第23話 回想のお困り一家
この
いや、この近所のひとはだいたいそうだろう。
その、愛里の家にいちばん近い田んぼが埋め立てられて、そこに家がたくさんできた。
その一軒をその尾谷家が買って移り住んできたのだ。
お母さんは尾谷ゆかりという俳優だ。尾谷ゆかりというのは芸名で、本名は違うらしいのだが、愛里は知らない。知りたいとも思わない。
尾谷家のお父さんは名まえも知らない。その尾谷ゆかりの所属プロダクションの社長だという話だ。
その引っ越しあいさつの贈りものが、その尾谷ゆかりが着物を着てきりっとこちらを見ている写真だった。尾谷ゆかりのサイン入りだ。
常識のないひと、派手好き、などと近所の噂になった。
お父さんはいつもにこにこと人に接するいいひとっぽかったし、その尾谷ゆかりもふだんは人当たりはいい。
でも、何かあると、近所の人にすぐに苦情を持ち込むクレーマーだった。そのたびに、わたしたち芸能人はとてもデリケートなコンディションで生活していて、ひとの気にならないようなところも気にして生活しているんです、とか言う。しつこくしつこく言う。
愛里の家にも二回か三回来たことがある。聞いていた愛里は、このオバサンのどこにデリケートさが必要なんだろう、と思った。
押しの強さはさすが芸能人、とも思ったけど。
その家に、愛里の一歳上の兄と、芳愛の一歳上の妹の二人きょうだいがいる。
この兄は
その尾谷松郎は小学校のころから上の学年には人気があった。その表情が、気弱で、はにかんでいるように見えるのがその人気の理由だったらしい。
しかし、同じ学年や下の学年に対しては横暴だった。
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