第4話 祭壇っぽいもの


 僕にとって神様は形が無いものだ。



 こんな地図に乗っていない流れの神官様すら意外がる様な、辺鄙な村には教会なんてものは無い。勿論、神様という存在がいるというのは聞いたことがあるし、少なくもある本にも書いてある。ただ土地が変われば名前も変わってしまう神様の姿形ははっきりとイメージできず、そのままを受け取り形の無いものが神様なのだと僕は受け入れた。


 困った時には助けてくれないけど、僕らが生きる土地にそれよりも前から、むしろ土地ができる前から居た神様。


 すごい力を持ってすごいことが出来る。ただ、人前には出ないけど。ちゃんと祀らないと祟ったり、災いが起きたりするってなんだか面倒な存在だと思っているしそれでいい気もする。


 恐ろしくも未知のものを神様と呼ぶのならもしかしたら泉には神様が住んでいるのかもしれない。なんの神様で、いつから居るのか全く知らないけれど。


 神官様が話してくれた教会のようには行かないが、それっぽいものは出来るかもしれない。生きる術を磨くのに人が来ないあの泉は都合が良いし、神様じゃなかったとしても泉の主に悪い感情を抱いて欲しくはない。


 最初に大きめの石を転がしてくる。持ち上げようとはしたがビクともしなかった。自分の細腕が初めて憎らしい。


 ごみ捨て場にあった取っての消えた土鍋を持ってきてできるだけ綺麗に洗ってから水を貯めて石の上に置く。家を作る時に使う粘土で縦に長い小さな器を作り固めて何日もかけて乾燥させ、焚き火をした後のまだ火が消えていない灰の中に放り込む、そのまわりに炭を置いてじっくりと焼いていくと随分と縮んで所々亀裂が入ってしまったが土の器ができた。


 かっこよさもなくて、綺麗でもない、大人が作るより脆いだろうそれは僕にとっては力作だった。それに思った以上に面倒だったのでもうやりたくない。


 石の左右にセットして狩りで取った肉から作った油を少量入れて古布を細く長く切ったものを入れると焚き火から火を移した。


 石の上には水の入った鍋だったもの。左右には火。そして最後に鍋に張った水の上に果物を浮かべる。少し経ったら腐ってしまうので取って食べてしまう予定だけど出来るだけ美味しそうなものを選んだ。


 とりあえず膝をついて手を合わせ握ったところではて、と固まる。


 良く考えたら大した望みはなかった。これも自己満足でしかないし、場所を借りる代わりとして捧げる意味合いが強い。


 キアもどきがポッケの中から僕を見上げてくる。


 でも、…強いてあげるなら。


「僕の馬鹿で五月蝿い幼なじみのキアが帰ってきますように」


 これくらいしかない。


 神様は願いを叶えると言うよりも見守る存在なのだと神官様は言っていたけど、僕が作った祭壇だ。これくらい許して欲しい。



 また、変に泉の水がうねった。でも、覗き込んでみても目が合うことは無かった。勿体ないので火を消して雨水が入らないように石で蓋をすると鍋の水にうかべた木の実を回収する。


 いっぱい動いてお腹すいたので新鮮なうちに食べてしまいたかった。


 …でも食べた木の実は味がしなかった。少しの悪戯心ですごく酸っぱい果物も入れてたんだけどそれも全く味がしなかった。


 やたら汁は出てくるので喉を潤おすことはできたが。


「不味い…」


 キアもどきに与えようとしたが首を振り受け取ろうとしなかった。食いしん坊のキアもどきすら食べないのだから、食べちゃダメだったかもしれない。今更ながら後悔しつつ木の根元に回収した果物やら木の実を入れ土を被せた。栄養になってくれたらいいけど栄養が残っているのかすも謎だ。


 なんとも言えない気持ちになりながら家に帰ろうとした時、ちゃぷんと泉の方から音がして振り返るも、やはり特に変わりはなかった。



 ひとつ学んだのは祭壇に捧げた食べ物は食べない方がいいってこと。…不味いから。

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