第二部 過去の手枷、未来の足枷
第一話 賊徒
男は、行商人に随行する用心棒のような仕事をしていた。
人を殺して生きている。その意識は常に男の
集落に着くまでに、一度賊徒に遭遇した。賊徒たちは
男は
現れ
男は最低限の
「あいつら、
行商人のひとりが男に問う。あのまま逃げても、賊徒は賊徒だ。その内また徒党を組んで同じように行商や集落を襲うだろう。行商人が言うのは
「バカは死ななきゃ
この稼業に
日々を生き抜く、明日を生きる希望……。
その存在が
・・・・・・・・
男は昔、集落の人々からは賊徒と呼ばれていた一団に属していた。若い
賊徒に
生き抜くために力が必要だった。
力さえあれば、他者を、弱者を
若かった男には、人として生きる意味を考えることも、意識もなく、そんな生き方に違和感を覚えることがあっても、今日の食事、明日の食事にありつくために、ただ力に
ある日、賊徒たちは自分たちが
かつては街だった廃墟の間を、行商人たちが周囲を警戒しながら進んで行く。護衛のひとりが
賊徒たちは自分たちの存在が感知されているとも知らず、廃墟に身を隠して獲物が通りかかるのを待ち受けていた。
行商人の一行が接近したのを確認したお頭が、配下に手を上げて『行け』の合図を送る。全員が廃墟から飛び出し、一行の前に立ち
お頭は悠々と廃墟から姿を現し、いつもの口上を怒鳴り散らした。
「死にたくなきゃ、荷物と武器を置いて行け!」
配下たちは笑い声を上げて、手にした武器を構えた。
護衛のリーダーらしき人物が、一行の前進を制し、手にしていた武器を地面へ投げ捨てた。その様子を見て賊徒の配下のひとりが笑いながら
「
上空からパッと閃光が走り、光束が配下の頭を
配下の誰かが叫んだ。
「ドローンだ!」
行商人と護衛の一団は、荷車をその場に残し、来た道を走り戻って行く。配下は逃げて行く一行に向けて銃を撃ち込んだが、どれも命中しなかった。その間に賊徒のお頭は近くの廃墟の影に隠れ、そして配下に命じる。
「まずはドローンを撃ち落とせ! ドローンを片付けたらあいつらの荷物をゆっくり回収すりゃいい」
配下も手近な
「お頭ぁ、なんかおかしいぜ、ドローンが次から次に現れやがる!」
賊徒のお頭もこの状況に焦りを感じていた。あまりにも手際よく行商人たちが撤退して行ったのも気になったが、まずはこの状況を打開するための方策を考えていた。
「誰かジャミングユニットは持ってねぇのか?」
「カンが持ってたはず」
配下が答える。
「カン、
カン、と呼ばれた賊徒の返事はない。
「誰かカンを探せ!」
お頭ががなり立てるが、誰も物陰から動く気配がない。動きがドローンに察知されれば撃ち抜かれるのがわかっているから、賊徒たちは動くに動けないのだ。
ジリ貧になって追い詰められたお頭に、急に何かが
「おい、ショーン、ここから出て、お前がドローンを引きつけろ」
男は生きた心地がしなかった。
「お頭、
泣きそうな声で
「今まで俺たちが面倒見てやってたんだ。この恩に
「お頭……」
「お前はいつも足手まといなんだよ、このクソが! さっさと行かねえんなら、俺が殺してやろうか?」
銃口を向けられ、男は一気に血の気が引いて行くのを感じた。下っ端とは言え、共に生きて来た仲間だと思っていた。自分の居場所だと思っていた。絶望感に後押しされて、男はよろよろと立ち上がった。
「武器は置いて行け。役立たずに持たせておくのはムダだからな。できれば泣き
お頭の言葉が男の胸に氷の刃のような冷たさで突き刺さる。あまりの衝撃に手から武器が滑り落ちた。目の前の現実に打ちのめされた男は、そのまま無言で廃墟を飛び出した。すぐさま数機のドローンが男を捕捉し銃撃する。足元の瓦礫が弾け飛び、男は恐ろしさに叫び声を上げて走り出した。
なおも銃撃は止まず、その内の一発が男の右肩口を
男は、このまま逃げ続けても廃墟の街を抜けると
覚悟して待っていたが、男を追跡して来ているであろうドローンはいつまで
男は痛む肩と足を気にしながら歩き出し、廃墟を後にした。
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