた美少女と美女は顔を見合わせた。

「噂には聞いてたけど凄いわね、シルチスの王様って」  

「どうしよう、私たちには全然興味が無さそうよ」

「どうしようっていったって……私たちだって父上のメンツもあるんだし、『はいそうですか』と帰るわけにいかないわよ」

「そうだよねえ……」

 バルガスの好みドンピシャな二人は、意気消沈してため息をついた。

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