第24話 ゲーセンでのイチャイチャ

「よっと。次はどこに行きましょうか?」


 アイスを食べ切った俺はベンチから立ち上がった。

 瀬名さんは髪をいじながら思案して、


「ゲーセンに行きたいかな」


「ゲーセンですか」


「最近、友達とも行ってなくて。ちょっとだけでもいいから」


「いえ、ちょっとどころか存分に遊ぶべきですよ。じゃあ行きましょうか」


 俺も最近ゲーセンに行っていない。

 せっかくデパートに来たんだし、楽しんでおかなければ。


 そうと決まれたと、俺達は隣にある『ラウンド711セブンワンワン』へと直行。

 ここは1階がゲーセン、2階がボーリングとなっていて、大勢の若者がワイワイ楽しんでいた。


「やっぱりゲーセンの音って響くよね」


「分かりますそれ。瀬名さんは何やりたいですか?」


「そうね……あっ、アレはどう?」


 瀬名さんが指差したのは、車型のガンシューティングだ。


 これは何回もやった事がある。

 要は車に乗りながら銃で相手を倒すゲームで、ゲームに連動して車が揺れたりするのだ。


「いいですね、やっちゃいましょうか。あっ、足元に注意して下さい」


「ありがと」


 段差があったので、瀬名さんが転ばないか確認した。

 それで車に乗り込んだのはいいけど、何故か思ったより座席の幅が狭い。


 つまりそれは、瀬名さんと密着してしまう事を意味していた。

 

「……瀬名さん、大丈夫ですか?」


「うん……まぁ……こういうのもありだよね?」


 瀬名さんも、まさかこうだとは思っていなかった様子。


 おかげで彼女の柔らかい感触や良い香りが伝わってくる。

 離れる事も出来ない、気を紛らわす事も出来ない。まさに八方塞がりだ。

 

 これはアレだろうか。子供2人用とかそんな感じだろうか?

 でもこのゲームの内容は、車を乗りながらグロテスクな怪物を倒していくというもの。子供がやるとは思えないけど……。


「あっ、勇人君」


「どうしました?」


「ここに何か書いてある。……えっと、『この座席は仕様により非常に揺れます。揺れに弱い人はご注意下さい』って」


「仕様なんだ……。俺は大丈夫なんですけど、瀬名さんは?」


「ジェットコースター好きだからねぇ。何とかなるんじゃないかな?」


「さいですか」


 何か色々とおかしいけど、乗ったからにはプレイしておこう。

 

 2人分のお金を入れれば、すぐにゲームが開始。

 するとビックリ。ゲームに合わせて、座席が激しく揺れ始めたのだ。


「うおっ! ヤバッ!?」


「す、すごいね!? でも楽しい!」


 瀬名さんはウキウキで銃を撃ち始めていた。

 

 これは負けてはいられない。

 俺も迫り来るアリ型怪物へと乱射し、次々と仕留めていく。


「勇人君、上手い!」


「こういうの昔から好きなんですよ」

 

 幸い、ガンシューティングは自分にとって得意分野だ。

 座席の激しさがネックだけど、何とか全クリまではいけるかといった具合だ。


 しかしこの揺れよう、すごい異常だ。

 気を抜いていたら倒れておかしくはないんじゃ……。


 ――ガタン!!


「キャッ!」


 突然、車が大きく跳ね上がる。

 それによって、瀬名さんが俺の方に倒れ込んできた。


「瀬名さん!」


 無我夢中で彼女の身体を受け止める。

 何とかセーフ……大事に至らなくて安堵の一息。


「ふぅ……大丈夫ですか?」


「う、うん……ありがとう勇人君……」


「……あっ」


 俺、思いっきり瀬名さんに触れている?

 あの有名モデルの瀬名さんを?


「……ごめんなさい」


「い、いいよ……気にしない……で!? 勇人君、コウモリみたいなモンスターが!!」


「あっしまっ!!」


 どうもゲームは気まずい雰囲気すら与えてくれないようだった。


 結果として、瀬名さんのコストが5678ポイント。

 俺がその倍の12854ポイントを獲得。


 というか迫り来るモンスターの大部分は、俺が殺ったようなものだ。


「ふぅ……体力使うねコレ……」


 座席の揺れが収まった後、瀬名さんが運動したみたいに疲れ切っていた。

 俺も同じような表情をしていると思う。


「このゲームヤバイでしょ……人によっては吐くんじゃないでしょうかね……」


「そうだね。それよりもスコアが私の2倍ってすごすぎじゃない? もしかして勇人君って射撃の名人?」


「そんな国民的アニメの主人公のような能力ありませんって。画面に敵が出てきて攻撃するまでタイムラグがあるので、その隙に攻撃するだけですよ」


「いやいや、それこそチートじゃない。どうやったらそんなの身に付くの?」


「普通にガンシューティングを極めたらそうなっちゃって……」


 やや困惑的に答えると、瀬名さんがジト目をしてくる。


「勇人君、自分が冴えない男だって思わない方がいいよ?」


「は、はぁ……。それよりもそろそろ降りましょうか」


「それよりもって言い方はどうかなぁ?」


 不貞腐れた瀬名さんに続いて、俺も車を降りていった。


 その途端に思わぬものが目に入る。

 車の側面に描かれている文字だった。



 ――席の幅を極力カット! 想いを寄せているあの子・大好きな恋人と共に密着できる! さらに激しい座席によって彼女が飛び込んでくる事も!?――  



「…………」


「どうしたの、勇人君?」


「いえ、何でもありません。次は何にします?」


「えーと、そうね……」


 とりあえず見なかった事にしよう。

 うん、俺は何も見なかった。さっき変な文章があったけど、それは幻だきっと。


「次は……あれにしようかな」


 瀬名さんが選んだのは、バスケットボールのゲームだった。

 ゴールにボールを入れてスコアを稼ぐ……たったそれだけ。


「実は俺、小学生の頃にバスケクラブ入ってたんですよね」


「へぇ、それは奇遇。私もそうだったの」


「じゃあ、どっちが多く入れられるか競争しましょうか。お互い敵同士になりますけど、頑張りましょうね」


 俺は瀬名さんに笑顔を見せた。


 その表情を見た瀬名さんが目を白黒させ、さらにポカンと口が開いてしまう。

 ……これはあまりにも臭かったか?


「瀬名さん?」


「……今の勇人君にキュンとしちゃった……」


「えっ? キュン……?」


「…………勇人君も頑張って。私、あなたを応援しているから」


 そこからどういう事か。彼女の眩しい笑顔と応援が俺に襲いかかる。

 完全にクリティカルヒット――俺のHPがゼロに。


「あ、ありがとうございます……じゃあやりましょうか……」


「う、うん……」


 またもや気まずい雰囲気になってしまったけど、そのままゲームをする事となった。

 結果として俺が勝利し、瀬名さんはやや残念そうな表情を浮かべるのだった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 作者の自分が言うのもなんですが、この2人いつもイチャイチャしっぱなしである(だがそれがいい)。

「面白い」「続きが気になる」と思った方は、ぜひとも☆や♡やレビューよろしくお願いします!

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