第17話 ポンコツ女騎士を追い返そう


「嫌っ! 離して!」


えらく金切り声が響いてくる。やっとこ泉を浄化して周りの魔物を消化しまくって、水汲みに来た子供たちや村人達と仲良くなって、泉の畔で平和な生活を手に入れられると思ったのに。



またまたトラブルか?



そういや、ローガたちはまだ森の奥の探索から帰って来ていないし、ヒヨコ隊長の軍団は逆に町の方へ情報収集に行かせている。狼と違ってヒヨコは人間たちにあまり警戒されないだろうしね。カソの村からさらに徒歩で約二日、冒険者ギルドがあるソレナリーニの町がある。その町の周りにヒヨコ軍団を派遣している。


そのため、またまた一人で泉の畔で水やりをしていたのだ。


ぼっちだからって寂しくなんかないんだからね!


・・・ウソ。この前カソの村で打ち上げやったから、一人で過ごすのはちょっと寂しささえ感じるようになったね、正直。

どっかの村で俺を受け入れてくれないかね~、チラッ、チラッ(そう言ってカソの村の方を見る)




ああ、状況を思案している場合ではなかったな。


見れば、騎士風の女一人が二人の盗賊風な男に襲われていた。


金属で出来た胸当てと腰回りのパーツからハーフプレートを纏っていると推測する。


ガントレットも金属製のようだ。なのに太ももはむっちり素肌が出ている。なぜに?


異世界どーなってるの? 装備バランスは。

まるでラノベの表紙を飾るミニスカ女騎士みたい。


「きぃーひっひっひ! こんなウソに引っかかるオメーが悪いんだよ!」


「全くだぜ! チョロいにもほどがあるぜぇ」


男二人に襲われて悲鳴を上げる女騎士。というか、こんなゴブリンみたいな盗賊風の男二名にあっさり襲われる騎士がいるのか? もしかしてなんちゃって騎士?


肩のアンダーシャツを引っ張られ、肩当が外れてしまい、服が破られた。


「やだっ! やだぁー!」


泣きじゃくるように叫ぶ女騎士。ついに男の片方に馬乗りに圧し掛かられた。


「へへっ、観念しろってーの!」


「俺たちが薬草取りを教えてやるって本当に信じてたのか? オメー本当に馬鹿だな!」


「ひ、ひどい!」


泣きじゃくる女騎士の胸のプレートを男が引き剥がそうと力を籠める。


「お前たちなどに汚されるくらいなら・・・くっ、殺せ!」


(え~~~~~~~~!! ホンモノのクッコロ頂きましたよ!!)


いや~、さすが異世界! あるんだね~、ホントに。

クッコロなんてラノベネタだとばっかり思ってたけど。

惜しむらくはゴブリンのような盗賊風の男ではなく、オークであれ!


「へっ! そんなに殺して欲しけりゃ殺してやるよ。もちろん散々楽しませてもらった後だがなぁ! がはははは!」


「うううっ・・・!」


これからの惨劇を想像し、絶望の表情を浮かべる女騎士風。

いや、こりゃ女騎士風だよ、絶対。こんな弱い女騎士いないだろ、普通。

だけどまあ、男どもはクズ決定だな。容赦しなくてよさそうだ。さあ助けようか。


「お~~~~い」


「なっ? 何だ?」


俺は右手?を思いっきり伸ばした。


ドゴォ!


「ぶぺらぱっ!」


馬乗りになっていた男が振り返ったその顔目掛けたパンチが見事右顎をヒット!

顎を粉砕して男を吹き飛ばす。


「えっ? えっ?」


女騎士風の女は(ややこしいな!)急に男が吹っ飛んだことに戸惑っているようだ。


「なななっ、なんだっ!」


もう一人の男は仲間を見捨てて逃げようとするが、もちろん逃がさねーよ?

俺は次に右手?をぐるぐると振り回して遠心力を乗せると男を狙う。


「発射!」


ゴスッッッ!


ものの見事に逃げる男の後頭部を直撃する。


「もげげっ!」


男は顔面から地面に突っ伏して倒れる。

え? いつの間にこんな攻撃が出来るようになったかって?

ふふんっ! 俺も進化したってことよ・・・あれ、信じてない?


実の所、右手をイメージして作った触手の中に、石を握り込んでました!


石を握り込んで槍のように直線で伸ばしたのが最初の一撃。モーニングスターや鞭のように振り回して先端に握り込んだ石をぶつけたのが二撃目。拳よりも一回り大きめの石でいったからな。相当なダメージだろう。


「大丈夫か?」


「えっ? えっ? ・・・もしかして君が話しかけているのか?」


女騎士風は助けてもらったことよりも、俺が話しかけたことの方にびっくりしているようだ。そりゃそうか。スライムに助けられるなんて想定外だよね。だいたい喋ってるのも非常識かな?


「そうだよ」


「ま、まさか魔物がしゃべるとは・・・、はっ! 無頼者たちを倒して助けた代わりにこの体を好きにさせろと・・・くっ、抱くがいい!」


「なんでだよっ!? なんで助けたのに抱かなきゃならねーんだよ! ていうか、そこはどうせならクッコロだろ!」


「だっ、だが助けてもらったのに私には何もお礼に差し出せるものがない! この体くらいしか・・・、はっ! さきほどの触手に絡め捕られて、ヌメヌメにされて・・・くっ、抱くがいいい!」


「なぜ上から目線!? それに女騎士はやっぱクッコロだろ! まあ、殺さねーし抱かねーけど!」


「そ、そうなのか・・・」


「何でちょっと残念そうなんだよっっっ! おかしいだろーが!」


「す、すまない・・・ちょっと気が動転しているようだ」


動転しすぎだろーよ。

だいたい、盗賊相手にあれほど泣いて嫌がっていたのに、このスライムである俺には抱くがいいっておかしいだろーよ・・・。


「まさかモンスターフェチとかじゃないだろうな?」


「ええっ!? そそそ、そんなことはないぞ・・・うん。ただ、私の命をその身を挺して助けてくれた喋る魔物さんにドキドキしているなど・・・うん、ないぞ・・・」


うぉーい! 全部心の中を吐露しちゃってるよ!


基本的に白馬の騎士がスライムだったら、普通ドキドキしなくね?

いや、食べられるかもって違うドキドキがあるか。食べねーけど。


てか、前世で全くモテず、ドーテイまっしぐらで賢者どころか大賢者も間違いなしだった俺様が、なぜスライムになったとたんモテている? だいたいねーよ! ヘソまで反り返った俺様のピーーーーが! なにせスライムだからな! ・・・ええ、誇張しましたよ! 俺様のピーーーーなんてヘソまで反り返ってなかったですよ! 



だいぶ盛りましたけど何か?



「あの・・・、魔物の君はずっとここにいるのか?」


女騎士はやたらモジモジしながら俺様に聞いてくる。


「ああ、俺はスライムだし、町に買い出しとか無理だから。金無いし。」


まあ、カソの村には姿を見られてしまったが、なんだか精霊の一種みたいに見られているようだし、内緒にしてもらうように言ってあるしな。てか、カソの村はお店とかあったか?


「なんだろう、すごく切実に極貧な冒険者と会話しているようだ・・・」


やたらとかわいそうな目で見てくる女騎士。やかましいわ、ほっとけ。


「そういや、君の名前を聞いてないな」


女騎士を見つめてみる。

・・・尤も俺様に目があるかどうかわからんから、見ているかどうかわからないだろうけど。


「・・・そんなに見つめられると、照れるじゃないか。むっ、ジッと見つめてこの私に自ら体を開かせるようプレッシャーを・・・くっ、抱くがいい!」


「だからなんでだよっ!・・・て、なんで俺が見つめてるってわかるんだ?」


まさかこの女騎士、魔眼持ちとかか? ラノベにありそうなポンコツ女騎士と見せかけて実はチート持ちってヤツか?


「ん? だって、こんなに熱い目で私を見つめているじゃないか・・・」


と言ってこちらに歩いてくる。


女騎士は右手の人差し指を突き出してくる・・・なんだ? 人差し指がデカくなって・・・




ツン!




「グオオッ!」


「わあっ!」


女騎士は軽く突いたようだが、俺の体は柔らかいため、ぷっすり刺さったみたいだ。


ていうか、外から見たら俺の目があるってことか?


痛覚が無いから痛くはないのだが、ぷっすり刺さったことにより驚いて大声をあげてしまった。


「すっ、すまない! 痛くなかっただろうか・・・?」


すごく心配そうに覗き込んで来る女騎士。やべっ!よく見るとコイツかわいいな。


「痛くはないから大丈夫だ。ちょっとびっくりしただけで。というか、俺に目があるのか?」


「うん、すごくつぶらな瞳で私を見つめているぞ・・・」


両手を頬に当て、赤くなる女騎士。全くもってスライムのこの俺のどこがいいのかわからんが。自分で言って悲しくなるけど。


ていうか、俺につぶらな目があるのか! 集中して見ると目が出てくるのかな?

自分では見られないからな。コミカライズでもされないとわからねーな、ハハ!


「というか、まだお前の名前を聞いていないが?」


肝心なことを忘れていたぞ。いつまでも心の中でポンコツ女騎士と呼んでいるわけにもいかないからな。


「あ、ああ、すまない。私はイリーナだ。イリーナ・フォン・ルーベンゲルグという。よろしく頼む。」




うわ~~~~~、ワケあり来た~~~~~!




フォンって確か貴族の家名に使うやつじゃね?

貴族の娘がこの可愛さで弱いポンコツ騎士の格好で一人でフラフラして盗賊に襲われてたって、どんなワケありだよ! ワケありにも程があるだろーがよ!


ていうか、よろしく頼むってスライムに何を頼むつもりだよっ!


「で? アンタはなんでこんな所に来てあの二人に襲われてんだ?」


「せっかくイリーナと名乗ったのだ。イリーナと呼んではくれまいか・・・?」



めんどくせ―――――!!



めんどくさいが、言うことを聞かないともっとめんどくさくなるパターンだと推測する。


「で、イリーナはなぜこんなところで盗賊に襲われていたんだ?」


そこで血を吹き出しながらぶっ倒れている二人を見ながら問う。

あ、そうだ。逃げ出さないように縛っておくか。

俺は触手を伸ばして木の弦を引っ張ってくると、二人の盗賊をぐるぐる巻きに縛っておいた。


「私はとある事情で王都にいられなくなったので、田舎に逃げてきたのだ。ソレナリーニの町まで旅をしてきて、冒険者ギルドに登録して初めてのクエストに薬草採取を選んできたのだ。その時に冒険者ギルドの酒場にいた二名がこいつらだ。こいつらも旅の途中だったみたいで、薬草取りが得意だから教えてくれるっていったので一緒に来たのだ。このすぐ近くのカソの村までは行商人たちと一緒に来たので、こいつらも私を襲わなかったのかもしれない。カソの村から薬草の話を村人に聞いて森に入ったところで襲われたのだ。やはり最初から私は狙われていたという事だろうな・・・」


うわ~、初めてのクエストで目をつけられて襲われるって、何たるテンプレ! しかも俺が助けなかったら完全アウトな感じじゃなかったか? というか、こいつら盗賊じゃなくて、質の悪い冒険者?


「とりあえず、冒険者ギルドにこの二名を引きずってでも連れていけ。襲われた経緯を話して対処してもらえよ」


「わかった・・・」


と言って弦を引っ張るが、大の男二名分を引きずっては行けないようだ。


「むむむっ! 重い・・・」


「は~~~、すぐ近くのカソの村に話を付けてコイツらを縛ってソレナリーニの町まで連れて行ってくれるように村人にも協力してもらおうか。俺は開村祭を開くためにお祭りの協力を申し出ているから、頼み込めばこちらへの協力も得られるだろう。森にいる精霊様から聞いたと言って、盗賊を運ぶ手伝いをお願いしてこい。さっさと冒険者ギルドに行って報告した上でコイツらを引き渡してしまえ」


そう提案すると、イリーナは両手を胸の前に組み、花の咲いたような笑顔で俺を見る。


「そ、そうか! さすがは魔物の君だ。早速村に行って人を呼んでくる!」


そう言って早速村へ走り出そうとしたので俺は慌ててイリーナを止める。


「イリーナ、わかっているだろうが俺の事は魔物と言うなよ? 森の精霊様と説明するんだ。喋るスライムなんて言ったら変な目で見られるか、討伐対象になって襲われるかどちらかだからな」


・・・精霊を詐称しているけど、カンベンしてね? ホントの精霊とお友達ではあるし。


「なんと・・・、こんなにも真摯な魔物の君の事を誰にも言えないというのか? そんな寂しい事・・・」


と言ってすごく寂しそうな顔をして俯くイリーナ。


これは、うまく念を押さないとコイツはポンコツだからどこでやらかしくれるか全くわからん。カソの村では俺様は精霊という事になっているが、コイツが冒険者ギルドに戻った時に俺の事をうまく説明できるとは思えないな。カソの村と違って冒険者ギルドで森の精霊とか言ったらだいぶまずい事になりそうな気がする。それに今カソの村にはコイツらを運んできた行商人たちがいるようだ。どんなものを扱っているか見たいところだが、俺が行商人たちに姿を見せるのはまだまずいよな・・・


「イリーナ。俺の事は俺とイリーナの二人だけの秘密だ」


「ふっ、二人だけの秘密・・・! 魔物の君との・・・!」


イリーナは顔を真っ赤にして両手で頬を抑え、体をクネクネさせる。

特別な感じを出して俺の事を秘密にさせようと思って言ってみたが、なんだか効果があったみたいだ。まだカソの村の村長たち以外に俺の存在を知られることは得策ではない。なんとしてもイリーナの口から俺の事が漏れるのを阻止せねば。



「ところで、さっきからスライムという言葉が聞こえた気がしたのだが・・・」


「ん?」


「スライムって一体何のことなのだ?」


「んん?」


スライムって何のことって・・・それこそ何のこと!?

俺は頭の上に触手で「?」マークを作るのだった。

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