第5話 変化と贈り物


 最近、両親があからさまに僕の事を怖がるようになった。


 理由は多分、僕が1人で森に毎日通っているから。何せその森はキアが食い殺された場所でもある。そこに毎日通う、死んだキアがいるという息子。


 傍から見たら充分狂人だ。


 ポケットの中生活も慣れてきたキアもどきが手をポッケに引っ掛けるように伸びている。随分だらけた様子だけど、落ちることを考えていないんだろうなぁ。


「キアもどきはどう思う、うちの親」

「?」


 最近表情が浮かぶようになってきたキアもどきは面倒くさそうに首を傾げてくる。小難しい話は嫌だと不貞腐れるキアにそっくりだ。ムカつくので頬を引っ張りながら再度、問いかける。


「僕を怖がるのはいいんだよ、もう諦めたから。でも、あの二人って良くも悪くも相手に合わせるの得意だからさ、やっぱり早く出てけって言われそうな気がするんだよね」


 こくこくと頷くキアもどき。

 同意見らしい。


「正直、今出てけって言われなければそろそろ準備も終わりそうなんだけどね」


 この三ヶ月、森に通った成果は上々だ。

 狩りも滞りなく行えているので、野宿になっても生きていけると思う。一応そのうちに森に寝泊まりしてみようかとは考えている。練習は必要だから。


 あと、あの泉の件。あちらも恐らく問題ないと思う。


 毎日量にばらつきはあるものの祭壇っぽいものには木の実とかを置いている。最近は向こうも慣れてきたのか僕がいても泉の中で目がゆらゆら動いているのが見える。あと遊んでいるのか時々渦を作るように泉がぐるぐると流れを作る。


 最近のキアもどきのお気に入りはあの泉を覗き込むことだが、泉の主が気にしているのか今まで落ちたことは無い。割とすきかって暴れている気がするので叱ってもいいと思う。少しずつキアらしくなってくる小さな暴君の頬を抓るのは最近の日課になってきた。


 そして今日、またいつも通り泉に行くと異変が起きていた。いつもの祭壇っぽいものの近くに石が落ちていた。


 それだけならなんでもないと思うのだけど、やたら綺麗で、手に取ってみるとやはり綺麗で、原石なのに太陽の光に透かすときらきらと光を放つ。


 泉を思わず見るとこちらの様子を伺っている二つの目が水の中にうっすら浮かんでいる。


「…貰っていいの?」


 ゆっくりと瞬きする泉の主に感謝を伝え再度掌の上で恐ろしく綺麗な石を転がす。


 これは、しっかりと隠さないと僕が死ぬ気がする。


 村の人に少しでも勘づかれたら終わりだけど、少し人の多い所で信頼のおける店とかで売ってお金にすれば相当余裕が出るはずだ。


 ただ売る前に正規の護衛を雇うか、僕がそれなりに戦えなければならない。


 素人の目から見てもこの宝石は恐ろしく価値があるものだと分かるのだ、本職からしたら一体いくらの値が付くのか…。


「本当に、ありがとう」


 石をぎゅっと握って、反対の手を泉に恐る恐る入れると、何かが指の間をすりぬける感覚があった。どうなっているかは分からないけれどもうこの泉の主は僕を認めてくれているらしい。



「でも、なんで急にこんな贈り物を…」


 今まで姿を見せることはあっても干渉をすることは無かった。キアもどきが泉の主とまたじゃれているのを見守りながら考える。


 多分、泉の主は何らかの力が使える。それは予想通りではあった。だけどそれなりに警戒心もあったし、僕の前に姿を現す様になったのも通うようになって1ヶ月後位からだった。


 理由がない訳がない。


 ─────それはまた1ヶ月たった頃に確信に変わった。



 泉にいつも通り足を運んだ時、剣がぽつんと祭壇の前に置かれていた。


 パッと見汚れているが鞘から抜いた刃の美しさや試しに切ってみた葉っぱの様子からびっくりするほどの価値がある剣だ。


 また同じように泉の主は僕を見ていて、僕が感謝を伝えると、目を細める仕草をした。


 嬉しいのに不安が湧き、剣を泉の近くの大きな木のウロに隠す。宝石は首から下げれる袋に下げていて肌身離さずにいる。


 日課の祭壇に木の実を捧げて、棒振りをして…繰り返してまた一ヶ月たった頃。


 見たことの無い作りの綺麗な服がワンセット、畳んで祭壇の前に置かれていた。長いローブのような物まであり、思わず泉の主を呆然と見てしまった。



「…これは、出来るだけ早くここを出ろってことなの?」


 泉の主が肯定するようにまた目を細めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る