第3話

 その日の夕食は豪華だった。郷土料理なのだろうか、宏輝こうきが見たことないものばかりがズラリと並んでいた。


「美味しい……」

 出された山菜さんさい料理は濃すぎず、甘すぎず、どれもちょうどいい味付けだった。野菜は正直そんなに好きじゃない宏輝だったが、珍しく箸が進んだ。

 

「よかった、よかった」

 宏輝たちの食べる姿を見て、おばあさんは言った。

一輝いつき君たちはどんなものが好きなのかなって、いろいろ考えてたんだよね」

 娘さん―—、美桜みおさんが笑いながら言った。

「そうそう、育ち盛り男の子って聞いていたから、唐揚げとかガッツリしたやつのほうがいいかなってさ〜」

 おばあさんの息子さん―—、裕介ゆうすけさんもその隣で言った。


“冬眠狩り”と聞いて怖くなったけれど、こうしてあたたかく迎えてくれて、味方になって守ってくれる人がいる。それを感じて、宏輝は少しホッとした。


「一輝君は中学生?」

 宏輝の横に座る一輝に裕介さんが声をかけた。

「はい。中一です」

 一輝はメガネをクイッとかけなおして答えた。

「ほぉ〜。一輝君は賢そうだ。裕介のときとは大違い」

 おばあさんは笑いながら言った。

「お袋、今それ言うのかよ〜」

「そういえば、裕介君は勉強が苦手だったもんな〜」

 あははと笑い声が響く。それに驚いて寝ていた裕介さんと美桜さんの息子、那由他なゆた君が泣き出した。

「あらあら……」

 美桜さんが抱っこすると那由他君はすぐに泣き止んだ。

「すごいなぁ……」

 思わずまじまじと見ていたら、

「抱っこする?」

 と美桜さんが言ってきた。

「えっ、いいの……?」


 静かにね、と言いながら宏輝にそっと那由他君を抱かせてくれた。

 ずしりと柔らかい重みがくる。あったかくって不思議な感じ。そっと触れるように人差し指を近づけると、小さな手が宏輝の指をぎゅっと強く握った。


 宏輝は何だか初めて「いのち」に触れたような気がした。

 小さくて、弱くて、でも愛おしいもの。守らなくてはいけないもの。


 自分もそういう存在だったのだろうか。

 そんなのことを考えていたら、那由他君がまたぐずり始めたので、美桜さんにお礼を言って那由他君を戻した。


 その日は案内された部屋で兄と二人で寝た。慣れない布団のせいで、なかなか眠ることが出来なかった。


 ❄︎

 翌日、冬眠先として案内されたのは保田家の離れだった。

 保田家は築年数もそこそこの古い家だが、一方の離れはというと、わりと最近建てられたものらしく、洋風の造りをしたしっかりとした建物だった。

 元々はおばあさんの旦那さん——、おじいさんの趣味のための部屋だったらしい。おじいさんは趣味で絵を描いていて、生前せいぜんは近所の人を呼んで教えていたりもしたそうだ。定年を迎えてからもよく絵を描いていて、裕介さんが寒い冬でも暖かく過ごしながら絵が描けるようにと、この離れを作ったらしい。

 けれど、実際に使うことができたのは半年ほどで、風邪をこじらせてそのまま亡くなってしまったそうだ。


「せっかく作ったのに、今はほとんど使ってなくて……。僕たちもどうしていいか分かんなかったし、冬馬とうまさんたちがいいならと思って」


 玄関は寒くならないように二重にしてあった。寒い地域はそういうふうに作られることが多いらしい。

 外のガラス戸を開けて、さらに奥の鍵のついた扉を開ける。

 離れの中は、流しとテーブル、絵を描くスペースがあるシンプルな造りだった。部屋は一つしかなかったが、家具を片付ければ、眠るには十分な広さだった。どれも宏輝たちが来る前に綺麗にしてくれたらしい。埃は見えなかった。


「僕らが時々様子を確認するから安心してね」

 部屋に飾られた絵を見てまわっていると、裕介さんが優しく笑いながら言った。


 ❅

 実際に眠るのは予定では一週間ほど先だった。

 自分たちの眠る時期は厳密には決められていない。だるくなるくらいの眠気が二日続いたらもう冬眠の合図なのだ。

 

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