第13話 村人たちの諍いを仲裁しよう


あれから三~四日ごとにカンタとチコの家に水を届けてやっている。


ついでに村の畑にも水を撒いてやっている。


なんだが畑が急速に元気になっている気がするな。にょきにょきと元気に作物が育っている。色の悪かった実もツヤツヤになったりハリが出たり。それ以上に、なんだか異常にデカくなってないか? ナスやトマトなんか人の顔よりでかく育ってしまったのだが。

これも奇跡の泉の水の効果なんだろうか? お化けカボチャ張りにデカくなっているヤツもあるぞ。


きっと村では喜ばれていることだろう(自画自賛)


『ボス! 大変です』


ローガが俺の横に馳せ参じた。


『どうした?』


『ボスが水を届けに行っている村を監視させている部下からの報告なのですが、カンタ、チコの兄妹が村の一部の人間から敵視されているとのことです』


俺は衝撃を受けた。


『何だと! どういうことだ!?』


『はっ! 人間たちの会話を拾わせたところ、どうもカンタ少年の家だけにきれいな水があるのがおかしい、村の井戸の水を盗んでいるのではと指摘している人間がいると・・・』


『馬鹿な! あの子供たちや母親がそんなことが出来るわけがないだろう!』


『その通りだと思いますが、どうも今現在あの村では井戸が枯れる寸前まで枯渇しており、その状態でカンタの家だけ水瓶が満タンなのはおかしいと騒ぎ立てているようです。他の家では井戸から十分な水がまかなえず、水不足に陥っているのかと・・・』


むうっ! 確かに村の井戸が枯れているのにカンタの家だけ水瓶が満タンなのはそりゃおかしいだろうけど・・・。だからと言って、枯渇気味の村の井戸から水を盗んだことにはなるまい。というか、もはや枯渇気味の井戸からは水瓶を満タンにするほど水が盗めまい。


『畑とカンタの家だけ水不足が解消しているため、村長を含め、自分たちの生活に必要な水を確保できない者達が、カンタ少年たちに対して不満をぶつけているようですな』


ああ、俺が泉の事を内緒にするように頼んだからだ!

あの兄妹は律儀に俺との約束を守っているのか。なんて子たちだ。


自分たちが村の連中に攻められているんだ。この泉や俺から水を貰っていることを話して水の出所を明らかにすれば責められることもないだろうに・・・。


『なかなか律儀な兄妹ですな』


俺の考えていることを読んだのか、ローガは努めて平静に話す。だが、ローガだってきっと俺と同じ気持ちだろう。


『ローガ、すぐ村に出向くぞ』


『ははっ! して、部下はどれくらい引き連れますか?』


『全員だ』


『・・・よろしいので?』


『ああ、自分たちの事しか考えない大人たちにはキツイ対応も必要だろう』


多少剣呑な雰囲気で俺は答える。


『・・・ですな』


ローガもニヤリと笑った。






――――――――――






村では、村長以下多くの村人が枯れた井戸の周りに集まっていた。


「カンタよ。なぜお前の家だけ水瓶に水があるのじゃ」


村長はカンタ、チコの兄妹に質問をぶつける。


「カンタ、どういうことなの? 何か知っているの?」


カンタの母親は家から出ていなかったため、井戸の水が回復したとばかり思っていた。

だが、実際には村の中央広場にある井戸の水はほぼ枯れており、村人全員の水を賄えない状況になっていたのだ。


水を飲んでいたら体調が良くなって床から起き上がれるようになったので家から出てみたらカンタたちが村人に囲まれていたのだ。


「お前が水を盗んだんだろう! 水を返せ!」


村人の中でもいつもリーダーを気取って皆を纏めようと空回りする男、ウーザイがカンタを怒鳴りつける。


「村の水なんて盗んでない! そんなことするもんか!」


カンタは全力で否定する。

妹のチコはカンタの左腕にしがみついている。


「にーちゃん・・・」


その目はスライムさんの事を村長に言わないの?と問いかけているように見えた。

だが、カンタは約束したのだ。泉の事は喋らないと。

そしてスライムのヤーベは、約束を守って水を届けてくれている。

カンタにはどれだけ村長たちに攻められようと、ヤーベとの約束を破る気はなかった。

ヤーベはちゃんと約束を守って水を届けてくれているのだから。


「しかし村長、畑がめちゃくちゃ元気になって作物も急にデカく育ってますよね? これ、行商人が来たら、すごくいい値で引き取ってもらえそうですよね」


まじめに畑一筋でコツコツと作業することで定評のあるジマーメが村長に話題を変えるように話しかけた。


だがその気遣いをすぐにウーザイがぶち壊す。


「行商人が来るまでに俺たちが干上がっちまうよ! カンタが水を盗むせいでな!」


ウーザに睨まれるカンタだったが、一歩も引くことなく村長たちに向かい合う。


「俺は悪いことはしていない!」


カンタは両手に拳を握り、必死に涙をこらえる。


「カンタ・・・」


「にーちゃん・・・」


母親もチコも心配でカンタに寄り添う。


「村長、井戸水が枯れて水が足りないのは心配だが、畑の作物自体は想像以上に育っている。水がない分は水分の多い収穫物を村人たちで分けて何とかしのげないだろうか?」


ジマーメは村長に今できることを提案していく。このあたりが挫けずにまじめでコツコツ何事も進めて行くと評判の男らしい反応だった。


「だが、それもこの畑が急に元気になったからだ。カンタの家だけ水瓶が枯れないことも含めて、原因がわからぬことには、またいつ畑が萎れてしまうやもしれんし・・・」


村長の発言を受けてウーザイがまたカンタを目の敵にする。


「お前の家だけ水瓶に水があることが怪しいんだよ! 畑だって何をやっているんだ!」


ついにカンタの胸倉を掴むウーザイ。


「ウーザイ、落ち着け! 相手は子供だぞ!」


ジマーメの窘めも聞かず、ウーザイは力を緩めない。


「約束したんだ! 誰にも言わないって!」


カンタは涙目になりながらも、それでも言わなかった。




「そこまでだ!!」




その時、村人が集まる中央広場にものすごく大きな怒鳴り声が響いた。


「な、何だ?」


「誰だ?」


「あ、あそこに何かいるぞ!」


誰かが指さした方向を見れば、村の中央広場の端に建っている小さな教会の屋根に何かがいるのが見えた。


ものすごい威圧感を出している大きな狼・・・そしてその狼の上に乗った見たこともない存在。


「ヤ、ヤーベ!」


「スライムさん!」


カンタとチコが同時に叫ぶ。そこにいたのは、まさしく二人が泉で出会い、その存在を内緒にすることを条件に水を届けてくれた相手、スライムのヤーベだった。



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