第07話 ちょっとラテンなノリのアメリカンハードコアプロミスクラッシュ

 恋人のジュリエット宅を訪問したロミオはいきなり婚約破棄を突き付ける……。


   ◆


「チャオ、ジュリエット! ああ、今日も綺麗だよ。君の美しさにはどんな宝石も敵わないね!」

「いらっしゃいロミオ! ああ、貴方も今日もいい男だわ! 歌劇の俳優なんて目じゃないわ!」

「それを言いたいのは僕の方さ! どんな女神も君の足元にも及ばないね! こんなに素敵な君がぼくの婚約者フィアンセなんて、ああ、僕はなんて果報者なんだろう」

「それを言うなら私は貴方と出会えた幸運だけで神に毎日感謝しても足りないくらいだわ!」

「ああ、ジュリエット……!」

「ロミオ……!」



 キスで五分。



「はああ、素敵なキスだったわ、ロミオ……」

「僕もクラクラ来てしまったさ、ジュリエット」

「それで今日は急にどうしたの?」

「ああ、そうだった! 君のあまりの輝きに忘れるところだったよ!」

「もう、ロミオったらうっかりさん」

「あははは! そうそう、今日来たのはね、婚約を破棄するためさ!」

「まあっ! いったいどうしたのロミオ!」

「君の今までの数々の罪を見逃すことはできない! だから君との婚約を破棄するんだ!」

「おおっ、ロミオ! 私の罪ってどんなことなの!?」

「そうだね、すぐに思いつくのは……美しすぎる君の美貌とか、男の視線を独占してしまう素敵なスタイルとか、世界中の女たちを嫉妬させるそのチャーミングな笑顔とかかな!」

「ああ、ロミオ! 私は罪作りな女だわ! でもそれは全てあなたに捧げられたものなの!」

「おおっ、ジュリエット! 僕は君に罪を犯させてしまったのだね!」

「ロミオ……!」

「ジュリエット……!」



 またキスで五分。



「ああ……もう貴方のキスは私を溶かしてしまいそう」

「ぼくもさジュリエット。君といると昂ぶりを抑えられないよ!」

「ロミオ……!」

「ジュリエット……!」



 ソファの上で一時間。



「素敵な時間だったよジュリエット……!」

「ええ……夢のような一瞬ね……」

「それで、何の話をしていたんだっけ?」

「ええと……ああ、確か婚約を破棄するってお話だったわ!」

「ああ、そうだった! とりあえずコーヒーでも飲まないか?」

「そうね、ちょっと喉が渇いたわね。今淹れるわ」

「ありがとうマイスイート!」

「うふふ、どういたしまして」



 コーヒーブレイク三十分。



「それで、どうして婚約を破棄するんだっけ?」

「うん、実はね……今、愛し合っているカップルが新しいステディを作ってパートナーに婚約破棄を宣言するのが流行っているんだ。『メンズカクヨム』に書いてあったんだよ」

「まあ、ナウなヤングがみんな読んでるイケてるアダルト情報誌ね! それなら確実だわ」

「だろう? だから僕は最愛の君に婚約破棄を宣言しなくちゃならないのさ!」

「そうだったのね! ああ、愛し合ってる恋人同士が別れなくちゃならないなんて、凄い悲劇だわ……!」

「まったくさ、ジュリエット! なんていう悲しい運命なんだろう……!」」

「ロミオ……!」

「ジュリエット……!」



 またソファで二時間。



「ああ……悲劇的な私たちの運命で燃え上がってしまったわ」

「僕も凄く燃えてしまったよ! 恥じらう君はすごくかわいかった……」

「もう、ロミオったら! そんなことを言われては恥ずかしいわ」

「そんな君が凄く魅力的だよ……」

「ロミオ……もう夜だわ。私なんだかまだまだ足りない気分なの……難しい話は明日にして、とりあえずもうベッドに入らない?」

「そうだね、君の言う通りだ。ベッドはもちろん一緒に?」

「うふふ、当たり前じゃない!」

「よーし、今夜は眠らせないよ?」

「もうロミオったら……ジュッテーム!」

「僕もさ、モナムール!」



 寝室で一晩。



「ロミオ! ローミオ! ここにいるの!?」

「あら、ロミオにお客様?」

「あれ? イゾルテ? なんでジュリエットの家に?」

「どなた?」

「ほら、昨日話していた婚約破棄の為に付き合い始めた新しいステディさ」

「あらら、私初めて会う方だわ」

「おおロミオ、ここにいたの……まあ! なんで女と二人で裸でベッドに入っているの!?」

「おはようイゾルテ。昨晩はジュリエットとベッドで歓談していたのさ」

「裸で?」

「ベッドに男女二人で入るんだよ? 裸じゃないとおかしいじゃないか」

「まあ、道理ね。それでこちらはどなた?」

「もともとの恋人のジュリエットさ。それでここへはどうしてきたの?」

「ロミオのお家へ行ったら昨日から帰ってないっていうから、行った先を聞いて廻って来たの。ロミオはジュリエットに何の用?」

「婚約破棄をしに来たのさ」

「まあ、私の為に?」

「そうさ、かわいいイゾルテ」

「もうロミオったら……それでどうなったの?」

「愛を再確認したよ」

「まあ、ロマンティックね! でもロミオ、もう準備しないと今晩は舞踏会だわ」

「ああ、そうだった! どうしよう、婚約破棄もすんでないのに」

「まあまあ、とりあえずブランチでもしない? 二日煮込んだラグーソースがあるの。パスタを茹でるわ」

「いいね!」



 食卓で歓談すること二時間。



「ああ、いい心持ちになっちゃったな」

「うふふ、ワイン4本は開け過ぎたかしら」

「あら、三人で初めての食事会よ? お酒が開いちゃうってものだわ」

「それもそうね」

「それで、何の話をしていたんだっけ?」

「そうそう、婚約破棄の話だったわ。あたしとイゾルテがするんだっけ?」

「そうだったかな? 僕とじゃなかったっけ?」

「あれ? 私とロミオじゃなかった?」

「参ったな、どれにしよう?」

「こういう時、『メンズカクヨム』にどうしたらいいか書いてない?」

「ええと、ちょっと待って……うーんと、これか? 『三角関係になった時はベッドのテクで勝者を決める』ってのがヤパーノで流行りのルールだそうだ」

「まあ、それは頑張らなくちゃいけないわ」

「うふふ、ロミオがしたいだけじゃないの?」

「アハハ、だってこんな魅力的な二人を選ぶんなら僕だって頑張らなくちゃ」

「もう、ロミオったらぁ! さっそくお風呂で磨いてくるわ!」



 また寝室で四時間。



「おーい、ジュリエット! いるのかーい!」

「あれ。ジュリエット、誰か呼んでるよ?」

「うーん、誰え?」

「わからないなあ? ついでに今自分がどうなっているのかもわからない」

「えーと、そうそう、私とロミオとジュリエットでファイト爆発している間に疲れて寝ちゃったんだったかしら」

「ああ、そうだった。日が暮れた頃までは覚えてるんだけど」

「あたしも。ああ、そうそう、あの声はトリスタンかしら」

「誰だい?」

「えーとね、もう一人のステディなの。『カクヨム自身』で『乙女は彼氏に秘密で浮気すると綺麗になる』って特集があったから頑張ってみたわ」

「あのモダンガールにバカ受けのレディース情報誌かい? それなら確実だね」

「ああ、ジュリエットいたいた! って、これは何の騒ぎだい!?」

「ハイ、トリスタン! 今ロミオとイゾルテと婚約破棄バトルロワイヤルをしていたの」

「裸で?」

「裸じゃないとできないわ」

「婚約破棄でバトルロワイヤルなのかい?」

「そうよ。『メンズカクヨム』でお勧めだったんですって」

「それなら確実だね。で、こちらはどなた?」

「えーとね、あたしのもう一人のステディのロミオと、ロミオのもう一人のステディのイゾルテと、あたしがロミオのステディのジュリエット。で、こちらがあたしのもう一人のステディのトリスタンよ」

「なんだかよく判らないな」

「ちょっと難しいわね」

「難しく考えるからよくないのさ。問題を整理しよう」

「うん」

「そうね」

「そうだわ」

「大事な点だけピックアップしよう。ここにはベッドがあって、今はそろそろベッドに入る時間で、そこにいるのがステディな関係の若者が四人で、女が二人と男が二人だ」

「なるほど、計算はあってる」

「というわけでやることは一つだ。トリスタン、早くひとっ風呂浴びて来いよ」

「そうだな、急いで行ってくるよ」



 また寝室で一晩。



「ああ~……おお、結構遅くまで寝てしまったな」

「うぅ~ん……あん、おはよう。仕方ないわ、夜明けまで頑張ったんだもの」

「あふあ……昨日からさすがに頑張り過ぎたわ。もう身体がクタクタよ」

「おはよ。えーと、何がどうなっていたんだっけ?」

「何かをしに来て……なんだっけ?」

「うーん、なんか言ってた気がするんだけど……あ、舞踏会行くんじゃなかった?」

「あ、そうか……て、もう昨日の話か」

「そうそう、僕はジュリエットを夕飯に誘いに来てたんだった」

「そう言えば昨日はお昼の後から食べてなかったわね。なんだかペコペコになって来たわ」

「あっ、ラザニアの上手いヤツを出す店があるんだけどブランチに行かないか?」

「いいわね! 良く冷えたグラッパと合わせて」

「ああん、聞いたらもう待ちきれないわ。すぐ行きましょう」

「あ、僕の乗って来た馬車で行こうよ! すぐにジュリエットを乗せて出るつもりだったから、門前に停めてたの忘れてた」

「もう、トリスタンのうっかりさん」

「よーし、問題も解決したし! 汗を流してすぐに行こうぜ!」

「イエーッ!」

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