第4話

「別に、…そりゃ『職業に貴賤無し』とは思ってるけどさ、あれは…。少なくとも、履歴書に堂々と書ける類いの職種じゃないし」


「でもさ、…『お仕事』の間は、ちーちゃん、竹野内先輩と一緒じゃん…」



ああ、そうか、…そういうことか…。



「…別に、…こんなこと言ったら怒られるだろうけど、アレは完全に『押し掛け用心棒』だよ?そりゃ、男手があるのは助かるけどさ…。

でも祥太郎先輩、『たぬき』のアルバイトもちゃんとやってるんでしょ?」


「…うん。

うちのお祖父ちゃんも、お祖母ちゃんもお母さんも、それに私も、すごく助かってる…。

うちの居酒屋、本当に家族経営だから、その…若い男の人がいると、色々と頼もしい、って。

賄いも、先輩は、いつも文句言わないで残さず食べてくれるから、お祖父ちゃん、作る張り合いがあるって言うし、お祖母ちゃんも見てて気持ちが良いって。

お母さんは、若いのに箸の持ち方が綺麗で、食べ終わった魚の骨に身が付いてない、お店の仕事でも、先輩は動線に無駄がないし、声も良く通るし、立ち居もきびきびして綺麗だって感心してた。

でも、…これは、本当に例えばの話だけど、

もしもちーちゃんが、一人切りの『お仕事先』でピンチになったりしたら、

竹野内先輩…うちのバイトは放っぽってでも、ちーちゃん助けに行くと思う」



現に以前、自分の無茶で、噂の当人に「助けに(私本人としては「助太刀に」と言いたいところだけれども)」来てもらった「前科」を持つ身としては、

そんなことない…と、否定し切れないのが辛い。



私達二人の剣道の師・竹野内清太郎氏の御令孫にして、私達の兄弟子、かつ小中高通しての一学年上の先輩で、


現在の私の「運び屋稼業」の用心棒(彼の河内真尋曰く、「雇い主の自分から見れは、下請けのそのまた下の、いわゆる孫請け。旧幕時代で言えば『陪臣』」)で、


現在、私の眼の前にいる「麗しの萌生姫」の「想い人」でもある竹野内祥太郎氏は、


すぐ下の妹弟子二人(つまり、めぐちゃんと私)に対する責任感が、それはもう強いタイプだ。


(非常に有難いと思う反面、

私は内心で、

あれはもう、ほとんど「庇護欲」と呼んでも差し支えない…と思っている。

何故にそれが、「麗しの萌生姫」への恋愛感情に結び付かないのか、私には不思議で仕方がない)

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