第21話 妹の幸福、妹の不幸

 少女たちは九人いて、主に演技しているのはまんなかの背の高い四人だ。

 バトンを投げて取ったり、複雑なバトンの回しかたをしたり、ポーズを決めたりと派手に動いている。一人ひとりにも見せ場があったし、二人で向かい合って手をつなぎ、つないだ手の上を、あと二人が次々にバック転で超えていく、という場面もあった。

 それに対して、左側二人と右側三人は、ときどきポーズ決めに動きを合わせたりするけど、バトンを回したり、高く掲げたり、左右に大きく振ったりという、単純な動きだった。

 まんなかの四人が先輩で経験者、左右は下級生で初心者なのだろう。

 曲は、途中でドボルザークの曲に変わった。「家路」と言ったかな。

 で、最後に、とてもにぎやかな「蛍の光」になって、女の子、いや、少女たちは手を振ってから、さささささっと退場する。少女たちが退場したところで音楽が盛り上がり、曲が終わった。

 「はい。天鹿あまか市立橘芳きっぽう高校バトントワリング部のみなさんでした。ありがとうございました!」

と女の人のナレーションが重なる。動画はそこで終わっていた。

 「で、芳愛よしえ、どこにいたの? 芳愛みたいなぽちゃい子、どこにも映ってなかったけど」

 ……と意地悪を言ってやりたい気もちにもなったけど。

 「おお、やるじゃん、芳愛」

と顔を上げて言ってあげる。目を輝かせて言った感じになったかな、と思う。

 芳愛は、

「ふふーん」

と得意そうに笑う。

 その妹の笑顔はいい笑顔だ。

 「芳愛、まんなかでいっぱい目立つ演技してたよね!」

と意地悪なことを言ってやりたくなるくらいの、いい笑顔。

 でも、言わなかった。

 かわりに

「みんなで動きを合わせて、きれいな動き作ってるじゃん!」

と褒めてあげる。

 妹のいい笑顔の「いい笑顔」度が二倍くらいになる。

 この妹が幸せそうな表情をしているのを見るのは好きだ。

 「むう!」とむくれている表情を見るのも好きだけど。

 で。

 妹に、これ以上幸せそうな顔をさせる方法も思いつかないので、愛里えりはみかんをひと袋食べてから言う。

 「芳愛さ」

 別に妹の気もちに水を差すつもりはないのだが、その喜びようからすると、とても興ざめした言いかたになってしまった。

 「劇団入ってるって言ってなかった?」

 劇団というのは、その橘芳高校の生徒の劇団のことだ。普通にいう演劇部だ。

 果たして、喜びの絶頂という顔をしていた妹は、いきなり口をとがらせ、不満そうな表情に戻った。

 ひと呼吸おいたのは、不満を表明するためだろう。

 「辞めたの」

 いままでの幸福そうな表情から一転して、ぽつっ、と不機嫌に言う。

 姉は、その妹の顔をじっと見ながら、またみかんをひと袋食べた。

 今度は妹は不幸モードが持続する。

 目を伏せてしまう。

 姉として、何か言ってあげなきゃ、と思う。

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