第8話 ケガしたヒヨコを助けよう


今日も今日とて、泉の周りに水をやる。


・・・正直ヒマなんだよなぁ。泉の周りをズルズルウロウロして周りの草木に水を休以外にやることがない。


ここから離れて冒険者なんかに見つかったら即狩られてしまうし、魔物に見つかっても即狩られてしまう・・・いや、獣くらいなら返り討ちにできるけれども。

自分の実力がどれくらいなのか想像もつかないのが難点だよなぁ。

大体、スライムが強いって、イメージが自分でも湧かないし。


それにしても・・・、俺が水をやっている泉の周りの木々だけ、少し大きくなった気がするな。


葉っぱも若々しくなった気がするし、木々の根元近くに生えていた綺麗な花にも入念に水をやっていたら、わさわさと満開の花を咲かせるようになった。


もしかして、この奇跡の水って新陳代謝が良くなるって事だったけど、植物にもいい影響があるのかもしれない。すごいね。


改めて、俺はいい仕事をしたようだ(自画自賛)。








「ピヨ~~~~~~~!!!」


えらい鳴き声が聞こえた。チョロチョロと花に水をやっていた俺は鳴き声の方に身を向ける。


(何だ?)


バサバサッ!


「ピヨピヨピヨ~~~!!」


茂みから黄色いヒヨコがバサバサと羽ばたきながら走って飛び出してきた。

涙をちょちょぎらせながらピヨピョ泣いて転がり出て来たところを見ると、何かから命からがら逃げてきたようだ。


その後ろから茶色い狼が追いかけて来た。やっぱり想像は当たっていたようだ。


(あっ!)


狼が左前脚を振り下ろすとヒヨコの脇腹をざっくりとえぐった。血飛沫が舞う。


「ピピィーーーーーー!!」


血をまき散らしながらヒヨコちゃんが俺の目の前にばったりと倒れる。

狼は仕留めたヒヨコを頂こうと近寄って来て、俺に気づいたようだ。




「ガァァァァァ!」




仕留めたヒヨコを横取りされまいと、狼が俺の方に大口を開けて襲い掛かってくる。

悪いな、俺様というスライムは狼ごときに遅れをとらないのだ。

俺は右腕をイメージして触手を右ストレートを放つかの如く伸ばしていき、狼の口の中に突っ込んだ。




「グボッ!」




狼は苦しそうにうめき声をあげる。だがこの俺様に牙を向けた以上は覚悟してもらおうか。

狼の口の中に触手を伸ばし、その奥の内臓まで突っ込んでいく。そして触手の先から酸性の溶解液を出す。


「ギャワワワワン!」


内部から溶かされ、断末魔の悲鳴を上げる狼。悪いな、俺にケンカを売るとこうなるのだよ。

その後狼の全体をスライムボディで包み込み、消化していく。


一応何も食べなくても大丈夫みたいだが、取り込んで消化するとエネルギーが上がる気がする。数値で表示されるわけでもなし、感覚でしかわからないけど。


さて、狼は消化したが、目の前の瀕死のヒヨコはどうしようか?

ヒヨコは「ピヨ~~~」とかなり弱々しい鳴き声でつぶらな瞳をこちらに向けてきている。

よく見ると脇腹をざっくりとえぐり取られているため、このままでは死んでしまうだろう。




(う~ん、スライムの細胞を使ってみるか・・・)




再び伸ばした触手をヒヨコの傷口に当てる。

ヒヨコの体に同化するイメージを送り込み、傷が埋まったらプチンと切り離す。

くっついたスライムが光り輝くと、ヒヨコの傷がすっかり消えている。




「ピ? ピヨ!? ピヨヨーーーーーー!!」




ヒヨコは傷が無くなって助かったことに驚いているようだ。

バッサバッサ翼をはためかせて飛び回っている。




「ピヨヨーーーーーー!!」




元気になったヒヨコが俺に纏わりついてくる。




(うおおっ)




バタバタ翼をたたきつけたかと思うと、くちばしでめちゃめちゃ突いてくる。


「ピヨピヨピヨピヨ!!」


(いたたたた! いや、痛覚ないから、厳密には痛くないけどっ! 何か啄まれてる啄まれてる!)


あれ? コイツこんなに大きかったっけ? 瀕死の時より一回りくらい大きくなってないか?

ちょっとスライム細胞譲渡しすぎたか?


それにしても、コイツの喜びっぷりは半端ない。というかもう迷惑だ。


『コラっ!いい加減にしろっ!』


念話するようにイメージすると、ヒヨコがビクッとして止まった。


『ボスッ! お助け頂き誠に恐悦至極に存じます!』


うおっ! ヒヨコが敬礼しながらスゲー丁寧に答えてきたぞ!

やたら軍人風なヒヨコだな。すごく面倒くさそうなやつだ。


『ボスに助けられましたこの命! 今後身命を賭してボスに仕える所存であります!』


『え~~~~~、別にいらないけど』


『ボスッ!? そっそんな!』


ものすごい涙目で目の前に左右の翼を組んで全力でお願いポーズをするヒヨコ。

翼の扱い器用過ぎないか?

もうほとんど翼の先がグーに見える。


『わかったわかった。好きにするといいよ』


ヒヨコが部下になったからって、何ができるわけでもないだろうし。


『ボス! ありがとうございます!』


今度は片膝つきながら片方の翼を地面につけて下を向く。

このヒヨコ器用すぎるだろ。てか、ヒヨコって膝あるの?


その時だ。




ガサガサッ




森から先ほどの狼より一回り大きい狼が現れた。


『むっ!』


狼に向かい合おうと俺は体を向けるが・・・


『ボス、ここは私にお任せ下さい』


と言って、俺の前にヒヨコが踊り出る。

いや、お前さっきはあの狼より小さい狼に殺されかけてたよね?

ざっくり脇腹やられてたよね?


俺に仕えるなんて言ってたから、イイトコ見せようと無理しているのかと思ったのだが。

ヒヨコは目にも止まらぬスピードで左右にフットワークを始める。

あまりの速さに狼がビビッて止まった。


「グオッ!?」


ヒヨコは飛び上がると狼の全身を超高速で突きまくる。


「ピヨピヨピヨピヨ!」


「ギャワワワッ!」


嘴で突きまくられ、毛を毟られまくっている狼を見るとちょっとだけ同情する。

もはやズタズタにされた瀕死の狼は起死回生とばかりに大口を開けてヒヨコに飛び掛かる。


「ガウォォォォォ!」


特攻してくる狼をヒヨコは躱すのかと思いきや、迎え撃つ体勢をとる。


「ピョ!ピョ!ピョーーーーーー!!!」


右翼を地面スレスレからねじり上げるようにアッパーカットを放つ!

ヒヨコ自身も竜巻のようにスクリュー回転で上昇しながら狼の顎を打ち抜く。


どう見てもそれ、昇○拳だよね?よね?


てか、掛け声もそれっぽいってどういうこと?

狼は血反吐を吐きながらもんどりうって絶命した。

ヒヨコは狼を俺の目の前まで引きずってくる。


『ボス! 狩りの獲物を献上いたします』


いや、君さっきまで狩られる側だったよね? 何で急に狩る側に変身しちゃってるの?

大体自分の体の何倍もある狼引きずって来るって、どれだけパワーアップしてるわけ?

やっぱり俺のスライム細胞のせい? もしかして俺様自身はチートが全然ないのに、細胞あげると相手がチートになるってか?


それはともかく、目の前の狩られた狼・・・もとい、ヒヨコの獲物。


『え~っと、お前は食べないのか?』


『自分は肉でも木の実でも肉でも何でも大好物であります!』


『では一緒に食べるとするか』


『光栄であります!』


と言って狼を嘴でめちゃめちゃ突きながら平らげている。

バイオレンスなヒヨコだな。






・・・・・・






『ふうっ! お腹いっぱいになったか?』


俺様は満腹感ってないから、よくわからないが、ヒヨコのこの体でこのデカイ狼食べたら相当なもんだよな?


『大満足であります、ボス!』


元気に敬礼するヒヨコ。うん、ブレないね、コイツ。


『さてと・・・、これからどうするか・・・』


とりあえず呟く俺にヒヨコが、


『ボス! よろしければ一族その他仲間を集めてボスに仕えたく存じます!』


などと宣ってきた。え~、一族郎党全部俺が面倒見るの?


『きっとボスのお役に立ってみせます!』


えらくやる気だね・・・。まあ、あまり止める理由もないか。


『そうか、ヒヨコ隊長に任せるよ』


何気なく言った言葉にヒヨコがびっくりするくらい反応した。


『我を隊長に任命くださるのですか! 感激であります! 誠心誠意ボスに尽くす所存であります!』


隊長に任命しただけで暑苦しさ百倍だよ。


『では早速ボスのためにヒヨコ軍団を形成してはせ参じたいと思います! しばしのお別れです! それでは!』


と言ってビシッと敬礼したかと思うと、ぱたぱたと飛び上がって見えなくなるヒヨコ隊長。


ヒヨコって飛べるんだね。知らなかったよ。

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