32.銀のティアラも素敵 紅白ドレスも素敵

 随分沢山の人が来てくれている。

 乾杯の練習、という奴か。もう出来上がり始めてる奴もいる。ウチの会社は酒飲みが多い。


「いや~、こういう格好、慣れないっすよ」

「どうしてどうして、男前に磨きがかかってるぞ?」白いスーツのレイブ。結婚する4人の花嫁は周りの女性陣から随分と恨まれそうだ。

「魔導士殿こそ」「私なんか会社にいつもスーツで行ってるから代わり映えしないよ」

 こっちもスールだが、いかんせん出っ張ったビール腹は中々どうしようもない。こっちの嫁さん達は周りから同情されるかも。


「ちょっと向こうを見てみるか?」

 新婦控室へコッソリ向かうと…


「ほわ…ほわぁ~…」

 そこには美しく着飾ったクレビー。純白のドレスに銀のティアラ。ティアラからベールが綺麗な髪を包んでいた。

 更にホーリーも頭を白い花の髪飾りで飾り、胸元には真珠のネックレス。

 シルディーも長身を生かしたマーメイドラインのドレス。胸元も大胆だ。眼が吸い込まれそうだ。

「綺麗だぁ…」茫然とするレイブ。

「ちょっと!本番まで待っててよね!」照れるクレビー。だが、嬉しそうだ。

「皆綺麗だ…生きててよかった…」


「もう!そんなに言うなら…そうだ!オッサンの方はどうなのよ!」

「あ、私も見たい!」「賛成!賛成!」三人の花嫁が隣の控室に行くと。


 そこには、深紅のドレスが褐色の肌と対照的に燃える様な美しい花嫁達がいた。

 普段余り見る事の無い無垢な笑顔のフラーレンが「いやだぁ!まだ準備中なのにぃ!」と照れながら微笑んだ。

「やっとウェディングドレスを着れたわあ!しかもあんな脳筋貴族なんかの為じゃなくて、あなたのためにね!」

 可愛い。結婚には紆余曲折あったフラーレンが、今幸福の絶頂にいる。

「なんであんたと一緒なんだかわかんないけどさ!」

 と視線を遣る先には控室なのにシャンパーニュ飲み始めてるジェラリー。おい。

「まあ、これも私のお蔭?」「ちが…まあそういう事にしといてあげるわよ、今日だけはね!」「うひひ」

 仲良しさんだな。

「私の様な平民が…こんな豪華なドレスを…」真っ赤になって照れているライブリー。

「あなたも眼鏡取りなさいよ。折角の切れ長の瞳をさ、もっと」

「ありがとう。でも、ご主人様は眼鏡がお好きなので…」解ってらっしゃるライブリーさん。

「隊長もイコミャーちゃんもステキー!」「んっ!アンタたちもよ!」「うれしいなもー」

 決死隊の娘にひやかされて照れるエンヴォー、イコミャー。

 いや、決死隊の君達だって可愛い。みんな無事でいてくれて、ここに居てくれてありがとう。


「そろそろ時間だよ」


******


 司会席に立つのは、長く世話になった『同僚』。

「皆様、本日はお日柄も宜しくお集まり頂きまして誠にありがとうございます。只今より新郎新婦が入場します。どうか拍手でお迎え下さい。新郎新婦、入場!」

 高らかに鳴り響く團〇玖磨作曲のファンファーレ!


 レイブ達、そして私達、総勢21人の新郎新婦が壇上に登る。

 拍手喝采で迎えるのは、皆が過去に友と慕った人達。

-だが、魔王も、ササゲーさんも、礼武の家族も、デファンス王もいない-


******


「それでは宴も酣ですが、新郎からの言葉を頂きましょう」


「みんな。俺の未来を祝福してくれてありがとう。

 みんなの顔を久しぶりに見れたよ。本当にうれしいよ」

 レイブが語る。

「でも、俺は皆の顔を思い出せないんだ」

 この場にいる招待客の、顔が消えた。


「俺は戦いの最中だ。まだ結婚している場合じゃないんだ。

 幼稚園の時のみんな。小学校の時のみんな。もう会えないだろう。でも!

 俺はここで戦って、彼女達を幸せにして見せる。

 もしこの気持ちが俺の故郷に繋がっていたら、みんなが俺の事を少しでも思い出してくれたら、嬉しいかな」

 クレビーも、ホーリーも、シルディーも、表情を引き締め、顔の無い招待客に眼差しを向けていた。


 私も、過去の妻達や育てた子供達、の様な、違う様な顔の、どこか懐かしい招待客達に向かって頭を下げた。

「この度は、こんな、『あって欲しい未来』を見せてくれてありがとう。

 でもレイブが言う通り、私達はまだ戦いの中だ。勝って、元の世界に帰る。

 二度と彼らの世界に邪魔する事を許さない、完全な勝利を掴んで、帰る。

 そうなる様に祈ってくれ。

 司会の彼に、感謝を捧げる」


 司会席の『同僚』は微笑んで、式場の時間が止まった。

「正直ここまで大事にしたくはなかったんだが」と彼は肩をすくめた。

「したのは君達の側じゃないのかな?」と突っ込むと『同僚』は応えた。

「君達の世界に干渉した責任は、あの愚かな連中にある。

 しかし、残念だが、低位の次元の生命と我々の存在を同位に語る事は、私達の次元では出来ない」


 怒ったレイブが叫んだ。

「お前達の次元の連中が!魔王を作って俺をあの世界に呼んだんだろうが!

 お蔭で何人死んだ!俺だって何人殺さなきゃいけなかったんだ!

 戦いたくなんて無かったんだよ!戦わせやがって!責任取れよ!」

「なかった事にはできるんだ」『同僚』がレイブに静かに語り掛けた。

「元の通りにするのは簡単なんだ、私達は低次元の時間も、存在も、操作できるんだ」

 多分『同僚』は解って言っている。レイブも、怒りを収めていない。

「でも君は、君達はそれを望んでいないだろう」


「あたりまえだ!今更なかった事になんか!…できるかよ」

 レイブは過去の戦いの記憶を噛みしめながら、叫びが静かな想いに変わっていった。

 フラーレンが『同僚』に言い放つ。

「戦って死んだ人の事をなかった事なんか出来ないわ。それは冒涜って言うの」

「そっちが出来るのは犯罪者の引き渡し、そして今私達の世界で生きている人への償い。

 そして再発防止の徹底。それだけ」

 ライブリーが静かに怒りながら言った。


 彼は披露宴会場から次の間に私達を招いた。私は皆に頷き、それに従う。

 そこには。


******


「ぱあぱあ~」とととと、と走って来る、3歳くらいの女の子。

「あ~、ちーちゃん、帰って来たよー!」笑顔で娘を抱き上げる『同僚』。

「待てよ!私の時はくるっと回れ右してったぞ?」

「ははは!ちーちゃんはどうも面食いの様だな!」

「あらあらいらっしゃい、いつも主人がお世話になっています」

 前回は妻であった夫人が、私達に事もなげに挨拶する。

 一同は公団住宅の団地に入る。20人以上が団地の居間で寛ぐ。空間が自然な様で不自然に広がっている。


「レイブ君、フラーレンさん、ライブリーさん。君達の勝利だ。

 私達が常識だと思っていた事は間違っていた」

「そっちの常識って何なの?」エンヴォーが聞く。

「高次元から操作可能な低次元の存在に自我も尊厳も無い、命も運命も如何様にも操作可能だ、って思い込みだ。

 だが、君達は私達に抗い、私達の世界を破壊して見せた」

「あ~か~い?」「は、か、い。だよ?」『同僚』がちーちゃんをあやすのを見て、クレビーやフラーレンがちょっと笑った。

「さっきの騒ぎで私達は多くの物を失った。操作できる次元、操作できる命や存在そのもの。

 まあ、彼等は私達の手を離れて自由に生きて行くだけなんだけどね。

 そして君達への介入も暫くは出来なくなった。

 君達はこれからどうしたいんだ?」


 レイブが『同僚』に言い放った。

「俺達の世界を面白半分で戦わせた奴等を捕らえ、裁き、二度と同じ事をさせない、それだけです」

 彼の妻達が頷いた。私の妻達も頷いた。

「低次の世界への介入は止められない。必要があれば今後も行われるだろう。

 だが、恣意的に操作させる事の危険さは君達が立証した。

 かくいう私も、この世界を作ってしまったしね。この子もね」

『同僚』は、前回ここに来た時には私の娘であったちーちゃんを抱っこして手を握る。

 ちーちゃんはゴキゲンだ。畜生、私よりイケメンの方がいいよね!


「私はそれを法律にするため努力しよう。私自身、作り上げた『この世界』に責任を負わなきゃね」

「是非そうしてくれ」私はキャッキャと喜ぶ『元』娘を見て頭を下げた。

「犯人はどうするんですか?」レイブが言う。そして嘆く。

「犯人を捕まえて罰しなければ、また俺たちの世界は魔王と勇者の戦いに戻る!」

「私達は相互に独立し干渉できない存在だ。犯人に干渉できない」


 クレビーが嘆く。

「無責任すぎやしない?」

 だがレイブはくじけない。

「じゃあ俺達がやっつけて連れ帰る分には黙って見ていて下さい!邪魔はしないで下さい!」


「わかった。彼等の責任は彼らにある。君達の勝利を祈る」

 一同は溜息を吐いた。

 そろそろ決着を付けに行くか!

「じゃあ、行くよ。ちーちゃん、お邪魔しましたね~」

 一時であっても私の娘だった、可愛くもヘンテコな踊りを踊っている子供に別れを告げる。


「待ってくれ。もう一度君達に言いたい!」『同僚』がちーちゃんを抱きかかえて言った。

 団地から出ようとした私達は振り返ると、

「結婚、おめでとう。幸せをお祈りする」


 皆がさっきまでの夢を思い出した。

「ありがとう!」「あ、ありがと」「ご祝辞感謝致します」「あなたもその子を幸せにしてよね!」「ありがとう」「なんか頂戴よ」「ありがとう」「幸福な夢を見せて頂き感謝します」「あの酒えー酒だったがね!」

 一同、狐につままれた様な感じながらも、口々に『同僚』に別れの言葉を告げた。

 そして団地特有の、重い鉄の扉を開けると。


******


 マドーシンクロベーサーは見えないガラスをブチ破った様な衝撃を受けた!

 そしてそこは、360度がローマのコロセウムの様な場所であった。

 マドーシンクロベーサーからレイブの操るイセカイマン2号が降り立った。


 その前に歪んだ不定形の、人の様な形の者が現れた。


「来タナ?前ノげーむノ勇者!」

「異次元人というのはお前か?!」「そうだ!」

 怒りに震えるレイブ、その震えがマドーレムに伝わる。

「俺達の世界を争わせたのはお前か!」「そうだ!」

「徹底的にやるぞ!」「どこからでもかかってこい!」


 殴り合う二人?の巨人、だがマドーレムの技が決まる直前に敵は消え、反撃を受ける。

 転がっては穴の様な空間に落ち、敵を見失い、背後から討たれる!

 更に空間ごと振り回される。ピンチだ!

 どアップで笑う様な異次元人!


 これはまずいと思い「ちょっとトイレ~」と私は…

「貴方は行かないで下さい」フラーレンが止めた。

「もう、変身しないで下さいイセカイマン!」


 私とフラーレンがシルエットになり、後ろが皺立たせた銀紙を張り詰め輝いた様な空間になった、そしてラ〇マニノフじゃなかったシ〇ーマンのピアノ協奏曲作品24イなんとかが!


「ここまで助けてくれてありがとう。でも、私達の世界は私達自身の手で守らなきゃならないの!」

「そうよ~ここまで助けてくれたんだもの~」

「ご主人様は見ていて」

「皆もそう思うよね?」エンヴォーがスキスキ隊の方を見ると

 全員驚愕の表情で静止画になっていた!

「あ~、気付いとらんだったがね~」「「「マジ?!」」」


「何でもいいけどレイブ隊員がピンチなんだよ!ジュワっ!」と時間を停止しコルセットを以下略!

「うおまぶし」何度目かの巨大拳パースで異次元人をブン殴り、マドーレムを助け起こす。


「生意気ナ低次元ノ玩具奴!壊レタさーばヨリモット強力ナ、ほすとノ力ヲ見ヨ!」

 空間の一部が開き、巨大な鋏やドリル等の凶悪な諸々が飛び出した!だが、これはチャンスだ!

 イセカイマンが手先から光を放つ!それは元の世界からこの異次元の位置へ導いたビーコンと同じ光線だっだ!


「あそこが敵の本拠よ!マドーシンクロベーサー、突入!」

 鉄の鳥が緑の光線に向かって前進した。だがその先に禍々しい凶器が迫る!


 人々が暮らす世界を思いのままに操った不埒な異次元人と、最後の決着が付かんとしていた。

 どうする異世界、どうなる異世界!


…では また明後日…

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