第9話 写しあった写真 ― 妹

 愛里えりは、手をいっぱいに伸ばして、スマホを横向けにして、できるだけ水着が画面から切れないように写した。

 芳愛よしえに見せる。

 「うわあ」

と妹は感激したような声を立てた。

 「やっぱりお姉ちゃんが撮ったほうが巧いなぁ」

 あたりまえだ、と言うところだが。

 そうかぁ?

 たしかに、姉のほうが手が長いのと、最初にズームする範囲を調整したので、さっき妹が撮ったのよりも広い範囲が写せている。

 でも、広い範囲を写しているだけあって、あの逆光問題が生じていて、二人とも暗く写っていた。

 スマホは妹のものだから、ずっと眺めていると妹もそのことに気づくだろう。

 スマホは妹のもの。

 ということは、妹は自分だけで写った水着写真もほしいだろう。そこで

「じゃ、どうせだから、芳愛だけ写らない?」

と言う。

 晴れ着の前だとまたあの妖怪問題が起こるのだが、まあ、いいか。

 「うん」

と芳愛は嬉しそうに言い、両手でVサインを作って、にっこり、というより、いっぱいに笑って写真に収まった。

 今度は、写した角度のせいか、妹の水着の線が晴れ着の前にほんのり影をつけて浮き上がっていて、妖怪化はしていない。

 それに。

 その体の線が、健康女子、という感じで美しい。

 栄養学科のポスターに採用してあげようか、と思うくらい。

 だから、「適度に胸がない」とめてやったのに。

 その姿を黙って見せてやると

「あ」

と明るい声を上げた。

 「お姉ちゃんありがとう!」

 いえいえこれぐらいでありがとうと言われるようなものでは。

 妹が何に感激しているのか、いまひとつよくわからないが。

 芳愛は、自分の写真を見ていたスマホを構え直した。

 「じゃ、芳愛も撮るね、お姉ちゃん」

 はい?

 そういう展開?

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