赤と白のあれの話

人生

人生を振り返った時に「一番エロかったエピソード」の筆頭として出てくるやつ




 これは、私がまだ小学生だったころの話です。

 もう十年以上前のことなのでだいぶ記憶もおぼろげで、正直この話の核心に関しては自分の妄想だったのではないかという気すらしてくる……そんなレベルの、まあ暇つぶしにちょっと覗いてみるか程度の感覚で読んでくれればいいなという話です。


 人生を変えた衝撃の初体験とするにはインパクトに欠けますが、「保健室の先生」という響きを「エロい」と感じるきっかけになったといえば、まあそれなりに衝撃的なエピソードではないかと思われます。


 その出来事は、恐らく四月ごろに起こったと思われます。

 というのも――記憶が曖昧というのもありますが――あれは、新学期、地元の小学校に新しくやってきた教師陣を歓迎する催しだったと思われるからです。


 私の地元……正確には、私は転校してきた身なので生まれ育った地ではありませんが、そこはそれなりの田舎で、地元民と教師の距離もとても近かったのです。具体的に言えば、一車線挟んだ隣同士に小学校と公民館があります。小学校の催しには地元区民も参加するし、その逆も然り。なにせ保護者がみんな地元民なので。


 そのためか、地元民も参加して、教師たちを歓迎する飲み会のような催しが行われていた訳です。場所は公民館の二階のイベントホール的な場所。なので教師陣も車を学校の駐車場に停めたまま、徒歩で参加できるという訳です。

(ちなみに、学校への行き帰りは最低でも車で一時間はすると思われます。その日の帰りは代車でも呼んだのでしょう)



 強烈に印象に残っているのは、今回の本題が終わった後の帰り道、とにかく家に逃げ帰ろうとしていた私を襲った、一切の光が失われた「真の闇」です。街灯と街灯の距離が遠く、照明の届かないエアポケット――頭上に大きく広がった枝葉に遮られ、田舎のくせに月明りも届かない、とんでもない闇……。前後不覚になるほど、異界的な何かに迷い込んだのではないかと錯覚するほど――とてつもない闇のなかに迷い込んだこと。

 舞台となる地元がどれほどの田舎なのか、この想い出がそのイメージの参考になるかと思います。



 話を戻して――飲み会です。そのせいなのか、そのあとに二次会でもあったのか、新任だった我がクラスの担任が何やら帰りに飲酒運転か何かで捕まったらしく、赴任して早々休んでいるかと思えば、代理の教師がやってきた、というエピソードもあります。

 当時の私は飲酒運転云々については聞かされておらず(恐らく他の同級生も)、「何か事情があって休んでるらしい。そのあいだ他の人が担任になるらしい」程度の認識でした。後になって、何かの拍子に親から聞かされたのです。

 後になって分かること、分かるようになったこと――今回の本題も、そういう趣旨の話になります。



 さて、大人の飲み会に関する話だというのに、なぜ当時小学生の私が登場するのかといえば――


 当時の私(と、弟たち)は夜中に家を抜け出すことにハマっていた――というと語弊がありますが、別に毎夜そうしていた訳ではなく、飲み会だったりと夜中に大人連中が外で騒いでいる時、それをこっそり見に行く、みたいなニュアンスで受け取ってもらえると。

 ちょっとした冒険心のようなものです。その飲み会にはうちの親も参加……というか手伝いに入っていた、というのも動機の一つです。見知った教師がいるとはいえ、さすがに他人だらけの空間に行けるほど大胆な小学生ではありませんでした。


 他にも、今思い返せば――その飲み会には恐らく、同級生や見知った(多少憧れのあった)上級生もいたのだろうとぼんやり記憶しています。いや、あえて言うまでもありませんが、親が居酒屋に子どもを同伴してきた、みたいなニュアンスのやつです。そういうフランクな田舎だったのです。なにせ、同級生の親が公民館に勤めてたもので。たぶん、そもそもこの飲み会の話も同級生経由で耳に入ったのがきっかけではないか……と。実際どうだったのか、今となっては誰も憶えてないと思いますが……。

 ともあれ、当時の私は転校性で、時折そうした地元民イベントの話を同級生連中がするものだから、ちょっとした疎外感を覚えていた――それも、覗きに行った動機ではないかと、若気の至り発見、みたいな気持ちです。


 そんなこんなで、おもに興味本位に家を抜け出し、公民館へ。ちなみに、徒歩数分の距離。

 場所は公民館の二階で、隣に小学校があることもあって街灯も多く、比較的明るい空間でした。一階も二階も電気がついている……。当然、人の気配もする。

 しかし、一階の大部分は車庫や倉庫のようになっていて、裏手にはかつて幼稚園か何かだったという小さい小屋(物置き)と、その敷地の外に地元外の人間の別荘らしき建物(普通に幽霊屋敷)。そこら一帯は暗黒空間です。街灯こそありますが、人のいる一帯が「明るい」のに対し、そこは明らかに「暗い」……そう感じる雰囲気がありました。

 ただ、大人に隠れて覗きに来た身としては、そういう場所がかっこうの隠れ場所、落ち着ける拠点となりました。


 そこを拠点に我々、調査隊は度胸試しに向かったのですが――さっそく見つかったのか、調査に出向いた弟がコーラをもって戻ってきました。


 しかも、見つかってものを受け取って来ただけでなく、後をつけられていたのです。


 現れたのは、女性。すぐには誰だか判りませんでした。なぜなら、暗かったからです。そして、雰囲気が学校で見るそれとは大きく異なっていたからです。


 酔っていたのでしょう。声をかけられてそれと気づきました。


 その人は、保健室の先生でした。新任ではなく、確か二年目とかだったと思いますが、例によって定かではありません。


 その時かけられた言葉が今でも忘れられません。それは仮にも学校の教師であるに相応しい言葉だったかと思いますし、それで私は一つの学びを得ることになったのですが、それはどうにも自分の中で歪んだイメージとして記憶に残っています。


 つまり――夜にコーラを飲んではいけない、と先生は言いました。


 カフェインが入っているから、眠れなくなる、と。


 コーラといえば炭酸、たまに飲める特別な飲み物、というのが私の中でのコーラのイメージでした(今では毎日のように飲んでいますが……)。

 カフェインという成分の存在はぼんやりとしか知らず、「コーヒー」に入っているものという認識しかありませんでしたが――この時、私はコーラの中にカフェインが入っているということを知ったのです。


 そして――


 その当時はそこまで鮮烈な印象ではなかったのですが――後年になってふと脳裏をよぎるのは――なんか、エロかったなぁ、という感想。


 ……ほろ酔いな感じの、若い大人の女性を目撃したのです。


 それからというもの、コーラの赤い缶を見るたび、加えて「カフェイン」というワードを耳にするたび、うっすらと思い出すようになりました。


 これはいわゆる「刷り込み」というものなのかもしれません。赤地に白文字のコーラのパッケージ……それと、「なんかエロかった」という感想が頭の中で結びついてしまったのです。

 コーラと「暗闇」が結びついていれば、その暗闇の中でなんらかの恐怖体験をしていれば、それは一種のトラウマになっていたことでしょう。幼い頃の体験というのは往々にして衝撃的になるものです。無知がゆえ、純粋がゆえだからでしょうか。今は、大抵のことではそこまで印象に残ることもありませんが――


 やっぱり今でも、コーラを見ると、というか赤と白のものを見ると、なんだか変な気分になります。


 そういえばこの投稿日はクリスマス・イヴ。聖夜といえばサンタ――せいや。なんだかえっちな響きですね。みなさんも刷り込みにはお気をつけください。



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