26.怪獣、怪獣、大怪獣!

 魔国の宰相ササゲーは悩んでいた。私から渡された、カナリマシ王国からの招待状を手に。

「あなたを使者に出したって事は。

 もし魔王様に何かあったらあなたも人族側、敵側って事でいいのかしら?」

「私は人族と魔族両方の味方でありたい、今は。だから理不尽な奴との戦いで引けを取る訳には行かない」

「あの、古戦場に眠る者達の魂を冒涜した勇者か…」


 ガカイヤー出現の魔力は、ササゲーさんも感じ取っていたそうだ。

 幸か不幸か、魔王ペディちゃんがマドーキー作動時に感じた様な激痛はなかったそうだ。

 新勇者だから新魔王と似た波長の魔力を使っているんだろう。

「五次元人の侵略という話も、あなたが言うとなんだか説得力を感じるわ」

 先の戦いで私が五次元世界に突入した事にも、理解して貰えた。


「有難い。だが奴等の目的も、どう戦うかも今一つ解らないんだ。

 暫く犠牲者が出ない様ガカイヤーと戦って、敵の手の内を読むしかない」

「私だったらそんな謎の敵の本拠地へ飛び込むなんて出来ないわ。

 あなた、異世界を転移し過ぎでどっかおかしくなってんじゃないかしら?」

「そうだろうなあ」

「元の世界に帰りたくないの?」

「昔の知り合いはもういないよ。

 今はここでフラーレン達とのんびりイチャイチャ暮らす事が目標だ。

 勿論、ペディちゃんも幸せになって欲しい」

 難しい話について来させるのも何なんで、お土産にケーキ持ってきました。魔王様口の周りがクリームだらけですよ、可愛い。

「そして、貴女にも」

 顔を赤くするササゲーさん、可愛い。


「あなたを信じましょう。魔王様、おやつ食べたらお出掛けの支度をしますよ」

「お?どこにいくのか?」

「人間の国です」

「人間の?どんなとこじゃ?」

「空は青く晴れ渡って、大地に樹々や草が生い茂り、暖かい風が吹く所です」

「うほー!そこが我等のものとなるのかー!」「なりません」「え~?」


「魔王様を人間がお招きし、戦いを終える約束を交わすのですよ」私が補足する。

「戦いしないのか?」「戦いを嫌がり、魔王様達と仲良くしたい人とは戦いません」

「おっさんみたいな魔族の女大好きスケベな奴か~」「誰だそれ言った奴」「ぷふっ!」ササゲーさんかー。

「おっさんはスケベだけどお菓子とヨーヨーくれるいー奴なのだ!行くぞー!」

 否定はしないけどさあ。笑ってるササゲーさん可愛いけどさあ。


******


 カナリマシ王国から周辺の国へ使者が飛んだ。

「カナリマシ王国、ツッカエーネ王国、魔国は停戦し、通商条約を締結する。締結はカナリマシ王都で三国代表を迎えて行う」と。

 各国に衝撃が走った。


「まさか両国は魔族に支配されたのでは?」

「ツッカエーネは王が滅んだとか」「いやあの英傑デファンス伯が王になったぞ?」

「あのキモデブハゲオヤジ国王の借金どうします?」「デファンス伯相手だと取り立て辛いなあ」

「通商というならあのカナリマシの事だ、美味い果実を吸い上げるつもりだろう」「出遅れるのは癪ですな」

 各国は状況を見聴分けるため特使を派遣する事にした。


******


「魔族の野郎共は使えねえなあ~。コイツ等の方がよっぽど金になる」

 ガカイヤーはカナリマシの神殿で、神像の頭の上に胡坐をかいていた。

 その下では、神官が半裸の女と杯を交わし、戯れていた。

 あの古戦場で召喚した、戦いに敗れ魔族に葬られた過去の女賢者、女聖女、女戦士だ。

 強大な魔力で肉体を得た三人の亡骸は、金と肉欲に溺れた神官や貴族達を虜にしていった。


「この国を手に入れたら、俺様が女達を好き放題にしてやらぁ」

 だが、そんな動きは異空間を操作できる私には筒抜けである。

 そんな私でもどこから攻めて来るか解らない五次元人を攻撃したり制圧したりは出来ないのが癪だ。

 あの無限に続く目や手、そしてサーバルームみたいな空間に放った次元発信機は反応しない。

 高次元からは届かないのかどうか、低次元人たる私にもわかりません。


 欲にまみれた男達に弄ばれる動く死体達。その目に悲しみが宿った様に見えた。

 彼女達の屍も、必ず墓場に帰す。


******


「申し訳ない!」私は妻達に頭を下げた。

 ライブリーが厳しい表情で私に語った。

「敵がこの世界を手玉に取っている以上、いつか戦いが来る。避けられない。

 あの子達も解ってくれる。戦いは先手が大事」

「再び戦いに巻き込みたくなかった。済まない」

「お人好し」ライブリーが少し微笑んで言ってくれた。


 ガカイヤーはカナリマシ王国内で反国王派を作り上げ、魔族との交渉を破談にするつもりだ。

 その場で新勇者として人族の頭を張るところまで含めて。

 そうはさせるか。奴の出方を探って、得意の絶頂から肥溜のドン底まで叩き込んでやろうじゃないか!


「ご主人様が言ってた、故郷の『専守防衛』?馬鹿げた話よねー。敵は殺意満々なのに」

 ジェラリーが呆れた様に言い、フラーレンが笑顔で応えた。

「奴等の陰謀をぶっ飛ばしてやりましょう!おまけにヘナチョコな人の王達にご主人様舐めんなって叩き込んでやりましょうよ!」「私の事はどうでも宜しい!」「「「え"~?」」」

「だが奴は許さん!一泡も二泡も噴かせて、アホ面をあざ笑ってやろう!あの手合いには相当応えるぞ?」

「アナタって時々黒いわよね」

「女の子に乱暴する奴はゆ"る"さ"ん"!」 


******


 そして当日。

 魔国から魔王一行が、ツッカエーネ王国からデファンス王が、カナリマシ王国へ行列を向かわせた。

 周辺国の特使は先にカナリマシに入り、情報収集に当たっていた。

 しかし、

「国王は魔族に魅了された」「各国にも魔族を派遣している」等々、ガカイヤーに唆された反国王派は特使たちに吹き込んでいた。


 デファンス王が歓迎半分、畏れられ半分で入場し、続いて勇者一行に護衛された魔国の列が王都に近づいた。

 勇者が魔王が乗る馬車の前を馬で進み、上空に2機のマドーキーが、馬車の後方にマドーカーが従う。

 上空を見上げる人々は驚く。

「何だあれ?鳥の魔物か?」「魔物というより、金属で出来ている?」「いや、あの輝きはミスリルだ!」

 そして馬車の後ろを見ては驚く。

「あのデカイ馬車、馬がひいてないぞ?!」

 みんな、プラモ出たら買ってね。イージーキットならモーター組み込み済だよ!


 アッタマーイ、デファンス両国王が迎える前に、馬車が到着。マドーキーもマドーカーも護衛を終えて近場に待機した。

 馬車から降りるササゲーさん。

 いつもの痴女服ではなく、赤い華やかなドレスに見を包み、色とりどりの宝石を散りばめている。

「黒い肌の女だ!」「呪われた色だ!」「いやまて、かなり美人じゃないか?」

 ササゲーさんに手を引かれて降りて来るのは…

「髑髏だ!」「小さい魔族だ!」マドーキーの魔力を防ぐため鉄仮面を付けていた魔王様。

 しかしその仮面を外すと、現れたのはあどけない顔の美少女。

「風が頬に当たっちょる…」


 両王にも、他の人々にも同様が広がった。あまりに意外過ぎる魔族の王の姿。

 魔王様も赤いドレスと宝石で飾っている。

 勇者が二人を王の元へエスコートした。


「みんなもっと禍々しい怪物みたいな魔王サマが来ると思ったろうなあ」

「あんな綺麗で可愛らしい子が魔王だなんて普通思わないわよ」レイブとクレビーが囁き合う。

 三人の王が、握手を交わし合う。

 歓迎の喇叭が吹き鳴らされた。


「その悪魔を立ち入らせはせぬぞ!」

 声を拡大する魔法が喇叭を止めた!

 声の主は、かつてツッカエーネに侵攻して来たガマガエル、エバリ公。

「アッタマーイ王、お前は悪魔に魅了され、この国を悪魔に差し出すつもりだ!そうはさせんぞ!」

「愚かな!既に前魔王はこの勇者達に倒され、新たな魔王は平和を望んでいる。貴様はまだ戦いの血を欲するか!」

「そこにいる若造共はもう勇者ではない!」


 エバリ公の後ろに現れる神官達。

 ガカイヤーにあてがわれた賢者達に溺れていた連中だ。

 そして現れるガカイヤーと死体賢者達。美貌の三人の少女は美しい衣装に飾られていた。

「彼等こそが我が国の神官達が呼び寄せた新たなる勇者!その者共など!」


 その時強烈な光が!「うおまぶし」


 魔王の馬車からもう一人、お客様が輝く杖を持って降りて来た。

 元ツッカエーネ王都の大神官、筋肉フェチの変態美魔女のマチョラバ様だ!初めて名前知ったよ!

「外道照身!聖者光線!」

 彼女の発する光が、死体賢者達の正体を暴いた!美しい風貌は忽ち髑髏に変わる。

「うひぃー!」エバリ達は腰を抜かした。彼女にご執心だった神官は漏らしながら逃げ回った。

 この醜態に群衆も驚いた!

 美魔女大神官様が啖呵を切る!

「汝の正体見たり!200年前に戦死した賢者、ダメンジー!」


「んん~!バ~レ~た~か~!」死体賢者ではなく、ガカイヤーが答えた!

「お前もよ!お前もよ!」光線を他の二人にも翳し、次々と美しい少女達が髑髏の姿に戻ってき、そして崩れた。

「正体見たり!同じく戦死した聖女ヤンデレー、戦士リスカー!」二人の美少女も髑髏となり崩れた。

「いや~助かりましたよ大神官様。凄い技です」ちょっと見直した。

「昔のオトコの頼みだし、借りは返したわよぉ~それより今夜またどぉ?」見直すのを見直した。


「エバリ!貴様こそ悪霊と手を組んだ暴徒を担ぎ上げ、平和を乱さんとした罪!公爵の座を剥奪する!」

「そこなへっぽこ神官共!美女と死体の見分けもつかないとは情けないったらありゃしないわ!

 イ〇ドの山奥で修行し直しなさい!」

「「「修行します!!!」」」神官達は王都から早送りダッシュで逃げた。


 レイブ達がガカイヤー達を取り囲む!

「万策尽きたか腐った勇者ガカイヤー!今日が貴様の最期と知れ!」

「貴様等が魔族と手を組み、世界征服を企んでる事に変わりは無かろう?」

「何?!」

「今頃この国以外の王国は、魔族の放った魔竜に破壊されてる最中だ!」


 この場を茫然と見ていた各国の特使の元に、同行していた魔導士達が報告を上げた。


******


「ケバリースマスコー、ヒューラリーチュドリッシュ〇ドン!」なんて言ってんのか解らない異国語で報告していたが。

 緊急情報、巨大なドラゴンが王都を破壊しました!突如王都上空に飛来したトラゴンは現在も尚破壊を続けています。このドラゴンはアンデッドに相違ありません!との事だ。

 ツッカエーネ周辺の国の王都上空にアンデッドドラゴンが飛来し、王城の尖塔を衝撃派で破壊した!


 別の国でも遠話を受けた魔導士が「ディーシーパリー、ディーシーパリー、グレモントジャパン…」我が国の誇り凱旋門、いや世界の宝凱旋門が今崩れようとしています、あ、ついに、ついに凱旋門が崩れました!と報告していた。

 地底から出現した地底怪獣…いやアレ古代怪獣の使いまわしだろ?が郊外の凱旋門を突き崩し、王都に迫っていた!


 この場で魔国との条約締結に立ち会いに来た3ケ国に怪獣が出現したのだ!

 各地には、ガカイヤー三人衆、先ほど髑髏に戻った賢者達とは異なる死者たちが鎧を纏って魔物を操っていた。


 世界を襲う怪獣軍団、そして陰謀渦巻く王城。

 世界はガカイヤーの思い通りとなってしまうのか?どうする異世界、どうなる異世界?!


…では また明後日…

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