第4話

 一人目は執事長。

「おや、どうなさいましたか?……成程なるほど、リュミエルの頼みなのですね。私は事件当日、南側のホールで皆様のご対応をしておりました。時折部屋を離れる方もいらっしゃいましたが、多くの方が数分とかからずして、ホールへと戻られました。ええ、翼蜥蜴ワイバーンが現れた時にお客様のうち外に出られている方はいらっしゃいませんでした。ただしくは貴方以外は、になりますが。……はい、無論むろんこの私も。パーティーがはじまって以降一度も外には出ておりません。誓って証明いたしましょう。女神ルナイアの名の下に。」



 二人目は女中の一人。

 厨房を任されている彼女は、当日火番を任されていたという。

「当日の動き…ですか?私は南にあるホールと、東の厨房を行ったり来たり、あとは皆さまに振舞ふるまうご料理の準備をしていました。ええ、今日は雪のふる寒い日でしたから煮込み料理と、あとはお坊ちゃまのお好みに合わせたケーキを。火の魔法を扱うのは私得意なんですよ。リュミエルには負けますし、他の魔法はてんでからっきしですけれど。」



 三人目は衛士の一人。

 まさしく西側の塔で、突如現れたという魔獣を追ってげきを飛ばしていた男だ。

「ああ、翼蜥蜴ワイバーンは突然現れたんだ。北側の塔からな。宝物室担当の衛士が追いかけていたから加わった。人一人簡単に載せられそうな、あれだけの巨躯だ。こっそり忍び込ませるなんて真似、出来るワケがねぇや。誰か魔法の優秀な奴が、召喚術でも使って呼び出しでもしたんじゃねえか?なんて、召喚術は高等すぎるか。そんなことができそうなのは招待客でも位の高い方々か、それこそ伯爵ご夫妻くらいになっちまうもんな。属性魔法や幻惑魔法ならまだしもさ。」



 四人目は北側の警護を担当する衛士。

 竜珠ドラゴンオーブのネックレスが保管されていた宝物室の見張りを任されていたその人だ。

「パーティーがはじまる一時間前に見回りをした時には、たしかにネックレスがショーケースに入っていたな。そこからは俺は一度も中に入っていないぜ。宝物室の入り口で警護をしてた。それが毎年のきまりなんでな。

 ……ああ、それと見回りの時に執事長が来たな。部屋の施錠のためにだ。でも、執事長より俺の方が後に出たし、その時にケースを覗いて、ちゃんとこの目で確認したぜ?んで、ここで警護してたら急に中から翼蜥蜴ワイバーンが壁を崩して現れたわけだ。

 あとはお前さんらの方が詳しいだろ?中庭にいたらしいしな、リュミエルのやつと」



「……ということだ。不足があるのならもう一度戻って聞き取りをしてくるが?」

「んん、いやぁ、その必要はないかな。お陰で助かったぜ。」

 朗らかに礼を返す少年リュミエルは、何をしているのやらさっぱり分からない。暴れまわっていた翼蜥蜴ワイバーンむくろの側へとしゃがみこみ、何やら確かめていることだけは分かるのだが。


「いったいそれで、お前は何をしているんだ。」

 なので、直接聞くことにした。

「んー。ちょっとな。魔力の痕跡が分からないかと思って。」

 言いたいことは分かるが、理解が出来なかった。こちらの眉間に刻まれたしわを見ないまま、けれども視抜いているようにこちらへ更なる言葉をかけてくる。

「君はさ、翼蜥蜴ワイバーンの特性って知ってるか?あるいは、竜珠ドラゴンオーブについて。」

「どちらもそう知らないな。当然だろう。」

 魔獣についての詳しい授業は、学院の二学年時に習うという。何れそこに通うことを期待されてはいるものの、まだ専門の授業どころか、入学の確定すらしていない状態だ。



「そっか、普通はそうなのか。俺はそこそこ識っているけれど、まあ普通に竜と聞いて想像つく知識があれば十分さ。あとはこの竜珠ドラゴンオーブが火属性だってことさえわかっていれば。……奥方様がたがあまり詳しくなさそうなのにはちょっとばかり驚きだけど」

 そういって立ち上がった少年は、からりと快晴のような笑みを見せる。この雪降る季節には似つかわしくないものだ。


「と、いう訳で行こうか。主人様あるじさまがたに犯人が分かったって伝えに行かないと。」

「はぁ!?」

「あ、ちなみに君が聞きに行ってくれた人たちの中にいるぜ。」

「はぁ!?!?」

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