第18話 ヤーベの仲間を勢揃いさせてみよう


「スライムって一体何のことなのだ?」


「んん?」


俺はイリーナが何のことを言っているかすぐ理解できなかった。何の事って?


「あっ! もしかして魔物の君の名前なのかな? ス、スライム殿とお呼びしてもよいだろうか・・・」


「いや、名前じゃねーし。というかスライムってモンスター知らないのか?」


「やっぱり魔物の君はモンスターだったんだね。でもスライムって魔獣は聞いたことないな」


何だって・・・スライム知らないのか? というか、この世界にはスライムはいないってことか・・・? いや。このポンコツイリーナがただ知らないだけって可能性の方が高いな。


「イリーナは冒険者になる時に魔物の情報をもらったか?」


「うむ、冒険者ギルドに登録した時に、近隣の森に出る魔物の情報をもらったぞ。特に魔獣討伐はギルドの依頼対象で報奨金が出る場合もあるからな」


「そこにスライムはなかったんだな?」


「うむ、スライムという魔物の情報は無かったし、魔獣討伐依頼の中にもなかったと思う。王都に住んでいた時に聞いた話や物語を読んだりして得た魔物知識の中にもスライムなどという魔物が出てきたことは一度もないぞ」


なんてこった・・・。スライムがいない、もしくはレアモンスターの可能性もあるってのか。


「もしかして、魔物の君はすごく特殊な魔物なのだろうか?」


ちょっと顔を赤らめて両手を頬に当て訪ねてくるイリーナ。俺に聞かれても知らねーし。


「う~ん、これは一度ちゃんと調べた方が良さそうだな・・・」


だが、当然俺はこのまま村や町に行って図書館などで調べるわけにもいかない。どうしたものか・・・。


「一度、村に戻ってそれとなく調べて来るとしよう。不埒者どもを引き渡さねばならないことだし」


イリーナの言葉に俺はちょっと感動した。俺のためにスライムを調べてくれるなんて・・・。ポンコツ女騎士だなんて思ってごめんね!


ついでにイリーナのために採取依頼の出ていた薬草を渡してやる。


実は亜空間圧縮収納による鑑定能力が備わってから、あらゆる草を取り込んで鑑定しまくっていたので、薬草や毒消し草は山のようにあるのだ。

このまま森の奥深くで謎の薬師として生活・・・いや、町でスローライフを送るという目標も捨てがたい。


それはそうと、イリーナをこのまま放り出すのは忍びないな。

もう俺がカソノ村で交渉した方が早いような気がするし。


早速悪党二人を引きずってカソの村の近くまで連れて行く。

村の入り口にいた見張りの男に村長を呼んできてもらい、事情を説明する。


「それは大変でしたな・・・。荷車に縛り付けて何人か若い者をつけますので、ソレナリーニの町まで運ばせましょう」


ニッコリ笑顔の村長さんが快く引き受けてくれる。


「すまないね、助かるよ」


「なになに、精霊様のお願いです。なんてことはありませんよ・・・それで開村祭の事なのですが・・・」


やっぱり気持ちよく協力してくれたな。

・・・こっちもいろいろお願いされたけど。

まあ祭りを盛り上げるためだ、出来る限り協力しよう。


よく見るとイリーナがポカーンとしている。


「ま、魔物の君は私には誰にも自分の事を言うなと言っておきながら・・・、このカソの村の住人とはとても仲良しにしているではないか!」


なんかちょっとプリプリして怒っている感じのイリーナさん。なんで?

後、大声で俺を魔物と呼ばないで欲しい。折角精霊を詐称しているというのに。


「このカソの村では、村の井戸が枯渇して困っているところだったんだけど、俺が掘って井戸を改善できたんだよ。それ以来『精霊様』って呼ばれるようになっちゃってね・・・。一応村長さんから村人たちに俺の存在は他の村の人たちには言わないように口留めしてもらってるけどね」


ポンコツイリーナでもわかるように懇切丁寧に説明してやる。


「そ、そうなのか・・・精霊様として・・・。それなら魔物の君として知っているのは私だけということ・・・? なら約束通り、ふ、ふたりだけの秘密ってことに・・・」


なんだか顔を赤らめてクネクネしているイリーナ。なんだ?風邪か?俺にうつすなよ。


そしてイリーナは村の青年たちの協力を受けてカソの村からソレナリーニの町へ旅立って行った。


スライムの事を調べて来るとか言っていたが・・・、まあ、依頼達成料や二人の盗賊?を引き渡した報奨金も手に入るかもしれない。わざわざこんな何もない俺のところへまた戻ってくる必要もないような気もするな。


・・・ちょっと寂しい。


あんなポンコツでも賑やかしとしては立派な存在感を・・・いや、ウザいだけか。いやいや、時代はウザカワ系ともいうし・・・。アホなことを考えながら俺は泉の畔へのんびり帰ることにした。








しばらくして、泉の畔で花に水をやっているとイリーナが戻ってきた。やたら早いな。ソレナリーニの町って歩いて片道二日のはずじゃあ・・・?


向こうに一日居たとしたって、計算おかしい気がする。もう一、二日かかりそうなものだが。

走って来たのか? 汗をかいてハァハァ言ってるな。

・・・うん、変な気持ちにはならないよ。ダッテボクスライムダカラ。


・・・ん? 大きなリュックを背負ってるな。明らかにリュックの上部にはテントらしきアイテムが鎮座している。


「・・・イリーナさん?」


「やあ、スライム殿! 無事に悪党二人は引き渡せたぞ。それに薬草採取も無事達成となって報奨金とギルドポイントも受け取ることが出来た。ありがとう、これも全てスライム殿のおかげだ」


満面の笑みを浮かべて喜びを表すイリーナ。だが、背中の大荷物は何だろう?


「で、イリーナさんは何でそんなに大きな荷物を持ってるんだ?」


「スライム殿。スライム殿は私の命の恩人だ。さん付けなんてやめて、どうかイリーナと呼び捨てで呼んではもらえまいか」


前も言われたね、それ。そういえば俺もイリーナって呼んでたね。

呼んだらメンドクサイ反応するんだろうけどね。


「・・・で、イリーナは何でそんなに大きな荷物を持ってるんだ?」


「イ、イリーナと呼び捨てに・・・、きっとこの後触手で絡め捕られて「イリーナ、お前は俺の女だ!」って抑え込まれて・・・くっ、抱くがいい!」


「イリーナと呼び捨てにしろって言ったのそっちだからね! ていうか、大体荷物の話はどこへ行った!?」


「もちろん、スライム殿のそばで暮らすために決まっているではないか。私はまだスライム殿に何の恩返しも出来ていないのだからな」


そう言って嬉しそうに泉の畔にテントを立て始めるイリーナ。君、イイトコのお嬢さんだよね? 貴族の令嬢さんなんだよね?


「もしもーし、イリーナさん? 暮らすの? ここで? どうやって?」


「スライム殿・・・。スライム殿は私の命の恩人だ。さん付けなんてやめて、どうかイリーナと呼び捨てで呼んではもらえまいか」


「それ、さっきと同じパターンだからね? 呼んで妄想して「クッダク」パターンだからね? しつこい天丼ノーセンキューだからね?」


「スライム殿。ちょっと何を言っているのかわからないのだが」


「狙って言ってるとしたらサンド○ッチマンレベルだからね?」


可愛く首を傾げて俺を見つめるイリーナにかなり激おこプンプン丸レベルでプリプリしてみる。よくわかってないイリーナ、無駄にくっそカワイイなぁ、おい!


『ボス! 調査からただいま戻りました!』


『ついでにエモノ取ってきましたぜ~』


『そろそろあの村で祭りが始まるでがんしょ? いいエモノ捕まえやしたぜ!』


ん? おお、やっとローガたちが帰って来たか。

何か一頭聞いたことない喋り方のヤツがいるな? だいぶキャラ濃いけどそんな奴いたかな?


「なななっ!? 狼たちがたくさん? くっ、魔物の君をやらせはしないぞ!」


よたよたと腰の剣を抜きかまえるイリーナ。絶対弱いよな、イリーナって。


『ボス、なんですか? このへっぽこそうな女は』


いや、ローガよ、そう思ってもストレートに言葉に出してはいけないときもあるのだよ。

君はもう少しコミュニケーション能力を学びたまえ。俺もその意見には全面的に賛同するがな。


『あ、わかったでがんす。人間の雌のようですし、アニキの女じゃないですかい?』


だから、キャラ濃いんだよ。てか、誰だよお前?


『おおっ! ボスが嫁を娶ったということか!』


部下の言葉にローガが勝手に納得する。勝手に人の嫁にするんじゃないよ。

てか、ローガよ。だから、お前直属の部下にそんなキャラの濃いヤツ居たか?


「安心してくれ、イリーナ。この狼牙族は俺の部下なんだ」


とりあえず先にイリーナを安心させるか。


「ま、魔物の君はこんなにもたくさんの部下がいるのか?」


周りの狼牙族を見渡してびっくりするイリーナ。


「まだ帰って来てないけど、三百匹(羽?)のヒヨコも部下にいるぞ」


「ひ、ヒヨコ?」


『ボス、ヒヨコも部下にしたのですか?』


ああ、ローガには話してなかったな。


「ローガが部下になる前にヒヨコを助けたら部下になったんだよ」


俺の説明にガーンとなって落ち込むローガ。どうした?


『わ、我がボスの一番最初の部下とばかり・・・』


あ、順序気にしてるのか。となると・・・


①ヒヨコ隊長(単独一匹(羽?)

②ローガたち狼牙族(六十頭)

③ヒヨコ三百匹(羽?)


という順番だな。


『やはり、我には先輩となるヒヨコが一匹おるわけですな。しかも隊長の役職を与えられているのですな』


若干ジトッとした目で見てくるローガ。そう言われましてもね・・・。


そこへヒヨコ隊長以下三百匹のヒヨコ軍団が帰ってくる。


「「「ピヨピヨピヨ~」」」


バサバサバサッと約三百匹のヒヨコが戻ってくる。


『ボス! ただいま戻りました!』


俺の前で膝をつき傅くヒヨコ隊長。いつ見ても堅いね、コイツは。

でも俺は忘れない。コヤツはハーレム王なのだ。


『むっ・・・』


ヒヨコ隊長を初めて見たローガがこちらへ寄ってくる。


『貴殿がヒヨコ隊長であるか。我は狼牙族リーダーのローガ。ローガの名はボスより頂いたものだ。貴殿の方が先にボスの部下になったと聞き及んでおる。これからよろしく頼む』


ローガよ。お前も律儀で硬いね。


『おお、貴殿もボスの部下になられたのであるか! それにしても狼牙族とは心強い限りでありますな! これからもぜひお互いボスの力になりましょうぞ! よろしくお頼み申します、ローガ殿!』


と言って両翼でローガの前足を取るヒヨコ隊長。


というかヒヨコ隊長も部下のヒヨコたちも狼牙族がたくさんいたのに、全然気後れせず戻って来たな。もしかしてヒヨコって強い?


「こ・・・、こんなに魔物の君にはたくさんの部下が・・・、す、すごい! やはり魔物の君は優良物件であるな!」


独りで両こぶしを握り、ふんすっ!と気合を入れるイリーナ嬢。

いや、アナタ貴族の娘で揉め事のために王都から逃げて来たポンコツ不良物件だからね!


俺を見る前に自分見て!

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