第28話 二つめの質問

 妹は、ようやくみかんを食べてしまって、二個めのみかんにかかる。

 「夜にあんまり食べると太るよ」

は言わなかった。

 たぶん、あのバトントワリング部の練習で、この妹はエネルギーを消費しているのだろうと思う。

 姉はそんなに体を動かす生活ではないので、二個めはやめておく。

 こたつに足を入れたまま仰向けに寝た。もう夜中の一二時を過ぎているのだから、こういう怠惰なところを見せてもかまわないだろう。

 こたつの向こうに妹の顔が見える。

 けっこう、せっせと食べているようには見えるんだけどなぁ。

 どうしてあんなに食べるのが遅いのだろう。

 まあいい、と思って、愛里えりは二つめの質問に入ることにした。

 言う。

 「それで、もひとつ、ききたいんだけどさ」

 「うん?」

 芳愛よしえはいやそうな顔もしない。

 愛里は続ける。

 「だいたい、今年のお正月はみんなでここで年越しって言ってたじゃない?」

 今年の年越しは本家に行かない。そのかわり、愛里の春休みにみんなで本家に行く、ということで、本家も了承していたはずなのに。

 「それが、どうして、急に、やっぱり行くことになったのよ?」

 ほんとうに急だった。

 愛里には何の説明もなく、

「やっぱり本家に行くことにしたから」

と電話で言われただけだった。

 「ああ」

と、妹は答える。かじりかけのみかんの汁が顎のところに垂れている。

 気がつかないようなら指摘しようと思ったけど、妹はティッシュを取ってその顎のところを拭いた。

 「お父さんがさ」

 芳愛はそこで切った。言いにくい内容だからなのか、みかんを食べる都合か、よくわからない。

 「やっぱりお兄ちゃんが跡取りだから、春本はるもと茶舗ちゃほの跡取りがお正月に本家にいないっていうのはよくないから、って言って」

 ずん、と、胸に来た。

 あの美治子みちこに蹴られたときより、強く来た。

 春本茶舗というのは、愛里のお父さんとお母さんがやっているお茶の店だ。

 わかってくれていると思ったのに。

 愛里が家にいなくなると、話がそこまで巻き戻るのか!

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