5.アヌヤサ ニバラナ キレサ サヌヨジャナ

 王城も離宮も瓦礫の山となり、外壁もあちこち崩れ去った王都。今日もゾロゾロ平民が逃げていく。

 平民だけでなく公爵とか伯爵も逃げていく。

「貴様らそれでも公爵かー!屋敷を接収するぞー!」「御随意に」「ムキー!!」

 もう終わりだよこの国。


「で、何で俺達にお呼びがかかったんだ?」

「まさか報酬を出さないって言うんじゃないでしょうね?そうなったら残った王都全部残らず更地にして隣の国に売ってやろうかしら!」「さんせ~い!」「債権回収…」

 一同は、王都を逃げた公爵家の館、今は王に接収されて仮王宮となった宮殿に着いた。


******


「報酬は払えん」

「スーパーデリシャス!ゴールデンスペシャル!」鬼瓦より怖い顔のクレビーが魔力を発動させんとして光を放ち始めている!

「やめてクレビー!」「緊急停止ー!」

「待ってー今すぐ払えないだけなんだからー!」

「いつ、いつだあ!」大〇秀治かな?

「300日以内!」「リザーブゴージャス!」詠唱再開!

「あー待て待て30日以内!」「毎度ありー」魔力が一瞬で消えた。

「オホン。それにしても凄い魔力だ。これだけの力であれば魔族の操るあの魔竜共もカンタンに倒せるではなかろうか?」

「こ、国王様!奴等は巨大で、私達の力では」

「あ~、大きければ倒せるのであれば、いい物を与えよう。ホレ」

 控えていた家令達が王座(仮)の後ろのカーテンをユ〇・ブリンナーか勝〇太郎みたく左右に開くと…


 宮殿の裏庭に巨大なゴーレムが立っていた!しかも金属製の、べらぼうに高価そうなゴーレムだ。

「あのゴーレムは一流の魔導士のみが扱える代物だ。大きいだけの魔竜など勇者パーティーが力を合わせれば、恐れは知・ら・な・いー!であろう!」

 感動の眼差しで輝くゴーレムを見上げる一同。だが、足元に目を向けると地面に若干めり込んでいた。

「お、重そうだな…」「効率悪そう…」「あれうごくのかしらぁ~」「貴族趣味!」

「ええい勇者よ!この王が貸与するゴーレムで見事巨竜を討ち果たせ!勝利した暁には空き家となった貴族邸を与えよう!」

「…事故物件じゃん」「ちょいケチねえ」「大〇てる!」この世界にもあるんだ大〇てる。

 あれ二、三歩歩かせたら魔力切れ起こすよね。源実朝の唐船か?

 おお、それでも勇者とスキスキ隊は挑戦するみたいだな。若者よ、挑戦せよ!


******


 一方オープンでトップライトの魔王様邸。

「マンチェスターじゃかウィンスペクターじゃか知らんが無様よのう」

「新魔王様それを言うならウィンチェスター…」

「じゃかしいわ!次なる作戦はどうなっちょるか!」頭良さそうなナイスバディ宰相さんが魔王のじゃロリに怒られてる。

「人族では搦手から攻めよと申します」ガ〇ガかな?

「魔族等身大部隊を編成し、巨竜を警戒して隙を作った勇者を襲います」

「おお、敵の逆手を取る作戦じゃな?」

「左様」

「よし!直ちに勇者を倒すのじゃ!」「はっ!」

 待て。一周廻って普通の戦いに戻っただけじゃね?

「ふぅ~」

 あ、宰相さんなんか安堵してねぇ?


 だがもちょっと待て。魔王城の下では決死隊が編成されている。脳筋男がいなくなった今、女の子ばっかりだ!例によって巨乳娘達がビキニアーマーを纏って集まっている。

 こんな娘達があの脳筋勇者に挑んだらスキスキ隊に瞬殺されてしまう!人類の宝が!魔族だけど!

 いかん!この娘等は!私の!命だー!せんせー!

 ムダな争いは止めさせよう。

 おや?宰相さんに敬礼するこれまたナイスバディさん。

「こんな戦い慣れしてない決死隊で、どれだけ戦えるもんだろうねえ」

「いえいえぇ?戦い半分、策略半分ですのよぉ?」前の三人とも違うお色気さんだな。

「エンヴォー。勇者を倒せるのか?」「無理でぇす」「何だとー!」

「勇者は倒せなくても、仲間割れは起こせますわよぉ?」「ほほう」ほほう。

 おお、敵も脳筋ばかりじゃないな。狙いはアイツか。


******


「ぜ~は~ぜ~は~」賢者クレビー、死す。

「ひぃ~、ひぃ~」聖女ホーリー、死す。

「ふう!ふう!」勇者レイブ、半分死す。

 最初の位置から一歩歩いたゴーレムの前で勇者とスキスキ隊の二人が死んでいた。生きてるか。

 どうしてこうなった?!


「やっぱりふう、巨大なふう、ゴーレムを動かすには!もっと強力な魔力が必要だ!」

 見りゃ判んじゃん!

「…一目瞭然」シルディーも止めろよ!

「君達何やってんの?」「お、恩人殿!」「恩人じゃなくて魔導士だって」「じゃあ魔導士殿!」

「こんな鉄の塊ロクに動く訳ないじゃん。少し動かそうとしたところで何で止めないかねえ」

「す、す、少ない報酬を埋めるためには!す、す、少しでも!稼ぎを!はあはあ」

「本当に賢者なのかいこの娘」

「な、な、何ですってええ~~…」力尽きたか。

「皆俺の事を思って頑張ってくれたんだ!悪く言わないで欲しい」

「いやだって君達、今超ピンチじゃない」

「「「え?」」」

「今満足に叩けるの魔力使ってないシルディーさんだけじゃない?

 ここ狙われたらちょっと力あるヤツでも結構戦えちゃうんじゃないか?」


「そのと~~~りよ!」

 甲高い女の声が響くと、宮殿の上にさっき決死隊を組織してた魔族の女!エンヴォーと言ったな!下から見たらいい眺めだぞ。

「我が手を下すまでも無く、自ら瀕死の状態を招くとは愚~か愚か勇者隊!」ベ〇クカッツェかゲ〇サドラか。

「我が部下の手に罹って死ぬが良い!」

 と、宮殿の上にズラっと姿を現すナイスバディなモブ子ちゃん達!もとい決死隊!シ〇ッカー再生怪人軍団か不良番長の敵軍団かって位の壮観!

「行け!」

「「「とおーっ!!!」」」全員ゴ〇グルかビ〇ューンかって高高度ジャンプしたー!こちらに駆けて来る!

「血風!」戦士シルディーさんが駆けだした!マズい!シルディーさんが本気で戦ったらあの娘達ミンチにされてしまう!


 宙空へ瞬間移動!そして変身!&閃光!!

「「「うおまぶし!」」」目を覆うシルディーさんと決死隊の女の子達!

 そして華麗に着地!

「貴様はあの巨大な!…あれ?」


 等身大です。


 巨大化してムチムチボンデージな女の子達踏み潰たりしたらゴ〇ドマジンガーになっちゃって全国の良い子達に歪んだ性癖を与えてしまうからね!

 襲い掛かる決死隊の娘達を優しく往なして放り投げた!

「きゃっ!」「いやん!」おお、可愛い声だ。何かに目覚めそうだ。

 敵の決死隊長、エンヴォーがクレビーとホーリーの頭を両手で掴み上げている。

「憎き敵二人の首、頂いた!」

 私は目…の位置のゴーグルからビーム…を模した光る魔石のナンチャッテ光線を放った!

「きゃっ!痛!」エンヴォー隊長の手に命中!クレビーは顔面からドサっと地に伏した。


「助太刀無用!」シルディーさんが駆け寄る。私は声にエコーを掛け、

「待てまてまててて…、今はいまはいまは…勇者達を非難させるのだのだのだだだ…!」撤退を促した。

「くっ、無念!」駆け出したシルディーさんはレイブをお姫様だっこして宮殿を去った。

 あれ?クレビーとホーリーは?女の友情って儚いねえ。

 私は二人を両手に抱えて飛んで逃げた。他人の彼女なんて嬉しくない両手に花だな。

「追いますか?」

「いや、今はいいわ、一旦引きましょう!」敵の女の子達は引いた。ああよかった。


******


「何と言う体たらくだ!ゴーレムも操れず、我が膝元までに現れた魔族に成す術もなく逃げ帰るとは!」

 騒動の後仮王宮に再度呼び出された勇者一行。

「いやアンタがあんなもん押し付けるから!それに王宮なのに護衛どうなってんのよ!」

「目下ケケナーカ宰相が海外から技能研修騎士を応募している最中じゃ、従来の給与の十分の一でな!」

「ブラックー!ブラック国王!勲章くれー!」

「ええい問答無用!報酬も無用!」「なんですってー!もう帰る!」

「あー聖女ホーリーは教会から報酬があるそうじゃから残れ」

「いゃあんラッキー!」

「…後で山分けだかんね!」やっぱり女の友情は儚い。


******


 やっぱり旅は温泉だ。王都郊外の丘に湧き出す湯に浸かって異世界土産の日本酒を味わう私。いいねえ。

「ホント不思議な味ねぇ」と右隣でフラーレン。

「ワインとは違うけど…舌触りは甘くなくてスッキリだけど鼻に残る香りが甘いわぁん」と左隣でジェラリー。

「こっちのワインも臭みがなくてとてもいい香り…金色で泡が…喉の仏さんがシュワシュワぁ~」正面にライブリー。

 最高の眺めだ、陽の光が異常に直線的に射しているのが何だけど。

 湯に浸かるので髪をアップしているのがまたナイスだ。

「じゃなくて、今度は君達の仲間が集団で戦いに来たんだよ!このままじゃみんな勇者達に殺されちゃうよ!何か戦いを避けるいい知恵ないかな?!」

「そんな事言ってご主人様ぁ~」クネクネと科を作って豊満な体を刷り付けるジェラリー…はいいけど

「そ゛の゛女達侍ら゛じで、ハーレム作るづもりでじょをを!」彼女はヤンデレだ。

「それは男のロマンとしておいて、未来ある可愛い女の子達が無駄に戦って殺されるのは見るに忍びない」

「まあ、私達もそんなご主人様に助けて頂いたのだからねぇ?解ったぁ?ジェラリーぃ~」彼女のマネして挑発すんなフラーレン。

「男のロマンとはやはりそんなものでしょうか…既に三人の女がご主人様を包んでいますのに」ちょっとジト目のライブリーも可愛い。お、「当ててんのよ」しに来たな?


「怪獣使って勇者やっつける路線は早くも変更か?」逆シ〇バー仮面じゃん。

「巨竜の事ね。その巨竜を使役する女を三人も抱きしめてる御仁は誰かしら?」お天道様が頭の上にいる内から抱きしめてないって。

「今頃必死に巨竜と使い手を探すか鍛えてる最中でしょうね!」王国も魔族も人材不足かあ。

「それにしてもエンヴォーさんですか」「知っているのかライブリー!」

「読心術や操心術で他人を巧みに操る魔導士です。今のお話ですと勇者の仲間のどちらかが操作される心配はありますね」

「あのレイブなら仲間が操られたら苦戦するな。そんで操った敵を容赦しない。どっかで水入りにせんとなあ」

「そんなに…敵であるあの人の心配をするのですね」少しライブリーがほほ笑んだ。

「男は女に弱いんだよ」「あの勇者もですよ」「敵じゃないし」「この間敵って言ってましたよ?」参ったな。

「では戦いを終わらせる作戦をしましょう。エンヴォーの技には欠点があります」

「相手の望みを叶える、って催眠だからその望みをブチ壊せばいいって事かな?」

「え?知っているのですか?」

「知っているというか、あのエンヴィーっていう娘か?が放った魔力というか催眠の力がそんな感じだった」

 過去出会った催眠術に似てたなあって直感だけど外れてはいないだろう。

「ご主人様と戦うのは、たとえ宿命であっても御免よね」

「戦いやしないよ。君達が人を傷つけない限り、私は君達を護りたい。フラーレン、ジェラリー、ライブリー、君達は自分達の幸せを考えて、実現に向けてがんばってくれ」

「「「はい!」」」

 その後無茶苦茶入浴した。


******


 王都の大聖堂。この世界に魔王が出現する直前に現れ、人々を救う勇者を選び出した光輝教の聖堂。

 そこにホーリーはいた。祭壇の上には光輝教会の大神官がいた。

 白い服に身を包んだ大神官はホーリーに告げた。なんかフードが深いのでどんな人だかは解らないな。

「あなたは聖女として魔王を見事に討ち果たしました。貴方の戦いは終わりました。

 しかし!今不幸にして新たな魔王が復活し、再び王都を襲っています。

 今あなたは勇者に替わって新魔王を亡ぼし、この世界を導くための鍵となるのです!

 その暁にはこの国はあなたの思うままとなるでしょう!」

 女の声だった。


「わ…ワタシノ…オモウママ…うふ、うふふふ!うふふふ!

 マオウヲタオシ!レイブくぅんヲスキスキニ…ウフフフ!」

 こいつもヤンデレか。しかし何でこんなのが聖女になれたんだ?

 それにしてもコイツのイカレっぷりヤンデレっぷりも異常だ。更に気になるのは『世界を導くための鍵』ってとこだ。

 なんだかいい様に使い捨てられる『駒』でしかなさそうな気がするな。

 ふと敵の動向が気になったので解放感溢れる魔王城へワープ!


******


「で?おめおめと逃げ帰ったか?」キビシい宰相さん。

「いえ、第一段階は成功です」「第一段階?」

「勇者パーティーの一角、聖女を我が手中に収めました」

「それしきの事が何になる!」人の話は最後まで聴こうよ宰相さん?

「勇者は仲間にはとても甘い。我が手中に降った聖女が賢者や戦士と諍いを起こせば、その力は削がれるでしょう」

「よし!そこを直ちに攻撃し勇者を討ち取り一気に王都を支配しなさい!」おや?180度態度を変えやがった。

「お待ち下さい!」「何?」

「勇者がオロオロしていれば、如何にイセカイマンが魔物を切り刻もうと止めは刺せません。

 勇者パーティーの内輪揉めを確認し、イセカイマンが無力化された後に巨竜を攻め込ませましょう」

「ようし!それで行くわ!」

 え~…部下の手の平でコロコロ意見変える宰相さん。

 魔〇提督かー!!

 上司にしたくない敵幹部No1だなあ。


******


 神殿から帰って来た聖女。

「でどうだった?報酬何万ゲルド?もうみんなでこんなケチ臭い王都飛び出してどっかで贅沢に暮らしましょうよ!」

 俗っぽさ満開な賢者。ホントこいつ賢者なのか?ハナっから欲望に洗脳ズッポリじゃねえか?


 そんな俗物賢者に聖女が言い放った!

「聖女ノ名ニオイテ、賢者ト戦士ヲ勇者ぱーてぃーカラ追放スル!」

 追放しすぎてパーティーじゃなくなってんじゃん!

「ちょっとホーリー何言ってんのよ!」「…阿呆?」

「聖女の御告げに背く者は、異端として処刑しますが何か?」聖女の後から大神官がやってきた。

 その後ろには屈強な男達…何か聖職者というよりボディービルダーみたいだな。法衣の上からでも解るなんかムサい感じ。

「ホーリー!俺達は4人で一つの仲間だったじゃないか!俺は追放なんて認めないぞ!」

「勇者様はこの女達に誑かされています!ただちに拘束し神殿へ!女達は国外へ追放!」

 大神官の命でマッチョ達がフードを脱ぎ!ムキムキボディでクレビーとシルディーに迫った!


「反撃!」シルディーが鎧を脱ぎっ…て脱ぐなー!ギリギリなアンダーウェア姿でポーズを決めて胸筋を動かして対抗している!対抗になってんのか?てかシルディーもヘンタイさんなのかー?

 ひるむマッチョ達!だが対抗してムキムキポージング合戦!何だこれ!

「おほぉ~素晴らしいぃ~うっとり」女大神官が何か壇上でクネクネし始めた。駄目だ!コイツも駄目な奴だ!

 この王国駄目な奴しかいねー!


******


 色々物理的にも精神的にもブッ壊れた王都に、エンヴォー隊長率いる決死隊の女の子達が再度迫る。

 その背後には、無数の影がうごめいていた!

 結局神殿からクレビーとシルディーは今週のビックリドッキリメカに担ぎ上げられた感じで追い出されていた!

「コレデ勇者ハ私ダケノ物…ウフフフフ!」

 これは洗脳された結果なのか素なのかホーリー!

「これで勇者パーティーへの報酬も半分我が懐にガッポガッポじゃわい!」

 廃墟と化した離宮の王座で、端金をケチって自らの足元を崩して喜ぶド阿呆な国王!

 どうする王都?どうなる王都!

 もうどうにでもな~れ~!


**木曜日に続く**

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