第五話 寺院跡
アンディは不本意ではあったものの、ショーンに断りを入れ、後ろ手にロープで
「痛くはないかい?」
捕縛するロープの痛みを
「疑われないようにするなら、もっとキツく縛った方がいい」
自分への気遣いを察して、少し気恥ずかしさを感じたアンディは、頭を
「別に
長の元へ連れて行くのだから捕縛されるのは当然だ。と言うか何もせずに連れ歩こうとしているアンディがどうかしていると、ショーンですらそう思っていた。
リンもゴローも、行商団のメンバーも、アンディの甘さとも言える優しさに半ば
行商団の作業をゴローに任せ、アンディとリンは、ショーンを連れて
今までは集落には襲撃と略奪を目的として来るだけで、こうして集落の中を歩いて
長の家の付近へ来ると、長は家の前でアンディを待っていた。
「その男が賊徒か。思ったより小さいな」
また背格好のことを言われ、ショーンはあまりいい気分ではなかったが顔には出さないようにした。
「はい、お手数をおかけします。えっと、着いて来る自警団員はいないんですか?」
アンディは慎重な長のことだから、自警団を護衛に呼んでいると思っていた。長は何故か自信に
「
リンが
「その通り。もしショーンが変な気を起こして暴れたりしたら、あたしがぶっ飛ばす」
そうなれば小柄なショーンはどこまでぶっ飛んで行くだろうか……何とも剣呑なことをさらりと言ってのけるリンに、アンディは苦笑いを浮かべる。
そのまま長の家には入らず、また別の
「俺を尋問したって、何も教えられることはない。兄貴たちは大勢死んだし、根城の場所だってどこだか覚えてないし……」
思わず口走って、ショーンは軽はずみに状況を話したことを後悔して口をつぐんだ。
長はふん、と鼻を鳴らして言った。
「お前みたいな下っ端から聞き出せることなんかタカが知れてる。我々は、無抵抗な相手に自尊心や支配欲を満たすような真似はせんよ」
ショーンにとって、長の言葉の意味は今ひとつ測りかねたが、それでも危害を加えられる恐れがないことはわかった。
アンディと長は、行商団が持って来た改良型のジャミングユニットについて話し合っていた。ショーンは何のことかさっぱりわからないので
像は上半身のみ現存していたが、基部から頭頂部までおよそ四十メートルの高さがあった。これで下半身も残っていれば百メートル以上の像ということになる。ショーンがバギーの後部座席で真似た指の長さでさえ、彼の身長の三倍以上はあった。手のひら全体では身長の十倍でも足りないほど大きい。
像の胸部は窓のような長方形の穴がいくつも開いており、人が入れる空間が内部に広がっている。窓には人影があり、そこから長やアンディたちがやって来る様子を見下ろしているようだった。
像の顔はただでさえ無表情なのに、半分欠け落ちていることが異様な冷たさを増長させ、片目からは見透かすような視線が投げかけられている気がして、妙にショーンの心を
最初は気のせいと思っていたが、巨大な仏像の下へ近づくにつれ、奇妙で不気味な抑揚をつけて呟くような声が聞こえ始めていた。ショーンにはこの世のものとは思えぬ
ショーンの顔が引き攣ったのを見て、リンが補足説明を行った。
「あれは
リンに説明されても、それがどう言うことなのか頭に入って来ない。正体不明の
思わず口から不安を表す言葉が
「ひ、人なのか……?」
長とリンは、とても賊徒の言葉とは思えず、失笑してしまう。何故笑われたのかショーンはわからなかったが、その様子を見てそれほど危険なものではないことを知った。
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