29.君はイセカイマン2号だ!
五次元からこの世界を見下ろし、勇者と魔王を操って果てしなく争わせる謎の敵!
そしてこの世界にも、争いに囚われた人間の心が産んだ欲の蟲共が尖兵となって平和を壊す!
強く優しい心を持った勇者レイブと仲間達は、古の勇者が建設しながらも完成させられなかった、超光速タキオンエンジンの起動に成功した!
果たしてタキオンの力が齎す物は何か?!
******
私も勇者もある意味気楽であった。敵の次の策に備える余裕があったのだ。
反面、カナリマシ王国のアッタマーイ王は魔国との通商にウホウホしつつ悩ましい局面に臨んでいた。
ガカイヤーに賛同した貴族や神官の討伐である。特に王の処刑を宣言したエバリ公爵家とその係累は容認できないだろう。
私が「女子供は余程ヤな奴じゃない限り助命4649!」と頼んだのは寧ろ有難がられた。
きっと今後政局不安が生じた場合私にケツ拭かせるつもりだろうなあ。でも善良な女子供の命には替えられない。まああの男の係累に善良な人がいればの話だが。
カナリマシ・ツッカェーネ連合軍はエバリ領を制圧しエバリの家族を捕縛するも、首魁のガカイヤーとエバリ公本人は発見できなかった。
大体悪い奴は逃げ足が速い。奴等は既に南方の辺境国、カナリマシに敵対する国、ヒヨリミー王国に逃げていた。
******
「カナリマシの公爵が敵国にこんな立派な屋敷を持っていたとはな」
「あたりまえだ、ここはカナリマシじゃない、我が友邦たるヒヨリミーだ」
エバリ公は敵国にもパイプを持っていた。外観誘致罪モノだな。
「ここから周辺国へカナリマシが魔王に支配された事を吹聴して気を伺う」
「そっかぁ。俺が楽しむ女は頼むぞ、俺は新たな武器を手に入れるとするかァ!」
ガカイヤーの傍に並ぶ3人衆。ガカイヤーが3人の兜を外すと、美しい少女の無表情な顔が現れる。奴はその頭を増し掴みにし、魔力を注ぎ、過去の勇者達の武器を呼び出した時の記憶を読み取った。
「おもしれえ!まだ色んな武器が呼べるぜえ!あのクソヤロウを今度こそブッ殺してやる!」
この外道には、悲しい記憶を呼び覚まされた死せる少女の涙等、見えていなかった。
******
その時、神殿の地下は眩しく光っていた。
「見て!このタキオン加速器のシステムの下に、起動可能な他のシステムが表示された!」
ホーリーが示すモニターには、「接続システム」「推進システム」等が緑で表示された。
接続、推進、しまった心が躍る!だが…
「製造システム」だけオレンジだ。「ホーリーそこを押して」「わかった」ポチっと押すと…
「素材がいくつか足りないみたいね、ミスリル、オリハルコン、鉄、銀…」「どこにブチ込みゃいいんだ?」
「待って!」クレビーが別のパネルを示すと
「ここ!緑で点滅してるとこ、『合金プラント』?でも延べ棒で数千も要るみたい!」
「よし、行って来る!」「え"まさかあの空間収納…」「ちょっとあの人怖くなってきた」
クレビーとホーリーに「君達今更だよ」と軽く笑顔を飛ばして。
私は地図に示された錬成装置に空間収納に格納した素材を数百トン規模でボンボコ投げ入れた。
おお、魔法と科学のハイブリッドか!素材は変化し、製造機械が素材を熱し、ノロ(溶鉄)として溶鉱炉から鋳型に流され、或いはガシンガシンと叩いて鍛えられ、或いは圧延され、ぼくらの異世界は美しい。
「原料が注入されてる!やっぱあの人怖!あ、システムが緑になった!」
「これで未完成だった新兵器が完成するのね?」
「さすが魔導士殿だ!」「さすまど!さすまど!」レイブ、シルディー、ヤメテー!
「ホーリー!製造システム作動!」「神のみぞ知る!」謎の答えとともにホーリーがシステムを作動させると!
地下工場とも言うべきスペースで巨大な腕が組み上げられた!
それは半分出来ていた巨大な…鎧だ!イセカイマンみたいな鎧に向かって腕が釣り上げられ、火花を散らして接続された!
鎧…というより、ウェットスーツな感じなのはこの際気にしな~い。
更に胸の魔石に接続された極太のケーブルが光り、鎧の関節部にある魔石に光が灯っていく!
「脚部、起動用ー意よし!、腕部、起動用ー意よし!機関部、起動用ー意よし!」
モニターに人型の新兵器、鎧が表示され、各部の赤表示が緑表示に変わっていく。
「これも勇者の操縦で動くんだろうな」モニターを見ると、「新兵器操縦システム」がオレンジ表示から緑表示に変わった!
「俺がこの巨大な鎧を動かすのか!」
レイブはモニターに映し出された巨大な鎧を眺めて、感慨深気に呟いた。
******
異郷の地でガカイヤーはいくつもの武器召喚の魔法陣を試しては三人の少女の記憶を呼び出し、様々な武器を見比べていた。そして。
「おう!こいつぁいい!これで行くか!ちょっとムカつくあの王城ブっ壊しにいくかあ!」
「遠慮はいらん!あの小生意気な王ごと王城を破壊してしまえ!」
エバリの声を無視して屋敷の外に出たガカイヤーは天に魔法陣を展開すると叫んだ!
「召喚!巨大暗黒装甲!」すると魔法陣の中央に異空間への穴が開き、その彼方から腕が飛び出す、足が飛び出す!それらが空中で合体した!
それは正に巨大なガカイヤーであった!
「ヘっ!運営も俺様贔屓な武器をご用意してくれるじゃねえか!」
その胸部にある魔石から発する光線を浴びると、ガカイヤーは巨大鎧の中に消えた。
鎧の内部の謎空間で、ガカイヤーは巨大化した!UFO戦士といいつつ中身は巨人みたいなものだな。
そして巨大ガカイヤーは空を飛んだ!どういう原理か知らんが飛んだ!
******
「まずいなあ。あのガカイヤーが巨大化して空飛んでカナリマシに迫ってるぞ?」
錬成装置から作戦指令室に戻った私が皆に伝える。
「魔導士殿!俺行きます!」
「あ、そこから行けるみたい」作戦指令室の脇に、ダストシュートみたいな滑り台入口が緑に点滅してた。
「とう!」と滑り込むレイブ。いいなあ、あれやりたいなあ。
レイブが操縦席に滑り込むと、作戦指令室のモニターに映った。
私はモニターの向こうのレイブに向かって話す。
「良く来た、レイブ君。先ずはチェックを開始する。マスタースイッチオン」
レイブが答える。「マスタースイッチオン!」
「オールスイッチオン」「オールスイッチオン!」
するとアナウンスが流れる「レディー、レディー、レディートゥスタート!」
クレビーがグライコのレバーみたいなのをホイホイを上げていくと天井が開く。円筒状の水槽とエンタイアリーウォーターゲージは無しだ。王都の真ん中だし。
「マドー、サリーゴー!」「マドー、サリーゴー!」
レイブは飛翔魔法を足に込めペダルを踏むと、巨大な鎧が空を飛んだ!
神殿跡に開いた巨大な発進口から大空へ飛び出す魔導鎧、マドーレム!
「すごいレイブ、イセカイマンみたい!」キャイキャイ喜ぶクレビー。
私はモニターに向かって叫んだ。
「君は、イセカイマン2号だ!」
******
カナリマシ王国はガカイヤーとエバリ公に警戒し国境南部を固めていた。
「あ!黒い騎士が空を飛んで来た!」
「対竜魔術発射!王城へ報告!」警戒状態にあった騎士達の動きは早く、ガカイヤーに向かって魔法の火の玉が無数に放たれた!
「小手調べにはちょうどいいかァ!」巨大ガカイヤーが大地に降り立ち、国境の砦を襲った!城壁や望楼を蹴り飛ばし、なぎ倒す!
後退する騎士達で砦は混乱に陥った!
「待て!」
空の彼方から声が!
見上げる巨大ガカイヤーに、華麗に空中一回転を決めかかと落としを喰らわすマドーレム!
コクピットでは、レイブの頭や手足にケーブルが付き、彼の動く通りにマドーレムは動いていた。
無様に転げ笑るガカイヤー!
「ガカイヤー!巨大化が貴様の専売特許と思うな!」この世界にも専売や特許あるのね?
「黙れイセカイマン!んん?タイプチェンジでもしたか?」
「俺はマドーレム!イセカイマン2号だ!」
巨大戦士同志が言葉の鍔迫り合いを交わす!
国境線の城壁を挟んでにらみ合う両者、次第に右へと歩み始め、敵の機先を制さんと走り出し、トンボを切って互いにキック!空中で衝突し炸裂する爆発!
両者バク転で着地し、徒手空拳で大格闘!
「え~い!小癪な!」手から火の玉を放つガカイヤー、これを躱すマドーレム!なおも追撃するガカイヤー!更には頑丈な腕で弾くマドーレム!
「チキショウ!喰らえ!」目から怪光線!腕で弾き切れずダメージを受けるマドーレム!
「闇の眼光を喰らった気分はどうだあ!」更に光線を放つガカイヤー!避けるマドーレム!
「召喚!暗黒魔剣!」もうちっと捻った名前にしろよ!
空に魔法陣を描き、また穴が開き、剣が地表に向け飛んで来た、それを掴んで構えるガカイヤー。
コクピットでは各部に赤ランプが点滅していた。
「畜生、こんな奴に負けてたまるか!」
振り下ろされる剣を往なし、ガカイヤーの腕を掴んで肘鉄を顔面に叩き込むマドーレム!
怯んだ所を更にパンチのラッシュ!苦し紛れに振り下ろされた剣をバク転で躱し、再び距離を置いた両者。
セットの地平辺りに於かれたカメラがパンしながら対峙しつつ円形に移動する矢島チックな緊迫した場面
「素手で敵うかア!」剣を振り下ろさんとしたガカイヤー、しかしそれを光線が撃った!
飛来する2機のマドーキー!
「レイブー!援護するわー!」愛しのクレビーが応援に来たぞ!頷くマドーレム!
「邪魔くせえ!」光線もとい闇のナントカで応戦するガカイヤー、しかし両者それを躱す。
その隙にマドーレムがダッシュ、ガカイヤーの足元にスライディング、足を取られ倒れるガカイヤー。
頭を振って起き上がると…素性に迫るマドーレムのストンピング!
顔面にモロに蹴りを喰らってもんどりうつガカイヤー。
更にダッシュするマドーレム、だが…
レイブのいるコクピットの前面が赤いランプで点滅し、ブザーが響いた。
「畜生!あと一歩なのにどうしたんだ!」
「レイブ、マドーレムの魔力が無くなりそうだわ!」
「何?!ここまで来て!」レイブの目の前に映し出されたモニターに「魔力20%」と記され、赤く点滅していた。
突然動きを止めたマドーレムへ、ガカイヤーの容赦ない太刀が振り下ろされた!白羽取りで受けるマドーレム!
しかしモニターのゲージは減っていく!
「どうしたどうした!もっと俺を楽しませろよォ~?」ガカイヤーが勝ちモードに入っている。
そこで私は(中略)「うおまぶし」
イセカイマン登場!キックで奴を横からブッ倒した!
力尽きる寸前のマドーレムを助け起こし、「レイブイブイブ、よくやったったった…。見ていてくれクレクレ…」と励ます。ちょっといいとこ盗り過ぎたなあ。反省。
「いいとこ取りすんなオラァ!」奴の言う通りだが。
ガカイヤーが振り下ろした暗黒ナントカ剣を片手で振り払うと、パリンと割れて散った。
「コンチクショばぶえ!」顔面横パンチをお見舞いだ!
ひたすら殴るイセカイマン、国境線から追いやられるガカイヤー。
パンチの連打を受け後退するガカイヤーを地平線に置いたカメラが移動撮影したみたいな感じでひたすら国境から押しやられる!
そして回し蹴りで吹っ飛んで行って何故か爆発!
崩れ落ちる巨大な鎧、その隙間から這い出す等身大のガカイヤー。
奴はまたまた天空に魔法陣を現出させると、鎧を宙に逃がして去った。
******
砦では騎士達が歓声を上げていた。
「報告!二人のイセカイマンの手で巨大な黒騎士は討伐された!」
夕焼け空に、二人のイセカイマンの上空を旋回するマドーキーが去っていく。マドーレムも飛び去った。
イセカイマンも彼を追って飛び立った。
カナリマシの王都上空を夕陽を浴びて飛ぶマドーキー、そして二人のイセカイマン。
王都の人々が手を振り、それに応える。
そしてイセカイマンは勇者一行と別れ、暮れ行く空に消えて行った。
新たなるヒーロー、イセカイマン2号マドーレムを加え、この世界の守りは固まった。
だがまたガカイヤーは新たな武器を呼び出し世界を襲うかもしれない。
空に消える二人のイセカイマンを夕陽に向かい睨みつつ
「チキショウ!来週こそは必ずブっ潰してやる!」と負け犬の遠吠えをほざくガカイヤー。
心醜いガカイヤーに負けず、戦えマドーレム、戦えイセカイマン!
…それでは また明後日…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます