12.何×年もの長い眠りを覚まされた
古の勇者の謎を秘めた…かも知れないダンジョンを求めて私達はデファンス辺境伯領へ旅立った。
失われた時の向こうに夢を求めてラララ~…いかんダンジョンのついでに宇宙までブっ壊しそうだ。
王都からデファンス辺境伯領まで馬車で4日。
「空間移動~チェースっ!」私なら0秒。
「ご主人様が本気を出すと旅情もへったくれも無いわね」
「でも今は緊急事態。早いに越した事はない」
「でもご主人様とゆっくり旅するのも…いいわよぉ?」「それは…そうね」
どうでもいい事をフラーレンとライブリーが話す。
「わたくしはお父様へ報告し皆さまをお迎えする準備を致します!」言うなり馬を駆ってシルディーが去った。
「シルディー…もう家族との蟠りも振り切ったのかな」「どゆ事?」
「彼女は戦士となるため実家を捨てて王都に来たんです」
成程、それで魔王を倒した後王国への最短ルートに当たるデファンス領を避ける様に辺鄙な場所へ迂回してたのか。
そうしなければ私と会う事も無かったろう。単に国王から端金貰って終りだったかも知れない。
いや、王都に着くのはフラーレンが王都を破壊した後だな。そんな事になったらこの呉越同舟の珍道中も無かったろう。
中々運命というものは数奇なもんだ。
なんて考えていたら軍勢が来た!
「シルディーお嬢様の御友人御一行様ー!辺境伯城へご案内申し上げますー!」
何かラッパが鳴ったー!この世界に来て初めてヒト族に歓迎されたよ!
******
デファンス辺境伯領の領都ラ・デファンスは、小高い丘を中心とした城塞都市だった。
丘より離れた外周を石積みの壁が取り巻き、丘と壁の間の平地に街がある。街道筋に橋と門があり、橋の外側にも門と、その脇に小さい砦がある。
町の中には小さい城塞の様な建物…礼拝堂や騎士団の駐屯地があり、城内に侵入した敵への抵抗拠点となっている。
そして丘の麓に堀と城壁と内外二重の門、丘の上には防壁と駐屯地と礼拝堂と、そして居館が合体した飾り気のない主要区間が建っている。
更にその後ろに物見塔、そして一際大きなドンジョン(天守)。
基本的な配置は王都と同じ上、建物の規模や装飾では王都に遥かに及ばないのに、何?この厨二病を刺激する興奮?!
この街を覆う、活気ある雰囲気の成せる業なのだろうか?街では人々が手を振って迎えてくれている!
うれしいなあ。こういうの久々だなあ。
一行は領城へ招かれた。王城の様な華美な装飾は無いがしっかりした建物で、随所に段差や凹凸があり、走力に紛れた腑射装置も無数に隠されている。
城に踏み込まれても最後まで戦う意思がヒシヒシと感じられる。辺境伯の称号は伊達じゃないなあ。
城の奥に面会の間があり、扉が開かれると…
「勇者レイブ殿、魔導士テンポ殿とその御一行、よく来てくれた。歓迎する」
王様然とした初老の偉丈夫、恐らくデファンス辺境伯か?そしてその左右には…
豪華なドレスを纏ったシルディーが二人?!「「「シルディーが二人??」」」レイブ達も同じ事思ってた!
「あらあら、そんなに若く見えるかしら?」右側のシルディーが笑った。
「皆様、こちらはわたくしの母君に御座います」「いつも娘がお世話になってます~」シルディーより言動が軽い?その分若く見え…
一瞬シルディーの刺すような目線が気になったので、考えるのを…止めた。
しかしシルディーも花が咲いた様な美しい立ち振る舞いだ。母親のインパクトにちょっと気が削がれたが、こちらも充分ビックリドッキリ、そしてウットリだ。
「シルディーがこんなに可憐だったとは…」レイブも驚きと感動で固まっている。何かを訴えんとする愚賢者をホーリーが羽交い絞めにして抑えている。
私はレイブに目配せし、自己紹介を促した。勇者一行に次いで私達も挨拶した。
「我は元魔王軍の巨竜遣いにして今は魔導士テンポの妻、フローレン!人族に下げる頭は持ち合わせて居らぬ故理解されよ」
色々爆弾投げて来たー!てか妻かよ!今更感あるけどさー!
「相解った。既に娘より報告を受けている。人族の礼を無理強いはせぬ故、存分に寛いで欲しい」
辺境伯、人間が出来てる!
「ご理解頂けた事、感謝する」といいつつ、礼をするフローレン。あ、人族だからじゃなくて理解者として礼を捧げたのね。
「同じく魔導士テンポの妻のフラーレンでぇす!」「同じく妻ライブリー」「同じく井坂十蔵!」皆妻って言ったー!あと何かヘンな事言う奴いたぞ?あれか?どこかでフカシ話でも聞いたか?
「魔導士殿は随分多くの妻をお持ちだなあ!」「お恥ずかしい」空気が和んだ。
「お父様!わたくし達はダンジョンに参りたく存じます!」「ダンジョンに?」
「魔王は確かにレイブ様ぁが倒しました。しかしその直後に新魔王が出現し、私の仲間であった聖女ホーリーも何者かに操られ、新しい勇者を召喚しようとしました!」
「…お前からの報告は受けていたが。勇者殿、魔導士殿。間違いはなかろうか?」
「はい」と答えたレイブに続き、私は補足した。
「しかも新魔王の使う魔法陣と、勇者召喚の魔法陣は共通の古代文字で書かれていました。魔王と勇者の戦いには、我々の知らない謎が隠れているかと思います。
もしかしたら『古代の勇者が眠る』と言われるこの地のダンジョンに秘密の鍵が隠れているかと!」
「何?シルディーから聞いたのか?!」「あ」
そう言えばシルディーからその事聞いてなかったな。シルディーも首を横に振っている。
辺境伯は頭を抱えた。
「我が領も屈強な戦士と王国最高の魔導士を向かわせたのだが、古の勇者との関係までは掴めたが、眠っているとまでの情報は得られなかった。それを貴殿等はいとも…」
「そのダンジョンに両者の因果を示す様な手掛かりがあれば、この戦いの意味を知る事が出来、あわよくば戦いを終わらせる術を知り得るかと思います」
「戦いが終わる…それは誠か!」
「解りません。しかし、そうあって欲しい!勝手ながらそう思っています。無理に戦いに駆り出された妻達の為にも」
妻達が私に近づき、手を取り腕に触れる。
「そうか。我が領は古来より魔族の戦いで多くの死者を出した。いずれの魔族も殺意に満ちた男達と言い伝えられているが…魔族も女性となると少々異なる様だな」王は考えながら言葉を放った。
「父上、何卒我等にダンジョンへの立ち入りの許可を!」「解った」「何卒!…え?」
「行って、謎を解くのだ。そして得られた知識で戦いを終わらせる、それがデファンス家の使命なのかも知れぬ。強力な魔物も多いが勇者殿や魔導士殿がいるのであれば心強い。頼んだぞ、シルディーよ!」
「はい!」
「勇者殿、魔導士殿。娘の未来を、この世の戦いを終わらせるため、宜しく頼む」辺境伯は、続いて伯爵夫人が私達に頭を下げた。
貴族は上位の貴族や国王にしか頭を下げないのだが、私達に敬意を示してくれた。
******
「チェースッ!」とダンジョンの入口である陥没へ。「やっぱり旅情もへったくれもないわね」ごめんよフラーレン。
「ここってさっきの城からどれくらい離れてんのかしら?」
「馬車で2日はかかります。途中魔物と出会わない分とても楽です」
いつものビキニアーマーに戻ってもお嬢様言葉は戻らないシルディー。強烈な違和感が最早武器と化している。痛い、フラーレン尻をつねるなって。
「あー素朴な疑問なんだがシルディー、君は何でいつも無口を装っていたんだ痛い痛いって!」ライブリーまでつねって来た!
「はい。父上から『やたら舌が回る女は好かれない』と聞きました故」「物には程度って物がなあ!」
「いつも口数少なく諭してくれるシルディーも素敵だけど、可憐で華やかなシルディーも素敵だよ!」「…はあ~んレイブくぅん~!」
おお!ヘタレ少年が堂々と女性を褒めている。先の一戦で一皮剥けたか?いや物理的肉体的な意味じゃなくて。
後ろで相変わらずホーリーがクレバーじゃないクレビーを羽交い絞めにしている。
「で、この穴がダンジョンの入口か。人工物じゃなくて、天井が抜けたか魔獣が掘ったか、だな」
地下へ続く大穴。周囲を木の柵が巡っていて「魔物入りキケン、入れば死ぬで」とキツネ目の魔物が人を襲う絵も描かれた看板が立てられていた。
その穴を私達一行は空間魔法でゆるりと降りた。
「便利過ぎてなんだかなあ」ともらすレイブ。
穴の底に着いた。途中、人の背丈ほどある蝙蝠魔物が襲ってきたが、指先から光線を発したりナイフで刺したりして倒した。
地面に着くと巨大な鼠魔物が出てきたが、指先からガス弾っぽい何かを打ち出し、あと火炎噴射して倒した。
「魔力を持たない魔導士というだけで不思議なのに、何故そんなにホイホイ魔物を倒せるのでしょうか?」
「実はコ〇ベクソースーツを着ていて」「コ〇ベ…?」「すんませんウソです。ヘ〇オ上昇ベルトも持ってません」「???」上手くごまかしたぞ。
「ここに、ダンジョンの奥へ続く道がございます」
等と賑やかなパーティーに、洞窟の窪みに潜んでいた魔物が襲い掛かる!
しかし今度は勇者レイブが悉くなぎ倒した。やるじゃん。私も楽でいいや。
「聖剣が無くても、戦えるものですね」「それが魔法や他者の力に頼らない君の実力だよ」
「そ…そうですか」「素敵よレイブぅ~!」ホーリーの羽交い絞めをにゅるりと抜け出したクレビーがレイブを襲う!とっても賑やかだ。
「皆様!あれは…」
階段の果てにはちょっと広いスペースが開けて…ってこれ、石積みの遺跡とかじゃない。
継ぎ目のない水平と垂直な壁に囲まれ、長細い空間の両端は空洞…いやトンネルだ。天井には白く長細い筒が付けられ、空洞の先まで石の棒というか柱、いや、コンクリ製のレールが伸びている。
空洞の真ん中に方形の箱、いや車両が止まっている。
これ、モノレールの駅じゃね?!
「これはかつて我が領土のどこかに続く、『古の勇者の神殿』に誘う輿ではないかと言われていますが、この先は土に埋まってしまっています」
この場から前後遥か先までトンネルが続く。
輿、というか車両の先端、鍵があるんで空間操作でクルっと回してダッシュボードっぽいのを空けると案の定ワンハンドルマスコン。左端には手をかざすパネルが。反対側も同様だった。
普通は無人運転、非常時は有人か。
「凄いですわ。古の輿の中にこの様な仕掛けがあったとは!」
「これは恐らく魔力で動く。レイブ、このマスコンを握り、左手をここにかざしてくれ」彼が言われた通りにすると、暗かった車両の中に光が灯り、前照灯も灯りモノレールの遥か先を照らした。
「こ!こんな動きを…」「さあ、みんな中に乗るんだ」いっこうが乗ると私は操作パネル入り口側のデカく縦長の金属棒のスイッチを押し込んだ。同時に扉が閉まった。
「よしレイブ。この竿を上に少し上げるんだ」「わかった!」マスコンを初速に入れるレイブ。ゆっくりと動き出すモノレール。
「きゃあ!動いたわよこの馬車!」「魔力で動く馬車なのね」クレビーとホーリーが驚く。
「勇者の魔力で動く…勇者の存在を前提に作られたのが聖域という遺跡…」ライブリーが呟く。
「凄いぞ?真っ暗でも早さは解る!馬よりも早い!」マスコンをもう一段上げようとする勇者。
「ちょっと待て!古い遺跡だ。途中が崩れているそうだ。そこに突っ込んだら私達は全員お陀仏だ。
この速度で前を注意していくぞ」
「あ、ハイ!解りました!」
******
途中、数か所が崩れて土に埋もれていたが「時間逆転チェースっ!」と数百年戻して道を開いた。
更に途中色々な魔物が出たがモノレールで轢いてやった。
「こ、こんな道があったとは。あのダンジョンにこんな秘密があったとは!」シルディーさんが狼狽している。
「まあまあ。これは人が作った物だよ。恐れる必要は無い」と答えたものの、彼女は戸惑うばかりだった。
「やっと旅情が出て来たかしら」「魔物を轢き殺すのが旅情?…」「気にしたら負けよ」と妻達、あジェラリーは座席に寝っ転がって寝てる。
程なくしてモノレールの終点が見えた。途中分岐等も無く、一直線だ。
扉を開け、車両を降り、X星地下通路みたいに光が灯る道を進むと…
そこは巨大な円筒状の空間だった。
その中央に、神殿…なんかじゃねえ!今度は小型の飛行機が!
「これが…我が領に古くから伝わる神殿…これは神殿なのでしょうか?!鳥の様な形の祭壇ですが」
「つかこれ何代か前、魔王を倒して聖剣とか失った勇者が魔王の再来に備えて作った、空飛んで敵を倒すためのものだよね?!」
「空を?!魔導士殿はこの遺跡の事を何か御存知だったのでしょうか?」
「知らないって!この世界来たばっかだし!でもこの姿とその名前で一目瞭然だよね!レイブ、君の世界には飛行機あっただろ?」
「え?あったけど、乗った事なんかないよ」「なくてもこれ飛行機って解るよね?!」「あ、はい」
「そうだったんですのー!もっと早くお見せすればよかったですわー!」ガーンって効果音が聞こえそうな勢いでシルディーが頭を抱えて崩れた。
「人族がこれほどまでの物を作り上げていたとは、驚きました」
「ライブリー。魔族にもこういう遺跡はあるのでは?」
「遺跡の専門家ではありませんが、聞いた事がありません」
「私も貴族の端くれでしたが、同じです」「ジェラリーは…」口空けて立ったまま寝てた。
「私も知りませんが、或いは宰相のササゲー様であれば何か知っているかも知れません」とエンヴォー。
魔族側に似た物がある線は薄そうだな。
「何かこの遺跡に、文字で書かれたものはないかな?」「文字はないのですが、この小さな机に黒い壁と手を象った板が」
それは壁というよりコンソールだった。さっきのモノレール同様、手を置くためのパネルもある。「レイブ」「はい!」
彼が手を触れると円筒状の遺跡に光が灯り、何かの回転音が唸る。
コンソールに古代文字が表示される。え~と。
「我、勇者としてこの地に召喚されし者也。祖国への帰還叶わず、この地に骨を埋める決意を固めたり。
魔王はこの手により倒したれども再来の不安拭い難く、再戦に備える要有りと認む。…言い回しが古いね。この遺跡どれくらい前の物かな」
「遥か古代、400年程前と伝えられています」「浅!微妙に歴史浅!」「えーっ浅いんですか?!」
「400年位なら記録色々残っているでしょう?」「それが、この遺跡には紙の物などが無く…」「ペーパーレス化の弊害だー!」
恐らくこの画面に表示される事が全部なんだろうなあ。でもこれだけって事は無い筈で、色々なドキュメントが階層化されたフォルダに格納されてる筈だ。地球での仕事を思い出すなあ。何々?
******
「聖剣を失い飛翔魔法も失ったけど勇者の魔力は残っている。
なので勇者の魔力で空飛んで敵を刺す魔道具を作った。
敵を追跡する車や敵を圧倒するゴーレムも作ってる。
自分達はまだ戦える。自分達が死んだら、心やさしい後輩達、後を頼む。
解らない事があったら、私ニ電話クダサイ、ドゾヨロシク」
大昔の健康器具かよ!?
******
成程この勇者は後を憂いてすべきことをしたが肝心の伝承が絶えていた、と。駄目じゃん!
まあ次の勇者まで間が空き過ぎたんだろうなあ。他にも車とゴーレムがあるのか。
「良く読めますねえ」他人事のホーリー。「君かあのお馬鹿さんでも読めないか?」「無理ー」「賢者全然賢くないじゃん!」
「私は何とか」おおライブリー。ウチの妻は出来が違うぜ!
あ、妻…。そっちの問題も早く何とかしないとな。結婚式して宣言して…それはさておき。
「魔導士殿!これが勇者の武器なら、俺で使いこなせるんじゃないか?空を飛べるなら、イセカイマンと一緒に怪獣と戦える!」
「そうだな。恐らくこれを作った勇者は、イセカイマンなんて存在をこれっぽっちも考えていなかっただろう。自分一人で戦うために作ったんだ」
待て。自分一人、じゃないな。自分『達』と書いてあった。彼にも賢者や聖女、戦士といった仲間がいたのだろうか。検証が必要だな。
「よし、ではこの…これ何て言うんだ?」「わたくし達デファンスの物は古の勇者の魔力の武器があると推測し、魔動機と名付けています」
「もうちょっとカッコイイ名前ないもんかな?サイキックファルコンとかテレキネシスフェニックスとか」
「サイキ?テレキ?何でしょうかそれは?」「異世界の言葉?ヘンチクリンねえ」「あーもうマドーキーでいいや!」
イセカイマンがピンチになったらマーカーチェンジとかして欲しいなあ。イセカイマンに変身時間制限ないけど。敢えて言えば水じゃなくて酒飲みたくなる位?
******
その頃、宰相ササゲーさんが勇者の魔力を察知してこの遺跡に辿り着いた。
「この尖塔に囲まれた遺跡の中に奴等が!」そして時空転移魔法を放つと、遺跡周辺の平地に巨大な魔法陣が現れ…
凶悪な古代怪獣が二頭出現した!
「後は本能のまま暴れよ!」とササゲーさんは去った。
出現した怪獣は二匹。操る魔族はいない、恐らく古代怪獣だろう。
前傾して首周りに放射状に首が生えている奴と、何かムカデに手足が生えたみたいな古代虫怪獣か?
その二頭が遺跡目指して進撃する!
どうなる遺跡、どうする遺跡!
今回予算の所為かイセカイマン出て無いよ!
…では また来週…
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