第14話 村の井戸を復活させてみよう


「そこまでだ!!」


・・・あれ?


俺、今声が出たな。


俺の怒りの度合いがあまりに激しかったのか、文句を言うために発声器官が完成してしまったようだ。純粋に口が出来たのはありがたいが、原理は不明なり(汗)


とりあえず口が出来た?かどうかはわからんが、声が出るのなら話が早い。カンタを助けてやろう。


俺はローガに合図を送る。


ローガは念話を送らずとも俺の意図を寸分違わず汲んでくれる。優秀な相棒だ。


教会の屋根から飛び降りると、カンタの前に着地する。

もちろんカンタの胸倉を掴んでいた男を吹き飛ばして。


「ヤ、ヤーベ!」


思わず泣き出しながら抱き着いてくるカンタに、俺は優しく触手で頭を撫でてやる。


「お前、結構律儀なのな。こんなに大人たちがお前に文句言ってくるとは思わなくてな。俺様の事を内緒にしろなんて言って悪かったな」


俺はカンタに謝る。


「そ、そんなことねーよ! 俺だってヤーベに水を運んでもらってかーちゃんも元気になったんだ。俺の方が助けられたよ!」


そんなことを言うカンタの頭を今度はワシワシしてやる。


「で? 大の大人たちが寄って集って子供相手に何してんだ? 事と場合によっちゃあ、カンタの代わりに俺が相手になってやるよ」


少々剣呑な雰囲気を出して俺は周りを見回していく。


「ま、魔物なのか・・・?」


「でも、あんな魔物見たことないぞ?」


「というか、あの巨大な狼も見たことないぞ!」


ざわざわしだす村人たちを一喝するようにウーザイが怒鳴り散らす。


「魔物が村に入り込んだんだ! みんな退治するぞ!」


気勢を上げるが、誰もついては来ない。そりゃそうだよな、今のローガを見てケンカ売れる奴は相当だと思うぞ。俺はともかくとして。


「退治する? 俺をか? いや、俺たちをか?」


俺のセリフに反応するようにずらっと狼牙族が村人たちを取り囲むように姿を見せる。

ローガを含め全部で六十頭。壮観なり。


「きゃああ!」


「な、なんだ?」


「村長! 狼に取り囲まれているぞ!」


急に大勢の狼牙たちに取り囲まれて村人たちは大パニックになった。

はっはっは、子供たちをイジめた罰だ。反省したまえ。


「スライムさん! 狼さんはスライムさんのお友達?」


チコちゃんが狼牙族に恐れることなくローガを思いっきりナデナデしながら聞いてくる。

ローガよ、そんな何とかしてください、みたいな目で俺を見るな。耐えろ。


「そうだよ。大事なお友達さ!」


『ア、アニキ・・・』


感動してちょっと目がウルウルしているローガ。自分の部下がいるところではアニキと呼ばずボスと呼ぶようにしているようだが、思わず感動して出ちゃったみたいだ。


「貴殿は狼たちのボスということでよろしいか?」


村長らしき爺さんが話しかけて来た。さっき村長って呼ばれてたし、間違いないだろうけど。せっかくだから出来るだけ友好的なコミュニケーションを取りたいものだ。うまくいけば、村に遊びに来られるようになるかも。


・・・尤も狼牙族六十頭も引き連れて村人囲んでおいて友好的も何もないもんだけどな! どちらにしろ大人のくせにカンタを責め立てていたヤツは許さんし、最悪村とうまくいかなくても問題なしだ。


「そうだな、俺がこの狼牙族を纏めている」


「そうですか・・・。出来る限りの事はさせてもらいますので、どうか村人たちには手を出さないで頂けませんでしょうか?」


村長は俺に深々と頭を下げる。


「俺はカンタたち兄妹が一部の村人に責められていると聞いてやって来ただけだ。もともとこの村をどうこうするつもりはないよ」


俺の言葉に心底ホッとした表情を浮かべる村長。狼牙族に囲まれているし、だいぶ心配したみたいだな。そりゃそうか。


「そうですか・・・ありがとうございます。ところで、貴殿がカンタたちに水を届けていたのですかな?」


「そうだよ。こうやって畑にも水をやっていたな」


俺はそう言うと触手をホースのように伸ばして水を勢いよく飛ばす。


「「「おおっ!」」」


村人たちが水をみてびっくりする。


「この水は貴殿が生み出しているのですかな?」


「いや、森の泉の水だ」


村長の問いに正直に答える。


「森の泉は汚染されていたはずですが・・・」


「俺が浄化した。今は水の精霊の祝福を受けた奇跡の泉としてきれいな水を湛えているぞ」


「な、なんと・・・!」


村長は俺が泉を浄化しただけでなく、水の精霊に祝福を受けたことに驚いているようだ。


「貴殿は、まさか水の精霊様でいらっしゃるのですか・・・!」


俺はデローンMk.Ⅱからティアドロップ型へ姿を変える。ポヨンッ!


「「「おおっ・・・!」」」


ふふっ! ここで「ボクは悪いスライムじゃないよっ」ってやりたいけど、どうも村人みんなスライムにみんなピンと来てないようだし、きっとムダだね。


「いや、俺は水の精霊ではない。水の精霊は友達だがね。で、村長。随分とカンタを責め立ててくれたようだが?」


再度威圧するように村長に向き直る。


「も、申し訳ございません! 村人たちの生活を支える井戸が枯れかけてしまっております! 水が村人全員に十分行き渡らなくなってしまい、困窮しているところへカンタの家の水瓶だけ水が枯れない状況に一部の村人が不満を持ってしまいまして・・・」


いきなり土下座したかと思うと、状況を説明し出す村長。


「じゃあ、井戸が復旧してまた水が出るようになれば誰も文句言わないな?」


俺は村長に確認する。


「もちろんでございます!」


すがるような村長の視線に多少辟易するが、このままにもしておけんしな。

何とかしてみよう。


「ウィンティア! ベルヒア! 力を貸してくれ!」


俺は契約した水の精霊ウィンティアと土の精霊ベルヒアを呼び出す。


「はいは~い!」


「お待たせ~」


俺の左右に水の精霊ウィンティアと土の精霊ベルヒアが現れる。


「「「おおおおお~~~~~」」」


村人たちが俺の左右に現れた精霊に驚いている。


「二人ともすまない、力を貸してくれ」


「もちろんいいよ! 君は僕の友達だしね!」


「私ももちろんOKよ~」


二人とも頼もしいね!


「まずはウィンティア。この井戸なんだけど、枯渇しかかっているんだ。水源そのものに問題がないか確認できるか?」


「ちょっと待ってね!」


と言いつつ水の精霊ウィンティアは右手から光を出し、井戸の底を探っていく。


「うん、水源自体は問題ないようだね。この地面の下に水はあるよ」


と、言うことは水の出が悪いのは地盤の問題だな。


「ではベルヒア、水源までの地層がどうなっているかわかるか?」


「は~い、ちょっと調べてみますわね~」


と言ってふわりと浮き上がると井戸の底へ降りて行く。


「ヤーベちゃん、わかったわよ~」


ふわふわと浮かび上がって帰って来た土の精霊ベルヒア。


「何がわかったんだ?」


「もともとこの井戸の下に硬い岩盤層が少しあるみたい。今までこの硬い岩盤層にある亀裂を通じて水が染み出て来たみたいだけど、少し地殻変動があったみたいで、亀裂がほとんど塞がっちゃったみたいね。だから水源から水が上がって来ないんだと思うわ」


土の精霊ベルヒアの説明で理解できた。今までは硬い岩盤層のわずかな亀裂から水が出ていたのが、塞がってしまって水が出て来なくなってしまったわけだな。


こんなことでカンタやチコやお母さんが村人たちに言われない中傷や疑いをかけられるとは許せないな。


「硬い岩盤層は十五メートルほどありそうよ。大丈夫?」


俺がどのような方法をとるのか想像しているのか、ベルヒアが聞いてくる。


「十二発さ!」


俺はニヤリと笑うと必殺のスライム触手(右)をぶん回した。


そして井戸の真上に飛び上がる。


「スライム流戦闘術奥義! トルネーディア・マグナム六連!」


勝手に名付けたスライム触手でのコークスクリューパンチ六連撃。六連撃なのはこの前泉の畔でヒマしてた時にいろいろ必殺技を考えて試して実際やってみたところ、超スピードでのアタックでは現在のところ六連撃がコントロールできる限界だったからだ。


ちなみにスライム流戦闘術は矢部氏の脳内でイメトレされたものである。

ありがたいことにこの世界に彼をチュウニビョウとさげすむ者がいないのは僥倖であろう。




ドゴォォォォォン!




ド派手な音を立てて井戸の底に亀裂が入る。だが、もう一回だ。俺様は再度井戸の上空へ飛び上がる。


「もう一丁! トルネーディア・マグナム六連!」




ズゴォォォォォォン!




再度のアタックにひび割れが大きくなり、一気に水が噴き出る。



ブシューーーーーー!



「おおおっ! 水が! 水が出たぞ!」


村長が興奮した様子で叫ぶ。

カンタたちを責め立てていたウーザという男もバンザイして喜んでいる。いい気なもんだ。後でオシオキコースだな。


俺は水が噴き出した井戸を見ながら村人の前に姿を現してしまったことで、今後の対応をどうするか考えることにした。

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