第二話 邂逅
怪我と極度の疲労によって判断力が落ちていたとは言え、気づくと自分の知らない土地を歩いていた。まるで別の世界にいるような感覚に襲われたが、引き返す勇気が出ない。
それでも痛さを
このまま進んだところで、ロクでもない未来しか待っていないことに
しばらく
エンジン音の正体は行商の一団が乗るトレーラー一台と、バギー二台と言う構成で、この時代の行商としてはかなり大きな規模だった。
先導するバギーの一台、その助手席に座る若い女が双眼鏡で集落の様子を窺っていた。
「集落に変わった様子はないようね」
バギーを運転する若い男が答える。
「傭兵団の作戦で賊徒が散り散りに逃げ出している可能性がある。リン、気を抜かずに進もう」
なおも双眼鏡を覗き続けていた、リンと呼ばれた若い女が、地面に倒れ伏した男の姿に気づいた。
「あ〜。アンディ。集落の近くに、人が倒れてる」
運転手は眉間に
「罠の可能性は低いけど……僕たちが先行して様子を見に行こう。ゴローたちには速度を落としてもらって、問題がなかったら来てもらおうか」
「わかった」
リンは、コンソールのモニターに向かって話し出す。
「集落の前に人が倒れてる。念のため、あたしとアンディが先に様子を見て来るから、ゴローたちは待機してて。問題なかったらコールするから」
トレーラーと並走しているバギーの助手席にいる若い男が返答した。
「ほい、了解。それじゃみんな、トイレ休憩にすっぞ」
「バカじゃない? ちょっと気を抜き過ぎ」
怒り心頭で回線を切るリンに、アンディは苦笑いを浮かべた。
アンディのバギーがブレーキをかけ、
アンディが声をかけた。
「君……大丈夫かい?」
「……息をしていないようね。怪我もしてるみたいだし、死んでるのかな?」
リンの言葉に、死んだようなものだ、早く行ってくれ、と男は心の中で願った。息が続かない。
「発汗の後が見られるね。死んでるとしても、ついさっきまで生きていたかも知れない」
アンディとリンが男を取り囲むようにしてしゃがみ込む。
「熱中症かな? とにかく脈を……」
リンが脈を取るため男の腕に触れた途端、男は
「……ブハッ!」
いきなり息を吹き返した男にリンはびっくりして飛び
「おっ、生きてたね」
男は観念して起き上がった。疲労の残る身体で長い間息を止めていたので、肩で大きく深呼吸を繰り返す。そうしながらも、男は警戒心を
「見たところ、あちこち怪我をしてるようだが……」
「……集落の人間じゃない……よね?」
リンの指摘に、男はギクリと顔を引き
「ふふ、わかりやすいわね」
「武器どころか何も持っていない。賊徒の罠なら、そろそろ連中が現れてもいいはずだが……かと言って集落のど真ん前で仕掛けるのは
アンディは立ち上がって周囲を見回す。罠ではなさそうだとわかっても、どうしてこの男が死んだフリをしていたのかを
男の方は気が気じゃなかった。賊徒と気づかれた以上、恐らく無事では済みそうもない。男は今までに襲撃した行商や集落の人々のことを思い出した。まさに自分の置かれている立場が、その人々と同じだと思い至り、生きた心地がしない。
「で、どうする? こんなに縮み上がってると、流石に気の毒に思えるんだけど……ゴローが知ったら絶対『生かしちゃ置けねえ!』とか言うだろうし」
いつもなら自分たちが
アンディは男に
「一応、聞くが、この辺りに君の仲間は潜伏してたりするかい?」
男は首をぶんぶんと横に振って否定した。
「ひとまずは安全そうかな。リン、ゴローたちに連絡してくれ」
「わかった。この男については話しといた方がいいかな?」
「う~ん。
「だよね。了解」
リンがバギーの助手席へと戻って行く。アンディは男に言った。
「僕らに危害を加えるつもりでなければ、
男は、それでもまだ信じられなかった。自分のして来たことを考えると、そんなに簡単に許される訳がない。
「そうだ、君の名前は?」
不意に名前を問われ、男は目を白黒させて戸惑ったが、ポツリと言った。
「……ショーン」
その様子を見て、アンディは幼い頃の自分を思い出し、苦笑した。
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