13.マドーキー、レディー、スタート!

 戦士シルディーの故郷、デファンス辺境領にあるダンジョン、その正体は400年前の勇者が建造した秘密基地であった!

 そしてその地に魔王の宰相ササゲーが放った古代怪獣が襲い掛かる!


「敵が来たぞ!」私はレイブ達に言った。と同時に機械の様な無機質の音声が響いた!

「魔王ノ魔法ヲ感知。オレンジ警報。バリアー展開。勇者隊ハ直チニ出動。繰リ返ス。勇者隊ハ直チニ出動」勇者隊って何だよ。

「レイブ、マドーキーへ行こう!」私とレイブ、クレビーは魔動機へ向かった。「ホーリーはここにいてくれ、必要な仕事があるかも知れない!」無言で頷くホーリー。

 復帰してからこの聖女大人しいなあ。まあアレだけやらかしたんだ。反省して大人しくしているならそれに越した事はないな。


 マドーキーに向かうと、座席を覆う透明な…ガラスか?そのガラスには鉄製?の枠と、取手がある。おお、開くなあ。ロック機構は無いか。

 中を覗くと、座席とその向かいに…やっぱりディスプレイパネル。デジタルな魔道具だ。周囲にスイッチもある。そして中央に操縦桿、その右に、剣の柄の様な、銃のトリガーの様な突起がある。

 左手は今まで見た様な魔力を流す起動用のパネルとそれに続くスロット。座席には黄色と黒の縞模様の輪…脱出装置か。

 なにせ古いものだ。動作確認しないと下手に動かしたら空中分解して操縦者の命が保証出来ない。だが、私の言葉を待つ前にレイブが起動パネルに手を翳した。

 ディスプレイが光り、「起動」「各部点検」の古代文字が表示された。

「レイブお前!」「まずは使えるかどうか確かめましょう!壊れていたらそれまでです!」

 考え無しに動かしたんじゃないんだな。

 ディスプレイにマドーキーの上面図、側面図、そして吸気口と魔導エンジン、排気口までの動力系統図が表示され、部品毎に緑色に塗られていく。やはりこれは魔力で飛ぶジェット機みたいなものだな。魔力な分制御機構が単純だ。

 よく見ると機体下部への排気口がある、S/VTOL(短距離・垂直離発着)可能か。

 コクピットのハッチのみ赤で「解放」と書かれている。

「緑が問題なしで赤が問題あり、ってとこですね?」「その通りだ、コイツの機能は生きている」

 私は「確認」と書いてある部分を示し、「よし、ここを押してくれ」とレイブに指示する。


 次に現れたのは、これはシステム系統図か。「勇者認証セキュリティ」と書かれた部分が緑になっている。そこから下に続くシステムも緑だ。「離陸管制システム」が赤で未起動になっている。

「ホーリー、聞こえるか?」試しに話してみたら…『聞こえるわ!』と帰って来た。

 どうやらあの部屋は発射管制室で、マドーキーとシステムが繋がっているのか。

 レイブにシステムの部分を押させると、「応答待ち」と出た。

「そっちの画面に古代文字で『応答要求』とか光ってる所は無いか?あったら押してくれ」「え~と…これかしら」

 ディスプレイの表示が「接続」と緑に変わる。


 そうしている間に、地響きが僅かだが伝わって来た。

「今日の所はこれまでだ。一旦引き返そう」

「何を言ってるんです!!」レイブが食い下がった。

「怪獣がこの遺跡を壊してしまったら、俺達は戦う武器を失ってしまう!俺達に力を残してくれた太古の勇者の気持ちも努力も裏切る事になります!俺はこのマドーキーを使って奴等と戦いたい!」

「しかしこれがどう動くかも、どう扱うかもわからんだろう?」

「でもこのまま奴等に壊されるよりも、試した方がいい!そう思いませんか?」

 そうなる前にイセカイマンが敵を倒す、のだが。彼らは私がイセカイマンだと知らない。教えてもいいかな~とか思うけど、まあここは彼の決意を買ってやるか。


「よし。じゃあ君は怪獣達の近くを遺跡の反対側に飛べ。そうしてこいつを操るコツを掴め。

 管制室の君達はマドーキーが出発したらモノレールでダンジョンへ逃げるんだ!ダンジョン側の運転席のマスコンを上に上げれば前に進むし、元の位置に戻せば止まる。慌てないでゆっくり帰るんだ」

『いやよ!』スピーカー越しにホーリーが叫んだ。

『私はレイブを裏切った!だからもう逃げられないのよ!私はここでレイブを待つわ!』

 この聖女。新勇者召喚未遂で己が心を恥じたか?そうであって欲しい。

「私も残る!」「わたくしも!ここで出来る何かがある筈です!」「よし、ホーリーのところで彼女を手伝ってくれ!」

「何であんたの命令」「畏まりましたわ!」シルディーはクレビーの手を引っ張って管制室へ走った。


「いいだろう。後ろでピカピカ光ってるのがあるだろう?なんて書いてある?」

『バリヤー…何それ?』「恐らくこの遺跡を守る障壁魔法だ。魔力を流し込むためのパネルは無いか?」『あったわ!』

「そこに魔力を流せ!」『解った!』

 遺跡を囲む4本の尖塔が光を放ち、遺跡は光の壁に包まれた!頭を突きつけ走って来る古代角怪獣!首周りの角が前に向かって曲がり、巨大な槍と化した!

 しかし光の壁が弾いた!強烈なフラッシュを放ち、古代角怪獣が押し返され、倒された!古代虫怪獣が巨大な目から光線を放つが、これも弾かれ、古代虫怪獣へ反射された!


「よし!ホーリーががんばってくれている。マドーキーを発射させるぞ!制御システムの部分を押してみろ」

「はい!今「閉じる」になってます」「もう一度押せ」「あ、開くになりました!」

 天井の灯りが点滅し、天井が二つに割れた。円筒の遺跡内に光が溢れる!

「ここからはお前一人で考え、こいつを動かせ!」「え…はい!よし。どうやればいいか…」レイブは考えた。

「真ん中のレバーを引け」彼は自分に言い聞かせる様に呟き、レバーを引くと翼のフラップが下を向き、見えないけどVTOL噴射口も下を向いた。押せばその反対。

「レバーを引けばマドーキーは上へ、前へ倒せば下へ向かう。次は足元の板。ペダルだ」

 右のペダルを踏めば右へ、左は逆へ。

「その左手のスロットルがこいつを飛ばす魔導具の力を変える。

 前に押せば強く早く飛ぶ。戻せば力が弱まる。レバーの赤いボタンは恐らく敵へ魔力を放つ武器だ。

 そしてこの剣の柄は、これが俺の新しい聖剣だ!」いい顔をしてやがる。大丈夫だ。


「よし、スロットルに魔力を込めてゆっくり操縦桿を引け」私はコクピットから離れ激を飛ばした。

 レイブが念じると、操縦席のスイッチ類が光った。そして魔導エンジン?の唸りが響き、機体は僅かに浮いた。

「行けるな?無茶はせずゆっくり動かし方に慣れていけ!」私は親指を立て、コクピットを閉め機体を飛び降りた。

 マドーキーは浮き上がり、開けた天井へ飛んで行った!


 そして私はモノレールの方に向かい、消えた!空間移動し、古代怪獣二匹に向かい、鎧を纏い巨大化した!


 閃光と共に登場するイセカイマン!

 遺跡を護るバリヤーの外に仁王立になり、二大怪獣に挑んだ!

 遺跡を飛び立ったマドーキーが遺跡の上空を旋回し、機首をこちらに向け、魔法を放った。

 それは二匹の怪獣に命中し、敵を転がした!聖者の魔力を増幅したバリヤーは勇者の魔力と干渉しなかった。

 大空に飛び立つ古の勇者の翼を、今を生きる勇者レイブが蘇らせたのだ!


 イセカイマンに向かって再度角を突き立て突進する古代角怪獣!それを空中一回転で躱すイセカイマン!そして

「発射!」操縦桿のボタンを押し魔力を込めるレイブ!

 マドーキーの機首から光線が放たれた!いいな~。

 古代角怪獣の角が爆発した!絶叫する角怪獣、その角は粉砕されていた!

「やったぜ!」

 イセカイマンも空中転回キックで虫怪獣へ一撃喰らわす!倒れる虫怪獣!


 更に怒り狂った、首周りの角を失った角怪獣が突進して来る。これを受け止めて首筋にチョップを連打!戦場を遺跡から遠ざける。

 虫怪獣がこちらにムチ状の触覚を放った!

「させるか!」マドーキーの光線がこれを切り裂いた!虫怪獣も光線でマドーキーを撃つが、マドーキーは宙を旋回し、光線を躱した!

 空中一回転する時、雲が横にたなびいてるんじゃなくて何故か上方向に細長かったけど気にすんな!

『凄いわレイブ!』「解るんだ。飛翔魔法が仕えていた頃の感じで、自由に空を飛べるんだ!」


 虫怪獣はレイブが受けてくれている。角怪獣は任せろ!

 イセカイマンはナンチャッテ光線を放ち、角を失った角怪獣の胴体を粉砕した!

 マドーキーではレイブが柄に手を掛け、魔力を流した。

 機種から放たれた聖剣の魔力-それを模した魔力光線で真っ二つに貫かれる虫怪獣!そして大爆発!

 更に宙を舞う角怪獣の脳天にも聖剣光線を浴びせ、爆散させた!

 狂暴凶悪な古代二怪獣は消え去った。


 イセカイマンはマドーキーに親指を立て、頷いた。

「あ…有難う、イセカイマン!」マドーキーはイセカイマンの周りを回り、遺跡へ帰って行った。

 イセカイマンも大空へ飛び立った。


******


 円筒形の遺跡内に難無く着陸したマドーキーを迎えたクレビー、ホーリー、シルディー。そして私。

「カッコよかったわよレイブぅ~!」飛びつくクレビー、を無視して「魔導士殿!」レイブはこっちに来た。ヤメテー!

「先ずは君をサポートした彼女達の歓迎を受けなさいって」「そうよー!」「あ、はい!」3人からの抱擁を受け、ちょっと、いやかなりデレデレなレイブ。微笑ましいねえ。


「何とかモノになったかしらあの子」うわスゴい上から目線なフラーレン。

「私達魔族からしたら新しい脅威もいいとこなんだけど」尤もだエンヴォー。

「でも何故この遺跡やあの武器が作られたのか、昔の勇者は何を恐れていたのか、何故すぐに魔族と戦う事を思ったのか。ここにその答えはあるのか」

「ライブリーの言う通りだ。この基地はこの世界の知識や技術で作られた物じゃない。どっちかというと私の故郷の技術に近い。そのものと言ってもいい位だ」


 等と話していると、マド-キーの下の床がせり上がった。床だと思ったのは発射台だった様だ。そして円筒状の壁の一部が開き、台上のマドーキーは回転し、床に埋められたレールを走り開いた内部…他にもマドーキーが並んでいた。格納庫だろう、そこに格納された。

「他にもマドーキーが…」

 壁のモニターを見たホーリーが「メンテナンスモードって書かれているわ」格納庫の天井からクレーンが降りてきて、マドーキーの各部ハッチが開く。出動後は自動で修理点検されるのか。


「やはりこれはこの世界の技術じゃないなあ。こうやって人が居なくても自動で修理され、使える様にされるんだ」

 メカ特撮シーンっぽい情景を前に、皆が私の話に聞き入った。

「古の勇者も、あなたの世界から来た異世界人だったのでしょうか?」

「その可能性もある。ここにはこの戦いの隠された謎がある。徹底的に調べたい」

「この遺跡を有する領主の一族として、お願い済ますわ!」

「俺も…何が出来るか解らないが、頑張る!」「いい顔をする様になったじゃないか!」

「レイブはずっとこうよ?アンタなんかよりずっといい顔よ?」ブスっとクレビーが口を挟む。

「そういう事ではありません。魔導士様が言ってるのは、レイブくぅんと初めて会った時、魔王を倒した後と比べてって言ってるのですよ」

「そうだ。俺は聖剣を、君達の聖杖や聖槍、聖盾が消えてしまって、あれからずっと怖かったんだ」

 彼は自分の心に正直になったんだ。その結果、恐らく転移させられる前の、弱かった自分に引きずられたんだ。でも。

「でも俺には君達がいる。一人じゃない。それに、新しい使命がある。迷ってなんかいられない。

 ここに戦いを終わらせるカギがあるなら探そう!魔導士殿!是非力を貸してくれ!」

「ああ。謎には必ずカギがある。今日も我らが謎を解こう!」


 かくて、私と勇者達は、戦いが新たな段階に進んだ事を実感したのであった。


…では また明後日…

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