第29話 進路選択
「だってさ」
愛里は自分の声が眠そうだと思う。
強く主張する気にもなれないし、だいいち、妹相手に強く主張してもしかたがない。
「
諫武はいま高校二年生だ。
したがってあの
それはいいとして。
愛里が高校二年生のときに、愛里がどこの大学を受けるか、大学までは決めなくてもどこの学部を受けるか、という話をした。諫武もお母さんも交えてそのことは延々と話し合った。
そこで出た結論が、諫武はお店を継がないかわりに、愛里が栄養学科に行って食品の勉強をし、店の跡継ぎになる、ということだった。
もともと愛里は文系志望だった。
自分自身が名探偵だとはちっとも思わないけれど、ミステリーが好きだった。
いや。ミステリーが好きだから、自分が名探偵でないのがよくわかるわけで。
読んでいても犯人が当たる確率はかなり低い。しかも手がかりまで含めて当たることはほとんどない。
「だいたいこいつらしい」と思ったら、ときどき当たる、という程度だ。
でも、読むのは好きだった。だから、大学に行ったら、大学生のあいだ、好きなミステリーの勉強をしてみよう、と思っていた。
その姉に対して、弟の諫武は理科とか数学とかが得意だった。
小学校の六年生のころには独学でプログラミングを習って、モグラたたきのゲームを作ったりしていた。ゴルフのゲームを作ろうとして、でもゴルフのルールは知らないので、それを熱心に調べていたこともある。
それで、お父さんが、諫武に
「ゲームもいいけど、諫武は
とか言ったら、諫武がぽろっと
「いや。ぼくはお店継がないから」
と言った。
ほんとに、ぽろっ、と言った!
それが、ちょうど愛里が進路を決める話をしている時期のことだった。
愛里は、ミステリーの勉強がしたいとは思っていたけど、そこまでのこだわりもなかった。ミステリー作家になるとか、なれるとか、考えたこともない。
それに料理を作るのは楽しいと思っていた。好きだった。
だったら、愛里がどこか家庭科系の学科に進んで必要な知識を身につけ、店を継ぐ。
諫武は自分の好きな道に進めばいい。
そう宣言して、愛里は志望を栄養学科に変えたのだ。
栄養学科の受験となると理系の知識が必要になる。だから、愛里は、二年生で、文系クラスに行くことが決まっていたのに、理系に転換した。まわりの子たちは二年生のうちに理系と理系数学の基礎を終わっていたので、愛里は追いつくためにかなり苦労した。
それで愛里は栄養学科に入った。
いまは研究室でラットの世話までしている。
お店を継ぐ、という話だったから、経営の授業にも出ている。大家さんの家のお姉さんが自分のところのおそば屋さんを手伝っているので、そのお姉さんからいろいろと話もきいている。そば打ち体験とか、かえしを作る体験とかをさせてもらったのも、将来、お店を継ぐときに役立つと思ったからだった。
それなのに?
「むう」
妹がそんな声を立てた。
あの不満そうな声なのか、それともみかんが口に入っているからそれしか言えないのかよくわからない。
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