第15話 井戸の復活をお祝いしよう
「・・・で、精霊様は普段どちらにおられるのですかな?」
「・・・いや、だから精霊じゃないんだけどね・・・」
「ほっほっほ、まあそれは置いておくとしましてですな・・・」
なぜか俺は今、村の井戸がある中央広場に一段高く作られた席のど真ん中に座らされている。
みんなが集まっている上に食事と言う事なので、取りあえずデローンMk.Ⅱからティアドロップ型へ変化させ、色も美しいコバルトブルーへ変更している。あまりに水色だと某RPGっぽくなりすぎてしまうしね。まあこの世界じゃ誰もわからないだろうけどさ。
無事井戸を復活させて、水の供給不足という状況を改善した俺。そうしたら村長が井戸を復活させて村人みんなの飲み水の心配を解消してくれたお礼と、カンタたちを心配させたせめてもの償いとして、村人総出でお祭りをやろうということになった。もっとも、今まで水不足で生活もままならないほど厳しい状態だったのだ、いろいろごちそうがすぐ用意できるわけでもなかったのだが。
「でも、畑の作物ですごく元気になったり、大きく育っている野菜もありますから、それを収穫してみましょう」
ジマーメが率先して野菜の収穫に出向いていく。
俺も何か手伝えないかな・・・
「ローガ」
『はっ!』
「部下たちとともに、村の周りでイノシシとかウサギとか、獣を狩れるか?」
『もちろんです、ボス! 狩りは我々狼牙族の最も得意とするところです』
ニヤリと笑うローガ。ウン、ローガのイカツイ笑い顔にもだいぶ慣れたな。
「それはそうと、念話でなく普通にしゃべっているが、俺の言葉理解できているんだ?」
疑問だったので率直にローガに聞いてみる。
『はい、問題なく。なぜかはわかりませんが、今まで喋られていた内容はすべて理解できております。どうも私だけでなく、部下たちも理解できておるようです。』
そう言うと、他に三匹ほど俺の前に風のように現れる。
「お前たちも俺の喋っている言葉が分かるのか?」
『『『ははっ! 理解できております』』』
「そうか、何はともあれお前たちと意思疎通が出来ることは僥倖だ。それでは狩りを頼むぞ!」
『『『ははーっ!!』』』
俺の前に来た三匹を筆頭に六十頭が一瞬にして消える。村の外に狩りに出かけたのだろう。
張り切り過ぎて狩りまくらなければいいが・・・。
ん?
「あれ? ローガ、お前は行かないのか?」
狼牙族がみんな狩りに出たとばかり思っていたら、俺の横にドーンとお座りして微動だにしないローガがいた。
『はい、我はボスの護衛という最も大事な仕事がありますゆえ』
俺が話しかけると、きりっとした顔で答えるローガ。でも尻尾パタパタ揺れてますよ。
それにしても俺の護衛?
「別にいつも護衛しなくてもいいぞ。今日とか、みんなで狩りに行っても」
『我々狼牙族は今まで狩りをしている時が一番幸せでしたが、今はもっと幸せな時がありますから』
「ん? どんな時だ?」
『ボスの隣にいる時です』
・・・ローガァァァァァァ!!
誰もいなかったら抱きついて泣いていたかもしれない。
前世ぼっちの俺には心に沁みる言葉だねぇ。仲間サイコー。
だが、ここには村人たちもいっぱいいるのだ。
恥ずかしい行為は自重せねば。
「そ、そうか」
俺のコバルトブルーの体、赤くなってないよな?
そうこうしているうちに、早くもローガの部下たちが帰って来た。仕事早いな!
・・・気合、やっぱり入っちゃったよね~
村の入り口から砂塵が舞う。
どうやら獲物を引きずってきているようだ。
『『『ボス! ただいま帰りました!』』』
「おう、お帰り~、というか、だいぶ大量だな」
『ははっ! 人間たちもそこそこ人数がいるようでしたので、ボスの威厳を見せつけるためにもだいぶ気合を入れましたよ』
次々と運び込まれる獲物たち。巨大イノシシが四、五、六・・・
細かいウサギも次々山積みにされていく。
「うぉぉー、すごい獲物の数だ!」
「しかも大きなイノシシばかりだぞ」
「見て、ウサギもあんなに!」
村人たちが色めき出す。まあ、すごい数の獣だしね。相当肉が食えそうだよ。
『いい仕事だぞ、お前達』
ローガが重厚な雰囲気で部下たちを褒める。リーダーの威厳を出そうとしてますね、ローガさん。
「「「うぉぉぉぉぉーーーー」」」
入り口近くで村人たちが盛り上がっている。
『なんだ?』
ずぞぞぞぞっ! と音がしたかと思うと、巨大なクマを数匹の狼牙族で引きずって来た。
『ボスッ! 今回の狩りの一番の大物になります』
目の前には巨大なクマ。結構いろんなところから血が出てますケド。
「こ、これは・・・!」
村長が巨大なクマを見て驚く。
「たまに冬眠前になると村近くに来るのか、村の畑や家畜にも被害が出たりすることがあったのですが、とてもじゃないですが、討伐などできるサイズのクマではないので、気を付けるだけで放置されておったのですよ」
それを倒してきたわけだ。そりゃ村長も安心するよね。
『これは、キラー・グリスリーですな。体長五メートルに満たない程度ですので、この種としては少し小ぶりですが、このあたりの人里近い森ではかなりの脅威かと。今仕留められたのは僥倖ですな』
あ、そうなんだ、結構ヤバイやつだったのね。名前からしてキラーグリスリーだもんね。
でもこの巨体なら食いでがあるね。村人たちには喜ばれるだろう。
それにしてもローガ、獣に詳しいのね。
『このキラー・グリスリーは我々と同じ魔獣です。我々狼牙族とコヤツら熊系は犬猿の仲でして。油断すると手ごわい連中もおりますし、なかなか大変なのですよ。ただ、肉は少々堅めですがうまいですぞ』
そう? 熊って臭いイメージあるけど。まあ、村人たちにも振る舞えばいいか。
「イノシシやクマは毛皮も役立つだろう。村で使ってくれればいい」
「ほ、本当ですか? これらすべてよいのですかな?」
村長が驚いた顔を俺に向けてくる。まあ、俺たち食べる以外に用途ないからね。
「ああ、俺たちには毛皮は不要だな。ただ、今日はコイツらに腹いっぱい肉を食わせてやってくれ。余った分は干し肉に加工したりして村で食べてもらって構わないよ」
俺が今日肉食べたら後は全部あげるよ、と言ったので、村長たちは感激したようだ。
「精霊様に肉と毛皮を頂いたぞ! 今日は開村祭の前祝いだ! 存分に楽しもう!」
「「「わああああ~~~~~」」」
村人たちが大事にとっておいた酒を出してきたようだ。そして復活した井戸からの水を
汲み出しては村人たちに配って行く。
「村長、開村祭って?」
「年に一度、村を開いた時期にお祭りをするのです。それを開村祭と呼んでおります」
村長は嬉しそうに説明し始める。
「それがもうすぐ開催が迫っておる時期でしてな。それなのに井戸が枯れてお祭りどころではなくなっておりましたが、井戸も復活させて頂けたことで、無事に開村祭を開催できそうです」
村長の顔はすっかりにっこにこだ。
明らかにこの後なんか言ってきそうだ。ぜひお祭りにご参加、とか、ご協力、とか。
「そうか、じゃあ開村祭には俺たちも協力しよう。今日くらいの獲物をまた狩って村に届けるとしよう」
だから、先に言っちゃう。人間に好意的ですよ、と一気にアピールだ!
「おお! それはありがたいことですじゃ。ぜひ精霊様にもご参加いただきたいものですな!」
そして俺の前にも村長がコップを差し出す。せっかくなので触手を出して受け取ることにする。
「井戸の復活と精霊様の加護に、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
いや、何度も言うけど精霊様じゃないからね。精霊は別にいるからね?
てか、いつの間に加護あげたことになってるの? 俺そんなチート能力持ってないからね?
「おーい、みんな聞こえる?」
ちょっと小さい声で虚空に話しかける。
「聞こえるよ~」
「聞こえてますわ」
「聞こえてるわ~」
「お前何勝手に精霊扱いされてんの?」
水の精霊ウィンティア、風の精霊シルフィア、土の精霊ベルヒア、炎の精霊フレイアが
俺の後ろに顕著する。フレイアだけキレ気味なのはなぜ?
「何か精霊扱いされているんだけど、俺大丈夫かなぁ?」
何気に不安で聞いてみる。大精霊様とかがいて、勝手に精霊名乗った罪で成敗されたりするとか? でも魔物扱いされるよりは、精霊扱いの方が危険少なくていいんだよなぁ。
「まあ、いいんじゃないかなぁ? ボク的にはなんだかヤーベが仲間になった気がしてうれしいけどね!」
水の精霊ウィンティア、このボクっ娘ホントに俺の心をついてくるな~。
チョー嬉しいよ。
「精霊だって偽って悪いことしないならいいのではないでしょうか・・・?」
風の精霊シルフィア、この子は優しいな~。マジラブ妹って感じ! いつもそよ風に吹かれているような心地よさがあるね。
「お姉さんが包み込んであげるから大丈夫よ~」
土の精霊ベルヒア、ほんわかお姉さんだけど、言ってることはわからないです。ハイ。
「お前、精霊騙って悪さしたらショーチしないからな!」
炎の精霊フレイア・・・ノーコメントで。
「コメントしろよな!」
俺は村長に復活した井戸の水を注がれながら精霊扱いも悪くないかも、と考え始めていた。
魔物だと騒がれるよりは、精霊の方がイイよね?
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