第25話 お困りガールの転機
そのときの顔を見ると、この
いまでは、松郎も愛里も東京で大学生をやっている。
同じ東京と言っても、愛里の学校から松郎がいるはずの学校まで一時間はかかるけど。
会ってしまうといやだし、べつに用事もないので、行ったことはない。
で。
兄のほうはそれでよかったのだが。
その妹の
それも、一つではなく、いくつも落ちたらしい。
それで、愛里がかつて在学し、いまは
兄は横暴いじめっ子だったけど、それ相応に勉強もできた。まあ、そのクレーマーお母さんが家庭教師を雇ってくれたかららしいけど。
でも、その妹の美治子は、成績もよくない、努力もしない、という、兄に輪をかけて困った子だった。
愛里は、再びみかんを食べながら妹にきく。
「でも、あの美治子って、陸上部にいたんじゃなかった?」
愛里が大学一年生のときそういう話を聞いた。あの尾谷ゆかりが
「うちの子は跳んだり走ったりが得意ですからね」
と自慢して回っていたという。
まあ、小学生のときに、背が高かった愛里の胸までジャンプしてキックできたんだから、得意なんだろうけど。
その姉の問いに、
「や、め、た、の」
と答えた。
憎しみがこもっているわけではない。怒ってもいない。
笑っている。
芳愛が説明する。
「陸上のどの種目でも選手になれなくて。それどころか、ハードルぜんぶ倒したりとか、走り高跳びで跳んだのはいいけどバーの下側にもかすりもしなかったとか、そんなので。あそこのお母さんがやっぱり指導が悪いとか文句を言いに行ったらしいけど、陸上は陸上で成果がはっきり出るからさ。顧問の先生に「そんなクレーム相手にしてる余裕はないんです」とか言われて」
妹はおもしろそうに言う。
「それで、選択をまちがえた、とか言って、自分は役者の子だ、やっぱり役者になるんだ、とか言って劇団に来たの」
「役者の子だから役者になる」というのが正しい選択かはよくわからないけど、陸上部に入ったのが選択のまちがいだったのはそのとおりだろう。
芳愛が続ける。
「で、芳愛も劇団にいてもずっと小道具とか舞台に雪を降らせる係とかだったから、ま、辞めて。そんなんで、バトン部に声をかけられて」
いや。
ダメじゃない、学校劇団!
こんなかわいい妹を舞台に立たせないなんて。
顔は体までぽっちゃりじゃないかと思うくらいにまんまるくてかわいくて、しかしその体は姉に似てスレンダーで。
それに、恥ずかしげもなく年越しに水着写真を撮ろうなんて言い出す並外れた度胸の持ち主!
でも。
まあ。
セリフは覚えなさそうだな。
それがやっぱり、問題かも。
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