第2話

 冬眠狩り——。その言葉を聞いて宏輝こうきはゾッとした。

 

「狩り」と言う言葉はもちろん知っている。宏輝はイノシシやキツネといった獣が、猟師に撃たれてぐったりとしているところを想像した。

 

「えぇ。見つけた後どうするかは分かりませんけど、冬眠先が荒らされていたり、実際におそわれた人もいたようです」

「それは、怖いですね……」

 息子さんは心配そうに言った。


「あの子たちは知ってるのかい?」

 おばあさんが両親に尋ねた。

 宏輝は隣にいる兄をちらりと見た。兄も宏輝を見た。


「いいえ。でも、一輝いつきは気づいているかもしれない。あの子は勘のいい子だから……」

 一輝は思わず目を伏せた。


「急なお願いを引き受けてくれて、保田ほださんには感謝しかありません。本当にありがとうございます」


 頭を深く下げる両親におばあさんは首を横に振る。

「いいの、いいの。昔あなたたち一族に私たちは救われたのだから」


「……な、分かったろ?のんきに喜んでいる場合じゃないんだよ」

 宏輝は小さく頷くことしかできなかった。


 ❅

「どう?少しは休めた?」

 話し合いが一段落したのか、暫くして両親が部屋に入ってきた。

「ここの家は本当に広いよね〜。後で他のお部屋も見せてもらおっか」


 両親は“冬眠狩り”のことなんて気にしてないように明るく振る舞っていた。

 自分たちに心配させたくないから、という一心でそうしているのだと知ってしまってからは、それにどう反応していいか分からなくなってしまう。

 

「どうした、宏輝。疲れたか?」

 心配した父が聞いてきた。

「ううん、なんでもない。……ところで今回寝るところってどこ?」

「あぁ、そうね。あとで聞かなくちゃね」

「じゃあ、父さんが聞いてくるよ」

 両親はそろって部屋を出た。


『のんきに喜んでいる場合じゃないんだよ』


 兄の言葉が重くのしかかる。

 少し前の自分の行動や言動がいかに愚かで軽はずみだったかを思い知らされる。


(どうしたらいいんだろう。どうしたら狩られなくて済むんだろう。狩られたらどうなるんだろう。なぜ僕たちは狙われるのだろう)


 宏輝はぼんやりと外を見つめた。

 

 窓の外の木々には、ぼってりとした雪が覆い被さっていた。暫くしてそれは音を立てて崩れて落ちていった。

 

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