第9話 兄貴と呼ばれたので子分どもをまとめてみよう


ヒヨコ隊長が自分の一族郎党を引き連れに戻ってからしばらく。

せっかく出来たばかりの自分の部下がいなくなって寂しいかって?


ぜーんぜん、そんな事はないのです。


むしろ暑苦しくなった。


その理由は・・・






『ボス! ボーーーーース!』


誰だよ? やたらめったら叫びまくってるの。というか、ボスって誰だよ? もしかして俺? いや、もしかしなくても俺か。


『あ! ボス! 大変です!』


狼牙族が集団で俺の元へ走ってくる。やっぱり俺の事か。そりゃそうだよな、念話だもんな。


狼牙族ろうがぞくはいわゆる普通の獣である狼と違い、魔物の類、つまり魔獣であるとのことだ。


え、何で知ってるのかって? 狼牙族のボス本人に聞いたからね。

・・・魔獣の狼を呼ぶのに本人ってどうなのかな・・・まあいいか。


ちょっと前にこいつらが俺様に襲い掛かって来たので、ボスをコテンパンにのしてやったら、狼牙族全体から俺はボス呼ばわりされて纏わりつかれるようになった。そんなわけで鬱陶しいと思う反面、いつまでも泉の畔で友達のいないボッチ生活もなんだかな~と思い、この狼牙族たちとコミュニケーションをとることにしたのだ。


そしてコテンパンにした元ボス(今は俺様をボスと勝手に崇めている)にいろいろ聞いてみた。コミュニケーション取れるって素敵なことね!


よく考えたら、スライムにいきなり転生して、ぼっちでずっと泉の周りでウロウロしてただけだから、先日のヒヨコ隊長が初めてコミュニケーション取れた相手だったな。すぐ一族郎党引き連れに戻っちゃったから、またぼっちに戻っちゃったけど。


そしたら、その次にコミュニケーション取れたのが狼牙族だったわけ。

人間とのコミュニケーション、夢のまた夢な気がするよ!

早く人間になりた~い、じゃなかった、ふれあいた~い!

おっと、涙が出そうだぜ。スライムだから涙でないだろうけどな!


その狼牙族、俺をボス扱いして俺の周りから離れなくなった。だから条件を出してやった。




俺をボスと呼んで部下になりたければ


1.人間を襲わない


(狩りに来た冒険者を含む。但し他の人間を襲っている悪党は除外する)


2.俺の仲間同士で争わない。


3.俺に絶対服従(笑)




という条件を出した。狼牙族のボスは『よろこんでー!』と居酒屋チックに答えてた。わかってんのかな?


大体、俺様にはすでにヒヨコ隊長というれっきとした部下がいるのだ。

・・・仲間連れてきますって言ったまんま、まだ帰ってこないけど。




『で、どうしたんだ?』


『街道近くで人間に襲われました! 多分ボスのいう冒険者ってヤツです! 剣と弓と魔法で襲い掛かってきました。俺たちは人間を襲ってはならないってボスの言いつけを守るために、うちの大将が囮に・・・』


『何だって!』


しまった! 村の人間といつか交易したくて、人間から危険だと認識されないよう人間を襲わないってルールを作ったんだが、普通に向こうからは肉目当てで森に狩りに来るわけか。


『どこだ! 案内しろ!』


『ボス! こっちです!』


一頭の狼牙が走り出す。俺はその後を高速移動で追従する。最近分かったことだが、ティアドロップ型でぴょんぴょん飛ぶより、デローン型で前の土を掴み引き寄せるように進むと、土の上をすべるように移動出来た。こちらの方が断然移動スピードが速い。この姿をデローンMk.Ⅱと呼ぶことにしよう。


街道から少し入ったところに狼牙族のリーダーが倒れていた。血まみれだ。かなり攻撃を受けてしまったようだ。


『ア・・・アニキ・・・』


ハッハッと荒い息をする狼牙族のリーダー。


『馬鹿野郎! お前たちの実力なら、冒険者たちくらい追っ払えたろうが!』


自分でルールを決めておきながら、リーダーが傷つけられてしまった事が許せなかった。


『ヘヘッ・・・俺たちはアニキの子分になりたかったから・・・』


息も絶え絶えといった感じでつぶやく。


『何言ってんだ。もうお前たちは立派な俺の子分だ! 仲間だ!』


俺は念話で絶叫する。


『ア・・・アニキ、俺の仲間たちをお願いします・・・』


もう自分の命はないとわかっているのか、一族の心配をするリーダー。


『ふざけんな! お前もひっくるめて面倒みてやる!』


『ア・・・アニキはやっぱり最高だぜ・・・』


あ、念話で感動のキャッチボールしてる場合じゃないや。早く治してやらないと。

俺はリーダーをすっぽり包み込むとケガをした部分にスライム細胞を与えていき、傷を受けた部分に同化させ塞いでいく。


『あ、あれ?』


狼牙族の元ボス(わかりにくいからリーダーと呼ぼう)は自分が瀕死のケガを負っていたはずだったのが、すっかりケガが治ってしまったのを不思議がった。


『これは、アニキの力ですか?』


『そうだ。俺の細胞を分け与えて傷を塞いだ。だからお前の体には俺の体の一部が宿っている』


その説明を受け、感激に咽ぶリーダー。


『オオオオ~~~~~ン! 今ここにボスに終生の忠誠を誓います!』


『『『『『誓います!!』』』』』


リーダーとその後ろに控えた一族連中が吠える。

まあ、忠誠を誓うっていうんだから、いいか。


・・・あれ? リーダーってあんなに大きかったっけ? ヤベ、スライム細胞渡し過ぎたか? 二回りはデカくなってる気が・・・。まあいいか。


『ボス。よろしければ私に名前を頂けませんでしょうか? 終生の忠誠の誓いとして、ボスに名付けられた名前を死ぬまで名乗りたいと思います!』


狼牙族のリーダーは畏まって俺の前にお座りしているが、名前が欲しいのかかなりしっぽが左右にぶんぶんと振られている。わかりやすいな、コイツ。


『え~っと、ローガでどう・・・?』


『ウオオオオオオーーーーーーー!! ボスよりローガの名を頂いたぞーーー!!』


『『『『『ウオォォォォォ!!』』』』』


暑苦しいやつらだな。えらく盛り上がっちゃったよ。


『そういや、お前たちはどれくらいの数がいるんだ?』


『私を含めて六十頭ほどおります、ボス』


多いな! 食糧問題とか大変だな、こりゃ。水だけはここにたっぷりあるけど。


こいつらの面倒みるのかー。


え、狼牙族のリーダーにローガと名付けるって、安直すぎる?


まあ、喜んでるからいいんじゃないかな。

フッ・・・俺にセンスを求めている方がどうかしてるのさ。

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