父はヒーロー
僕は小学校の頃、陽キャと呼ばれる部類にいた。暗そうで本ばかり読んでいるクラスメートがいれば必ず声をかけ、一人でいる人を作らないようにしていた。気付けば周りには常に友達がいて自分が一人になることは無かった。
皆のリーダー的存在だったこともあって勉強には特に力を入れた。中学受験にも学校で唯一成功し、僕はさながらヒーローのような扱いを受けた。
しかし新天地ではそう上手くいかなかった。様々な学校から少なくとも二人ずつ入学してきたのでクラスが決まった時点で僕は一人でいることを余儀なくされた。
こうして一人での生活が始まった。ここでの友達はさながら部族が合併するかのように複数人同士が一つの集合になる、を繰り返すことで成り立っていた。友人のいない自分は圧倒的アウェーでのスタートとなった。負けずに色々な人と話してみたがその場は話せても結局話した人は元のグループに戻っていく。どんなに話しかけても輪に入れなかった。そして最終的にグループは男と女、どちらにも属さぬ自分の三つに分かれた。折角努力してここに通う権利を得たのに逃げ出したくなった。
また人に囲まれたい、という思いはいつしか愛情への欲求に変わっていた。ネットでパートナーを探した。何かこれといって秀でたものを持っている訳ではないが、もう誰でもよかった。そしてそのままどうにか学生生活を乗り切れた。後に婚姻届まで提出した。女児も二人授かった。愛に満ち溢れていたはずなのにまだどこか満たされなかった。
長女が高校に進学し、バイトを始めた。バイト先を頑なに話そうとしなかったのでGPSを付けて翌晩向かってみると、荘厳な風貌でありつつも煌びやかに建つキャバクラだった。娘の職場環境の視察という名目で自分を騙し、入店をした。小学校以来の尊敬の眼差しを向けられる感覚、一人でいる人も見当たらない。まさしく自分の求めていた世界だった。皆の幸せを維持するためと思えば嬢の飲み費すらも安く思えた。家族の祝い事の度にたくさんの人に祝ってもらおうと嬢の元に通うようになった。一度に消費する額はまちまちであったが、高い日には六桁にまで届いた。そんな日々が次女を第一志望の大学に受からせるだけの金銭的余裕を無くし、家族からの冷たい視線に耐えかねていつものように嬢に逃げた。
いつもの店でいつもの嬢を指名する。そしていつものセリフで迎えてもらう。
おかえりなさい、お父さん
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