第12話 ラット以上に想像不能

 姉も寒ければ妹も寒い。さらに一二時過ぎという時間だ。空気はしんしんと冷えていく。

 似合うかどうか、コーデは、みたいなことは一切考えず、いちばん取り出しやすいものを取りだして、姉は小走りに自分の部屋に戻る。

 年越しをともにした水着は洗濯かごに入れる。

 着るのは急がない。自分の部屋は必要以上に暖かいのだから。

 まず、部屋に来て汗ばんだのを拭こうと思って。

 あ。タオルがない。

 いや。ある。夏にプールに持って行って、帰って来てから洗ったタオルが、水着といっしょに干してある。

 水着を洗うんだからいいだろうと思って、そのタオルを取り、汗をかいたところをく。

 そういえば、シャワーも浴びてないな。

 そうは思ったけど、とりあえず、持ってきた服を着ることにした。茶色のワイドパンツと、ピンクの厚手のブラウスと、白に茶色の柄の入ったノルディック柄のセーター……いや、丈が長いからチュニックかな?

 それと分厚い靴下と。

 それで部屋の外に出るとまた寒い。

 このまま部屋のなかにいてもいい。もうよい子もよい大人も寝る時間だ。

 しかし。

 芳愛よしえは下の部屋で起きていて、姉が下りて来るのを待っているかも知れない。

 寝るにしても、芳愛におやすみぐらいは言って寝よう。

 この服装でも寒いと思った。チュニックの下に、東京から着て来たセーターを重ね着しようかとも思ったが、芳愛の部屋に行くだけだから、と思って、また階段を下りる。

 階段を下りる前に二階の廊下の電気を消して、気づいた。

 下が明るい。

 しかも、「ぶーん」と、換気扇の回る音がする。

 階段の角を曲がったところで、

「ああ、やっぱり」

と思った。

 玄関の隣、前はお母さんの部屋でいまは芳愛の部屋の向かいに台所がある。

 板敷きの開け放しの空間で、寒い。テーブルのあるところだけは絨毯じゅうたんが敷いてあるのだけど。

 天井の照明が白で、まわりの壁も白いので、よけいに寒く見える。

 そこに、妹はいた。

 コンロの火がついていて、上には大きい鍋が載っている。

 いまは手にはさみを持っている。何かを出してきて、はさみを使って何かをしようとしているらしいのだが。

 さすがに半纏はんてんは着ているし、足には分厚い靴下を穿いて、その上からふかふかのスリッパを履いている。首にも謎の襟巻きを巻いている。どうもセーターを横向きに巻いて襟巻きにしているらしく、背中の後ろにウールの袖がだらんと垂れ下がっている。

 まさか、半纏の下は水着のままではないだろうな?

 階段をあと一段残したところで、

「芳愛」

と声をかけると、芳愛は、とろーんとした動作で振り向いた。

 「あ、お姉ちゃん」

 「いや、あ、じゃなくて」

 愛里えりはテーブルを回って芳愛のほうに行く。

 「何やってるの?」

 まあ。

 夜食を作ろうとしている、ということは想像がつくのだが。

 だが、芳愛が言ったのは

「お姉ちゃんも帰ってきたことだし、年越しそば作ろうと思って」

 「はいっ?」

 やっぱり。

 この妹のやることは、ラット以上に想像不能だ。

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