28.光のループ、輝く加速器
ツッカェーネ王国、マカリマシ王国、そして魔国の休戦協定と通商条約が、ガカイヤーによるサボタージュにも関わらず無事締結された。そして…
「魔族の生まれが何の因果か人族の仲間!おまんら許さんぜよ!」
ビシっとヨーヨーを構えた魔王ペディちゃんはすっかり人族のアイドルになってしまっていた。
すんません、本ッ当にすんません、ほんの出来心です!
今やカナリマシやツッカェーネだけでなく、アンデッド怪獣に襲われた各国も魔国と通商を開始し、各国に引っ張りだこなペディちゃんとササゲーさん、そして各国の危機を救った英雄と称される私の妻達であった。
「人族の土地は気持ちいーのだー!空も青くて暖かいのー!景色も色々で楽しーのー!」
乗り物酔いも無く旅路を楽しむペディちゃんに、ササゲーさんもご満悦であった。
何より人族との通商は今まで考えられなかった富や食料を魔族に齎し、魔王城も魔都も急ピッチで復興しつつあった。
魔族にとって念願であった豊かな実りの大地の開拓も、ササゲーさんの不屈の闘志でデファンス王との間でアクションプランが練られ始めるに至った。
ササゲーさんも遣り手だが、ペディちゃんもその旗振り役として人族に愛嬌を振りまき続け、警戒心を解くのに重要な役割を務めている。
いいコンビだ。
******
「ホント魔王ペディは愛されるようになったなあ」イセカイ温泉の新聞に書かれたスケバンペディの肖像画を眺めつつ、レイブが嬉しそうに話した。
「敵として戦う事が今後もありません様に」と小声で呟いていた。優しい男だ。
「魔王じゃなくて、かわいい妻達をかわいがってよお~」
クレビーとホーリーがマドーベーサーのモニターを見つめつつゲンナリしつつメモを取っていた。
この基地にプリンタという便利な物は無い。あってもトナーなんて駄目になってるだろうしねえ。
文字や画面を表示するモニターだけでも凄い便利なんだが。
「まさかあの黒い奴、あちこちに三匹も怪獣を呼び出すなんて。きっと他にも恐ろしい魔力の使い方をする筈よ。その前に撃てる手を打たなきゃ」
へたっているクレビーを後目にホーリーはメモを取っていた。
「気になるのは未完成の武器」画面にはマドーキー、マドーカーの格納庫の他に、『未完成』と表示された武器の存在が示唆されていた。
「どうもこことは別の場所で造られたみたいね」「どうして?」猫をじゃらす様にクレビーを甘やかしてたレイブが尋ねる。クレビー、レイブの膝の上に乗っかかってゴロゴロである。
「『起動の出力不足。高出力が期待できる地へ移送』って書いてある文書を見つけた、けどどこか書いてない」
「勇者の魔力と関連する地となれば、真っ先に頭に浮かぶだろう」
「あ」
そう、勇者召喚を行った大神殿と、別の遺跡だ。ともに廃墟となったが。
「あの辺を魔力を流して探し直すのよ!」
「よし行こう!」レイブも立ち上がった!
「ぐえ!」クレビーは転がり落ちた!
なおシルディーは、魔王ペディのお友達として各国との通商に立ち会い、勇者の将来の妻としてこれまた注目を浴びていた。
そして、各国に勇者や異世界に係わる遺跡の有無を探って貰っていた。
******
そんな最中に、「王都跡に新ダンジョン発見!」の報せが響いた!
「王城も神殿も滅びちまって魔物が住み着いたのかな?」
「どっちもスゲーお宝が埋まってそうじゃん?」
「冒険者として腕が鳴るぜ!」
この世界、冒険者とは山師、ハンターを指す。遺跡荒らしや魔獣狩りのその日暮らしの連中だ。
しかし冒険者ギルドとかギルドカードとかSSSランクとかそういうのは無い。あったら国軍を脅かす存在だ。
世界を救う勇者ですら国軍からロクな支援を受けてないんだから、冒険者ギルドなんて国際独立戦闘集団なんて許される筈がない。夢もロマンもあったもんじゃあないなあ。
なのでその山師連中がイセカイ温泉を足場として集まり、王都の廃墟目指して進んだ。
しかし。
******
「おうおう魔族の姉ちゃん!もっとサービスせんのかコラァ!」
「そんな恰好しやがって、誘ってんかァ?」新参の冒険者達が吠える。
「ご主人様、ほかっちまってええ?」
「ええがねー」
妻達、魔王軍なんだよね。
知らせを受けて駆け付けた警備隊の前に、イコミャー達が積み上げた冒険者達のモニュメントが聳え立っていた。以来冒険者の態度は頗る宜しくなってくれた。
「城主様!」「城主じゃねえんだが」商人達が尋ねて来た。
「ダンジョンって本当でしょうか?」「知りません」
ははあ~。もし魔物がゾロゾロいたら革やら角やら魔石やらで商売するつもりだな?あきんど達よ。
「一丁行ってみるかあ。
ここから近い所にそんな物騒な物が出来たらオチオチお湯にも浸かって酒も飲めないしな」
良い子は危険だから温泉でお酒呑んだらいけません。ドゥーノット・トライトゥー・イミテートミー。
******
「その程度の事、元王都の騎士達にやらせりゃいいじゃない!わざわざレイブを呼び出さないでよ!」
「でも私は神殿の真下ってのがスゴい気になる」ホーリーは行く気だ。
「じゃーあんたがこのハゲエロデブオヤジと行きゃいいじゃないよー」
「無礼!」久々に鎧を纏ったシルディーがクレビーを窘てくれる。
色々あった神殿の跡に来ると…
「はーいコチラお宝ザクザクのダンジョンよー!
力自慢も腕自慢も、魔物倒して大儲けー!
一人金貨一枚よー!」
「え"?!あなたは!!」
「え~、そこの兄ちゃん姉ちゃんも金貨一人一枚よー」
「「待てゴルァ!」」
ダンジョン入口で切符もぎりしてたのは、ハゲデブキモエロオヤジ、元国王アシヒッパ4世であったー!
たちまちクレビーとホーリーにお縄となった。
「あんたねー!あたしたちの働きに二束三文の謝礼で済まそうとしやがって!コノウラミハラサデオクベキカ!」嬉しそうだなクレビー。
「周りの国にえらい借金したみたいねー!今の王様に引き渡したら賞金貰えるかもー!ダンジョンの魔物よりね!」魔物より怖いよホーリー。
「ひぃ~!」
「賞金は兎に角!国に迷惑かけた事は国を背負う者として償うべきですわ!」そのカッコでお嬢様言葉だとグっとくるねシルディー。
と、何人かの子供が走って来て、元国王の前に立ちはだかったー!何故だ!
「おじちゃんいじめちゃダメー!」「ダメー!」
「な!何なのよ!この子達!」
「君達は他の街から来たのかな?」私の問いに、無言を貫く、逃げて来た子供達。
この王都の子供達は孤児や浮浪児もイセカイ温泉で暮らしている。
王都を目指す商人や貴族について来た子達が、地下で暮らしていたのだ。
「こ、この子達良い子よ、みんないい子よ、イタイイタイしたらダメヨ!ダメダメ!」
「王様、この子達に乱暴なんかしませんよ」イケメンスマイルでレイブが答えた。
「おじちゃんはねー、つぶれてしにそーだったあたしをたすけてくれたのー」
「そうよー。ここはねー、くずれてあぶないのねー。むりしちゃダメよ、ダメダメー」
「それからずっといっしょだったのー」
念のため持ってきた保存食を子供達と王様と食べつつ、話を聴いた。
どうやらこの元王様、乞食して地下神殿に閉じ込められても何とか地上に出て来たみたいだ。
子供達は国が立ちいかなくなった直轄領から人払いされ、何とか隊商や貴族の行列について来て王都で乞食をしていたところを元国王に助けられてこのダンジョン?に住んでいると。
元国王、色々穴掘ってて出入りしてた途中、崩落して頭打ってるな。だが命に係わる異常はなさそうだ。
むしろ贅沢しなくて運動してて、体もオツムも血行が良くなってるみたいだなあ。ハゲだけどデブじゃなくなったし。
まあそもそも元はと言えばコイツの所為だが、今のコイツに言っても仕方ない。コイツは子供達とひもじいながら仲良くやっている。
「で、ダンジョンって何なのよ?!」
「ここね、深いとこに大っきい丸い穴があるのよ。そこに何かいるのよ」言葉使いも何か幼児退行してるな。
「丸い?」
「ずっと歩いて行ったらね、1日すると元のことに戻るのよ」
それはだな…
「キッダルトのメモにあった、シンクロトロンかも」正解だクレビー!さてはお前クレビーじゃないな?!
「何よ!」「ウッキーって言わないのかよ」「言うもんですかウッキー!」「クレビー、言ってるよ」
笑い合う勇者達。子供達もなんだか笑ってる。
「何かいるって、何?」
「ビカビカ光るのよ。あれ、強い光よ、バケモノかお宝よ」
「どっちにしろ確かめよう!」レイブが言った。
「にいちゃん、金貨一枚よ!一枚」
「そのあたりは変わんないなあ」呆れる一同。
「この子達、食べさせなきゃダメなのよー」「そっかぁ。仕方ないねえ」
金貨を渡すと、元王様は崩れかけた地下へひょいひょいっと案内してくれた。
******
色々崩れた穴を降りると、トンネル。その中央には太いカーブした円筒と、その外部には無数のケーブルがくっついていた。
「モノレールみたい」「でもレールじゃ無いね」
「超光速粒子加速器、を目指したものだな。あのハゲデ…洞窟王が言うには1日かかって元の場所に戻った。カミオカンデとか位の規模があるかも」
「何それ?」
「このカーブが描く輪の真ん中に、ものすごい力で目に見えない細かい粒を物凄い早さで飛ばす。そしてこのトンネルにあるいくつかの機械で、もっと粒を飛ばす速さに力を加えて、光より早く飛ばす。そうすると…」
「そうすると?」
「ホント大ざっばに言うと、タキオン粒子っていう光より早く動く物が得られて、それが時間や次元を超える鍵になる」
もしかしたら、キッダルトが未完成ながらも作ったこの設備。
五次元人から見たらちょっと力入れたら異次元空間への穴を作って勇者召喚しやすかったんで、勇者召喚の場所を悲劇の姫カバレーヌの国ジゴジトッからコッチに切り替えたのかも知れない。
因果応報たぁこの事かあ。
等と考えてると、私の横でウッキーが、もといクレビーが鼻息荒くしてる。
「じゃああたし達も、この世界を狙ってる五次元人にカチ込みに行けるっての?よっしゃあああ!」待てい。
「いやホントにそうかは解らんが」
「キッダルトは信じてたみたいね。これも彼が作ったし」
「国家予算並みの機械を良く作ったもんだな」
「あーキッダルトが金を持ち逃げしてカバレーヌ姫の国滅んだのかもね」
「「ヒデー!」」それは無いと思いたい。
******
それからシンクロトロン内の冒険者を外に出し、制御室を探した。金貨払って入場した冒険者たちから非難轟々であった。何とかなだめて地下を探すと…
あった。マドーベーサーの作戦指令室みたいだ。
後ろに新幹線の中央管制室みたいなデカい制御設備があるのが違いかな?
例によってレイブが魔力注入パネルに魔力を注ぐと、400年間沈黙していた機械が起動する。
「よし、どうやって動くかを調べよう。そして、何故動かなかったかも」
「これは動かなかったんですか?」
「こんなバケモノみたいな設備が400年埋もれて街の真ん中にあったって事はそういう事だろう」
「魔導士殿は何でも御存知だなあ」「ズルいわよ!」
「でもオッサンの知識におんぶに抱っこだけだったら、あたし達先に進めなかったよね」その通りだよホーリー。
「癪に障るわね!」ザマア見ろクレビー。だが君も随分立派になった。
「進歩、進歩!」シルディーの笑顔に、クレビーは赤くなって黙った。
中央のスクリーンに、二重の円形が現れ、各部が緑に光る。
「ここ、マドーシンクラーって言うの?」中央モニターに表示された古代?文字…400年前の文字をクレビーが読み上げた。
「遺跡の各部分に赤い場所、壊れてる所は無いね」
しかし、中央と、外側の円に三か所あるブロックが、黄色になっている。ホーリーが表示された文字を読み上げる。
「えーと、『停止中』『エネルギー不足』って?どういう」
「彼は自分の勇者の魔力をつぎ込んだけどこの魔道具を動かせなかったのよ。
どうすれば動くのか、ここにもっと具体的な記述はないかしら?」
「ちょっと待って、『出力』『加速』『不足』『動力』…光の速さを越える動きを作るには、電子で加速して磁力で円を描かせるって…何となく解るんだけどどうしたらいいか分かんない!」
憤るホーリー、だが彼女はこっち見た!
みんなもこっち見た!
こっち見んな!
「あー。じゃあやってみるか。こればっかりは私じゃ動かせない、君達の力で動かすんだ。
皆、魔力入力パネルに力を込めてー」サッと配置に着く四人。
「あ、真ん中と外側の三つが『準備』になった!」
「そこに粒子を加速させる電子が不足してんだ。これは魔法じゃなくてその辺にある物を動かす力仕事だ。
クレビー、ササゲーさんに連絡してペディちゃんに鉄仮面を付けさせて。
いくぞ!みんなの力をもうちょと注いでくれ!」
「「「はい!」」」「うぃ」クレビーェ。
暫しクレビーとササゲーさんの世間話の後「OKよ」とGOが出た。
魔力をバネに、そして電子の増強を私が行い、施設の中央にある加速器を運転した!
更に磁力によって粒子は緩やかに曲線を走り、加速する!
光速に近づく粒子の相対速度とか偏差とかなんとかをホーリーがキッダルトのメモを頼りに読み上げる。
「内部の粒子が加速を続けてる!ドップラー3、ドップラー2、ドップラー1!」
亜光速に近づく。
「加速器、噴射あー!」私はダミ声で叫んだ!
私の号令に応じてクレビーが加速器を始動する!シンクロトロン内の粒子速度が上昇し、光速に更に近づく!
「ローレンツ3、ローレンツ2、ローレンツ1!」
「タキオン動力、始動おー!」
クレビーが施設下層にあるタキオン動力炉に光速を越えた粒子を注入する!
この世界に於いて、キッダルトの設計依頼400年を経て、異次元への反撃が始まる!
その趨勢や如何に!どうする異世界?どうなる異世界?!
…では また明後日…
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