第3話

「おい、お前!……ええと、リュミエル!」


 駄々広い廊下をかける。誰かとぶつかる心配などは二の次。そも今は盗難騒動の後だからと、多くのものが宿泊向けの客間へと通された後。通路を行き交うのはいくらかの使用人だけで、その内の一人を今、まさに追いかけている所だった。

 呼びかけに気が付いたようで、金の髪を持った少年はそこでようやく振り返ってこちらへと向いた。


「ん?ああ、君か。さっきはごめんな。フォローしようとしてくれたのに遮っちゃってさ。」

「別に、気にしていない。……あの様子だとしようとしまいとお前は厄介なことを押し付けられていた気もするしな。」

 指先ひとつで魔獣の軌道をそらしたなどと、口にしたところで誰も信じるまい。むしろそういった演出をわざとして見せたとでもあの子息なら言いそうだった。


「あはは、まあ否定はしないけどな。俺がそれだけ無茶ばっかりやらかしてるから、向こうもいい加減辟易へきえきとしてるんだろう。」

 落とし前はちゃんと自分でつけているんだけれどと笑う少年の言葉がどこまで真実かはわからない。だが、少なくとも先ほどのやり取りでこちらが庇われたことには何も変わりない。だから続く言葉も、自身にとっては至極当然の帰結から発されたものだった。


「無茶だと理解しているのならそもそもあの提案自体どうかと思うが……。自分に何か手伝えることはあるか?」

 そう、至極当然の帰結だ。自分を庇った結果目を付けられたのだから、手伝うという発想は。

 だというのに目の前の男は、ひどく驚いた顔をして目を丸くした。


「手伝う……って、俺を?」

「他の誰を手伝えというんだ。まあ、余所者の自分に出来ることなどさしてないがな。」

 舌打ち混じりに返したが、変わらず翠は丸い。不要だったり邪魔なら断れと素気すげなく口にすれば、それでようやく彼の動きは再びはじまった。


「いいや、一緒に手伝ってくれるのなら嬉しいさ。なら、お手伝い願おうかな。……これからいう人たちにちょっと、聞き込みをお願いしていいかな?」

「構わんが……ああ、だがお前の主人とやら相手だけはごめんだ。」

 元々彼と親交を深めるという母親の名目ではあったが、とんでもない。先ほどがなっていた調子を見ただけで十二分に、そんな気は消え失せていた。

 それよりも今は、この飄々ひょうひょうとした笑みを浮かべる少年が、果たしてどんな無茶をしてこの問題を解決するのか。そちらの方が余程関心がある。


「あはは!なら仕方がないな、ちょっとうちの従業員たちに話を聞きに行ってくれ。俺の頼みだって言えばきっと聞いてくれるだろうから。」

 それならばお安い御用だ。名と担当する場所を聞いて、頷きとともに踵を返した。

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