第3話

その、当のめぐちゃんは、


私の右隣の座席から、

その黒目の目立つ大きな眼で、私をじいぃー…と見つめてたかと思うと、


「…いいなあ、ちーちゃんは。背も高いし、大人っぽくてかっこいい…」


と、何やらしみじみとため息を吐いた。



平日の昼下り、最寄りのターミナル駅の駅ビル内の、ショッピングモールの一角、

休憩コーナーのベンチでのことである。


現在、私とめぐちゃん、

…小中高の同窓にして、剣道でも同じ道場の相弟子どうしによる「二人女子会」の最中だ。



めぐちゃんは、

生まれ育った「ご実家」で現在の住居である建物に併設されたお店で、

彼女の現在の勤務先でもある、

彼女の祖父君がご店主である居酒屋・『たぬき』の定休日で、


彼女の現在の同居家族お三方

(彼女の祖父母両君、及び彼女の御母堂。

ちなみに、めぐちゃん曰く「うちのお店は『三ちゃん経営』」)

から、それぞれに

「御当家の姫君のお迎え」に上がった私に、

「よろしく頼む」旨のご挨拶付きの外出だし、



私の方は、現在の雇い主…と言うか、「仕事の請負い元」に

「今日は絶対に仕事は入れないで」と、強く申し入れての外出である。



大人になると、学校に毎日通わなくても可い代わりに、

決まった休日のない仕事をしていると、友達と小半日程度遊びに出るにしても、煩わしい手続きが必要になることもある。




閑話休題。



「『大人っぽい』って…。それこそ二十代も半ばを過ぎた人間つかまえて言う台詞じゃないよ?

だいたい、こんな大女のどこがいいのさ?」


「だって、…マキシ丈のロングコート、丈詰無しでそのまま切られるし、それに似合うしさぁ…」


「コートだけ似合っても仕方ないよ?」


「…上背あるから、上段から撃ち込むのだって威力あるしさぁ…」


「戦国や幕末の世じゃあるまいし…。今は江戸中期と同ンなしで、腕が立つってだけじゃ出世は見込めないよ?」


「……だって、…腕が立つ、っていうのも、

その…今やってる『ヒロちゃんのお仕事』、ちーちゃんに任された理由のひとつなんでしょう…?」



彼女が「ヒロちゃんのお仕事」と呼ぶのは、私達の幼馴染にして中高の同窓生、

現在は市内で情報屋を営んでいる、「ヒロちゃん」こと、河内真尋から

私が請け負っている「運び屋稼業」のことである。


(もっとも、本人的には、「運び屋」と言うより

「便利屋、何でも屋」に近いと思っている。

ついでに言えば、「あの」河内真尋のことを、

いまだに「ヒロちゃん」と、子供時分の呼び名で呼んでいるのは、

私の知る限り、めぐちゃんだけである)

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