27.空っぽの手を握り合うのだ
魔族と人族、初の交渉の場にガカイヤー率いる謀略部隊が乱入、しかしその野望は瞬時に暴かれた。
だが直後に周辺各国の王都を、アンデッド怪獣が襲った!
ガカイヤーを担ぐエバリ公爵は誇らしげに宣言する。
「者共!魔族とそれに従った裏切り者共の首を刎ねぬ限り世界を襲う呪いは解けぬ!」
人々の視線がこちらに向かう。
「よかろう」ここで魔王ペディが奴に言い放った。
「妾は争いは嫌じゃ。だが新たな争いを生み出す奴はもっと嫌じゃ!お前の~…」
ペディちゃんはそう言うとチラとササゲーさんの方を見る。ササゲーさんがカンペを持っていた。それを読んで…
「お前の操るアンデッドを、妾の仲間が打ち破って見せよう!」
******
今度は各国に翼竜、地底怪獣、角怪獣が現れた!みんなかつてイセカイマンによって南の島に運ばれた怪獣達だ。
その肩にはフラーレン、ジェラリー、ライブリーが乗っている。
「無理しないでね!」
「ヤバくなったら逃げるからね!」
「また戦わせて、ゴメン…」
彼女達は笛を使うでもなく、直接怪獣に語り掛けて戦いに挑む!
世界3ケ国で、怪獣同志の決闘が始まった!
その様は遠話で各国特使に伝えられた。
「魔族の女が操る飛行怪獣が、アンデッドドラゴンと戦っています!」
「戦いは王都から離れつつあります!女の操る怪獣が街から遠ざけているとの事です」
「貴様の企みも潰えたな、邪悪な勇者ガカイヤー!エバリ公爵、おっと元公爵!」アッタマーイ王が怒り糾弾する。
「貴様等を逮捕する!騎士団、突入!」騎士隊を率いるキレモン伯爵!
「いつぞやの借しを返してもらおう!」何発も拳を振るうキレモン伯爵の前に、ガマガエルの顔は右に左に歪んでいった!他の敵達は麾下の騎士にアッサリ捕縛された。
「次は貴様か!」キレモン伯爵は剣でガカイヤーを指した。
「ケっ、只の人間風情がよぉ!」ガカイヤーはキレモン伯爵を魔力で吹き飛ばした!
「くたばれー!」レイブが斬りかかった!王城を前に剣戟を繰り広げる新旧勇者、正邪勇者!
ガカイヤーは魔力で牽制するが戦いの経験が多いレイブは牽制を交わしガカイヤーを撃ち据えた!
更にクレビー、ホーリー、シルディーが魔力を飛ばし、ガカイヤーの剣をへし折った!
剣を投げ捨て、ガカイヤーがほざく。
「ケッ!大人しく俺様の下僕になりゃあ、こうなんなくて済んだのによぉ!」
奴は魔力を大地に打ち込んだ!
すると大地が揺れ、人々が逃げ惑う!
地面を裂いてアンデッド怪獣が王城の鼻先に出現した!
混乱に乗じて私はちょっと中座し(中略)アンデッド怪獣の足元が光った!光りは人々を押しのける様に広がって行くと…上空に向け地面が突上げられた!
アンデッド怪獣を下からパンチしてイセカイマンが地上に現れた!殴り飛ばされたアンデッド怪獣は城門の向こう、王都の外へ弾き飛ばされた!
混乱の最中、ペディちゃんは今やお気に入りの鉄仮面を被り、クレビーとシルディーはマドーキーを浮上させた!
イセカイマンはパンチとキックでアンデッド怪獣を王城から遠ざけると、
「外道照身!聖者光線!」美魔女大神官様の光がアンデッド怪獣を只の髑髏と化し、たちまち崩れ灰となった!
「所詮アンデッド!俺の力が無くても魔力が消えれば只の屍だ!」レイブがガカイヤーに向かって叫んだ。
「「「おおー!」」」王都の人々が歓声を上げ、元大神官様鼻高々でエッヘンしていた。
目の前の敵が消えたイセカイマンは両手を握り力を込め、三人に分身した!
「「「おおー!」」」王都の人々がたまげた。
更に三人とも光となって消えた!
「あのイセカイマンとかいう騎士はどうなったのだ?」アッタマーイ王がデファンス王に聞く。
「娘の報告では、イセカイマンは時間を止めたり、空間を操作する力がある。恐らく各国のアンデッド怪獣を倒しに行ったのでは…」
各国の公使が報告に来た。
「先ほどこの地に現れた巨大な騎士が、我が国に出現、魔族の女が操る怪獣と協力してアンデッド怪獣と戦っているとの事です!」
二人の王は安堵した。
******
各国ではイセカイマンと怪獣達のタッグによる、アンデッド退治が始まった!
アンデッドドラゴンを地上から光線(光る魔石)で攻撃し羽根を切断するイセカイマン、墜落したアンデッドドラゴンの上に巨石を落とす!更に脳天にイセカイマンがジャンピングニーパッドを喰らわす!
敵は魔王配下の魔物ではなく、悪の勇者ガカイヤーが魔力で呼び寄せたアンデッドだ。
イセカイマンが光線(光る魔石)で高熱を浴びせると、乾燥し炎上し、崩れ落ちた。
イセカイマンは空に飛び立ち、ライブリーの乗る翼怪獣とともに王都を去った。
******
地底から現れたアンデッド怪獣をイセカイマンが高々と持ち上げ、王都の外へ放り投げた!
兵達は城壁の上からイセカイマンと魔族女が操る怪獣、そして地底アンデッド怪獣の戦いを見ていた、スクリーンプロセスっぽい荒れた画質で。
地底怪獣の吐く熱戦で地底アンデッドが炎上、イセカイマンがムーンサルトを決めて燃える地底アンデッドにキック一閃!
地底アンデッド怪獣が一瞬スパークし、大爆発!残骸は悉く灰となって消えた。
城壁上の兵達が歓声を上げた!
イセカイマンは怪獣を操っていたジェラリーを手に載せると、空に飛び立って消えた。地底怪獣も地に潜り王都から消えた。
「ちかれたび~」
ジェラリーはイセカイマンの手の上で、大の字になって寝た。
******
最後の国では、角怪獣とアンデッド怪獣が激しく格闘していた。
フラーレンは怪獣の上で振り回されながらも敵の弱点を突いて、腕を裂き尾を裂き戦いを有利に進めていた。
しかし王城から投石器による攻撃が両者を撃った!
事情も解らない王城は両者を敵と看做したのだ。フラーレンに迫る巨石!
テレポートしたイセカイマンがそれをキャッチし、光りを纏わせ投げつけると敵の肩を爆破し残る腕を弾き飛ばした!
「あなた!」フラーレンの熱い叫びに頷き返し、イセカイマンはアンデッド怪獣に駆けだした!
敵を蹴り倒し、両手から光弾を連発し進路を止めた!
そこに角怪獣が背後から突進し、敵の動きを止めた!
宙にジャンプしたイセカイマンは手刀に光を纏わせ、アンデッド怪獣の首を一刀両断した!
首を失いながらもアンデッド怪獣はのたうち回る。
イセカイマンは光線を放ち、角怪獣は火炎を吐き、アンデッドは炎上、爆発し灰と消えた。
フラーレンはイセカイマンに飛び移り、首筋に抱き着いた。角怪獣はゆっくりと地平を目指して去った。
イセカイマンとルラーレンは、角怪獣に向かって手を振ると、空へ飛び立った。
どの国でも、作戦に失敗した三人衆、即ちかつて討ち死にした賢者達の生ける死体が、無表情のまま主であるガカイヤーの元に向けて帰って行った。
******
「巨大な銀の騎士と、魔族の女が操った怪獣がアンデッドを倒しました!」
各国の公使が伝える報告に、人々は安堵した。
そして、王城の近くに3人のイセカイマンが現れた!夫々がフラーレン、ライブリー、そして寝こけているジェラリーを降ろす。ジェラリーだけ転がって落ちた。三人は痴女服から華やかなドレスに着替えていた。
「お疲れー!」同じくドレスを纏ったエンヴォーとイコミャーが三人に駆け寄ると、イセカイマンは一つに合体して空へ去った。
勇者達も戦いを終えて集まった。
「あの邪悪な勇者は取り逃がしたか」デファンス王が呟く。
「国の威信に懸けて捕らえよう」アッタマーイ王が返す。
「ご報告!エバリ元公爵と偽勇者が消えました!恐らくエバリ元公爵と懇意にしていた敵国領内に転移したかと思われます」キレモン伯爵が両王に報告した。「とり逃してしまい、申し訳ございません!」深く頭を下げる伯爵。
「いや、あいつには泳いでもらう方がいいですよ」私はどっからともなくヒョコっと顔を出して言った。
「それより、勝鬨を上げるべき時かと」ササゲーさんが王達に言う。
頷く二人の王。
王城のバルコニーに上がる一同。
再度喇叭が吹き鳴らされた。
アッタマーイ王が壇上から群衆へ語った。
「カナリマシの民よ、他国の民よ、聞け!今我らが世界を襲う新たな脅威が現れた。
それは魔族ではなく、人族でもない。この世界の外側から、あの邪悪な真勇者を送り込んだ、我等と異なる世界をつかさどる者、異次元人だ!」
群衆は戸惑った。それはそうだろう、異次元なんて概念が無い世界だ。
「だが心を惑わすでない。我等は今、魔族との戦いを終え、魔族と友とし、邪悪な勇者と奴の操る魔物を打ち払った!」
魔国王ペディちゃんが群衆に手を振る。可愛い。
「「「おおー!」」」群衆が歓迎の声を上げた!
ササゲーさんも、妻達も壇上から手を振った。
「「「うお"お"おおーー!!!」」」心なしか歓声にネチっこい何かが込められた気がする。
各国の公使たちは本国からの念話を聴いたのか、妻達に熱い歓喜の声を上げた。
今度はデファンス王が語った。
「前の魔王を討ち取った勇者達も健在だ!」
「「「おおー!」」」壇上の4人を群衆が歓迎した。やはり勇者は知名度が高い。
「敵同士だった勇者が新しくも愛らしい魔王と手を取り、異次元の敵と戦う時が来たのだ!
我等はこの戦いに勝ち、新たな平和を手に入れるのだ!勝利と平和を!!」
群衆の歓声が王都を包んだ。
結局ガカイヤーの悪巧みは、魔族と人族の結束を固める結果となった。
******
その後、諸事項の確認、特に魔国の鉱山資源の交易量について産所バチバチ火花を飛び散らせながら、ササゲーさんの独り勝ち的に終わった。
人族二か国の並みいる文官の誘導尋問みたいな値引き、産出量釣り上げを待ってましたとばかりにひっくり返し、少ない量を最大限値を釣り上げての勝利である。
二か国ともそれなりに利益を得た上なので、双方商談が成立するギリギリの線だった。
もし人族が鉱夫を派遣するって言ったら産出量も増やせ価格も下げられたかもしれないが、魔国と交渉が始まったばかりの今の段階で「魔国の鉱山に行け」って言われたらそりゃもう死刑みたいなもの、そう思われると鉱夫も集まらないだろう。
恐らくそんな誤解が解けたら条件を緩和して、鉱山だけじゃなくて農地とかも交流されるつもりかもしれないな。ササゲーさんならあり得る。
そして、魔族にとって待望の、太陽と緑の溢れる大地を確保するための第一歩、「無地主で魔物が闊歩する土地の共同開発」も数年の調査期間を設けて入植される事が決まった。
ササゲーさんとペディちゃんは、何百年も魔王と四天王が成し得なかった第一歩を、数か月で成し得てしまったのだ。私達がいたとは言えスゲェ。
「魔族の宰相、畏るべし!」「一度屈服させてみたいものだ!」両王がここまで言うレベルだ。あとアッタマーイ国王の言う『屈服』の意味が気になるな。
そして晩餐会。多くの貴族が…動かなかった。
様々な料理に魔王ペディの目が輝く。
「ちゃんと、お行儀よく、ね?」
「う~、わかったのじゃ!」
言われた通り一品ずつ丁寧に口に運ぶ。そして満面の笑顔!
「うま~うまうま!」「お上品にね」「む、むう!」
だが親馬鹿だったデファンス王にはこれが刺さった様だ。
「魔族とは言え、小さい娘は可愛い者じゃのう!」
同席するシルディー、華麗なドレスバージョンも相槌を打つ。
「ペディ陛下はとてもお優しく、お友達にお菓子をお与えになり、一緒に笑顔で楽しまれるんですよ?」
「俺はこの子が新しい魔王で、本当に良かったって思う」レイブも頷く。
「そーなのか?じゃ妾もうれしいのじゃー!勇者はイケメンなのじゃ!まどーしのオッサンはオッサンなのじゃ!」
「はいはい私はオッサンですよ」
「そーなのじゃ!」「その通りよ!」ペディちゃんをクレビーがニヤニヤ囃す。
「うふっ!」吹き出すササゲーさんにつられて妻達も困った様に笑う。え?
「でもイイ男です」真面目にライブリーが答えると
「ぶふっ!おほほほ!」とササゲーさんが笑い出した。
ササゲーさんの貴重な笑顔ゲットだぜ!
この一画の賑わいから流れが変わった。徐々に挨拶する者が増え、ササゲーさんの美しさや利発さ、ペディちゃんの可愛らしさから、場は温まって行った。
我が妻達の元にも、アンデッド怪獣に襲われた各国公使を皮切りに挨拶が来た。
私は素通りだけどね。まあそれがいい。
******
翌日、休戦と通商の協定書に三者がサインした。
昨晩の晩餐会で魔族とも交流が行われたため、締結は拍手喝采を持って人族に迎えられた。
これから、人族と魔族の交流が始まる。
薔薇色の未来、というだけではないだろう。次々と新たな問題、乗り越える事が難しい双方の嫌悪感が浮き彫りになって来るだろう。
「やらなくちゃ」そう池〇良みたいに呟いた。私を支えてくれた妻達の為に。ここにいる人達の為に。
平和に向け新たな一歩を踏み出したこの世界を護るため、戦え私!戦えイセカイマン!
…では また来週…
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