第17話 年越し後の年越しそば

 愛里えりが「豚ミンチせいろ」のつけ汁を妹と自分の前に置き、そばを大きいザルに盛って妹の部屋に持って行ったとき、妹は不機嫌だった。

 「何これ? へんなの!」

 「なんでおそばを氷で冷やしたりするの? 意味わかんない!」

などと文句を連続して言う。

 だから、愛里がすまして

「じゃ、べつに食べなくていいよ。お姉ちゃん、おなかすいてるから、全部だって食べるから」

と言うと、妹は

「むう!」

ととても不満そうな声を上げて、箸を取ってそばをまとめて引っ張り上げ、それを自分のつけ汁に入れる。

 姉は、自分はそばを取らないで、その妹の様子を見ている。

 あんなに嫌がっておいて、妹は無警戒にそばを口に運んでいる。

 これは本気で毒を盛られたりしたときにまったく無防備ということになるな。

 お姉ちゃんはちょっと心配だ。

 で。

 「ん!」

とさっきとまったく違う種類の声を上げている。

 氷水でしめたそばを、ほんとうに「噛まずにのどごしで味わう」という勢いでのみこんだ。

 「そばは噛まずにのどで味わうもの」という「いきの意識」がこの妹にあるはずもない。

 食欲に任せて、勢いでのみこんだものと思われる。

 勢いでのみこんでおいてから、

「これ、意外とおいしいじゃん」

などと言って、さっそく次のそばをたぐっている。

 この、そばがたぐれる、ということ、つまり、ダマ化してくっつかないこと。

 そして、噛まずにのどを通して、ぜんぜんのどにひっかからないこと。

 これが氷水を通した効果なのだが。

 妹はそんなことはわかっていない。

 たぶん、そばは熱いままにしておくとくっつくという発想そのものがない。

 姉は、余裕を見せて、いま持って行ったそばを妹が食べてしまうまで待ってから、自分のそばを取る。

 けっきょくそばの三分の二は妹が食べてしまった。夕食を食べていない自分は三分の一しか食べなかったけど、まあいい、と思う。夜の十二時を過ぎて炭水化物とか脂肪とかを摂取するのがいいことのはずもない。

 まあ、こんな時間に起きているのがもともと不摂生なんだけど。

 そばを食べ終わってからそば湯を持って来て、それでつけ汁を薄めて飲む、ということを教えてあげると

「えーっ? そんなことするのー?」

と妹はとてもいやそうにした。ところが、愛里が自分のつけ汁を割って飲んで、最後に残っていた豚まで食べてしまうと、妹も急いでそのまねをした。

 とても満足そうに言う。

 「うーん! おいしいね」

 ……この妹、単純すぎ。

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