第13話 台所の姉妹
「いや」
と姉は言う。
「年越しそばって、年を越す前に食べるものでしょ?」
常識的なことを言ったと思う。
「だって」
妹は不満そうだ。
「お姉ちゃんがぎりぎりにしか帰って来ないし」
まあ、それはそうだ。
東京から遠いんだからしかたがない。
「それに、お姉ちゃんだって、おなかすいてるでしょ?」
「ああ」
じつは、途中のサービスエリアでの休憩時間におそばを食べてこようかと思ったのだが、混んでいたので、やめた。休憩時間をオーバーしてしまうと、同じバスのみんなに迷惑をかけるか、それともおそばを途中であきらめるかになる。どっちもしたくなかった。
「……って
横に立って、さりげなく見てみると。
さすがに水着はもう着ていなかったが。
「寝間着の上に
「えーっ?」
その不服そうな声は、何?
「エアコンで暖房つけたし、もうすぐあったかくなるよ」
「もうすぐ、とか言ってるあいだに風邪引くから」
この台所は廊下に開けている。アコーディオンカーテンの間仕切りはあるのだけど、ずっと使っていない。いまも閉まるかどうか。
一時間とかエアコンをつけていればそこそこ暖まるのだけど、それでも足もとは寒い。
「うん」
芳愛の返事はぼーっとしている。
やっぱり不服なのか、ぼんやりしているだけなのか。
で、手を、コンロにかけた大きいお鍋のほうに無造作に伸ばす!
「あああーっ!」
姉が止める。
「何、お姉ちゃん」
これは不服らしい。
不服らしいのだが。
「半纏着てそれやったら、半纏の袖の下のところにコンロの火が移るから」
「だいじょうぶだ……よ」
最後の「よ」が遅れたのは、半纏の袖と、お鍋の底をなめている炎の先のあいだが二センチか三センチしかないことに妹が気づいたからだ。
「気をつけてよ。服に火がついたらたいへんなんだから」
愛里が言う。芳愛の返事は
「うんんんっ」
と「不服そう」度がたいへん上がっている。
「だいたい芳愛って料理はし慣れてるの?」
中学生のころの芳愛は料理なんかしたことがなかったと思う。
「うーん」
芳愛の生返事。
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