第23話 小物売り場でのイチャイチャ

 妙な着替え審査が終わった後、瀬名さんと共に小物売り場に来ていた。

 彼女曰く、特に何か買おうと思った訳じゃないけど、ふとこちらに寄りたくなったとか。


 まず彼女の目に入ったのが、丸っこいスズメの置物。

 それをジッと吟味しているので、俺は傍らで見守る事にした。


「うーむ……」


「どうしました?」


「どれも可愛いくてお持ち帰りしたい。でもそんなに買ったら、他のお客様に迷惑だし」


「そういう事っすか……」


 確かにこのスズメ、丸っこいゆるキャラって感じで可愛い。

 でも、そんな事を考えながら思案している瀬名さんの方が……、


「ん? どうしたの?」


「……今の瀬名さんの姿にほっこりしてたんです。思わず口元が緩みそうになりましたよ」


「~~~……そんな調子の良い事を言う勇人君にはこうだ」


「むぼっ……」


 瀬名さんの細い指が、俺の頬をぐいっと突いてきた。

 照れ隠しのつもりだろうか?


「ちょっ、やめて下さいよ……」


「じゃあ脇腹に一突き……」


「それは勘弁して。あれ結構効くんで」


 脇腹絶対ダメ。俺は迫り来るであろう攻撃からガードをした。

 しかし瀬名さんが戦闘体勢になって、指で脇腹を突こうとしている!


「ガードが緩いよ? ほらっほらっ」


「もう! 突こうとしないで下さい!」


「フフッ、勇人君面白いねぇ! からかい甲斐がある!」


「ついに本音出ましたね!?」


 一応、突いていると言っても実際にやっていない。

 本気じゃないのは分かっているので、俺達としてはじゃれ合いの範疇になっていると思う。


「でもまぁ、勇人君が突かれてばっかりじゃ不公平よね」


 と、いきなり攻撃モーションをやめた瀬名さんがそう言い出した。

 まさか不公平という言葉が、彼女の口から出るとは思わなかった。


「そう言うからには何か対価でもあるんですか?」


「そうね……だったら私の脇腹に一突きしていいよ」


 ……脇腹に?

 その言葉を反芻はんすうするのに数秒かかってしまった。


 それでようやく理解した途端、俺が困惑したのは言うまでもない。


「いくら瀬名さんの頼みでも、女性の脇腹は……」


「許可する。指先でちょんと触れるだけでいいから」


「……じゃあ、ちょんとだけ」


 女性を触れるのって母さん以外にあったっけ?

 いや、小学校の修学旅行であったかな。確かキャンプファイアの周りで踊ったやつ。


 でもあれはノーカンだろう。その女子とは全然親しくなかったし。


 それはさておき、瀬名さんから許可を得ているのだからセクハラにならない……はず。

 俺は意を決して、瀬名さんのしなやかな脇腹に指を突ついた。


「ん……」


「どうです?」


「……これ、悪くないかも」


「あっ……発動しちゃったんですね。例のやつ」


 前に自分は隠れMだと言っていたけど、まさかここで出てくるとは。


「ねぇ、もう1回突いて……癖になっちゃって」


「じゃあ……」


 ツン――。


「はぁう……もっと、もっとして……」


「そんな恍惚な顔をされても……ていうか人の目がありますからこれで……」


「むぅ……勇人君のケチ」


「ケチって……」


 とりあえずこれは今後やめておこう。

 瀬名さんに新たな扉が開いてしまう。


 結局、瀬名さんはスズメの置物を1個だけ購入。

 当人は買えた事に嬉しがっていて、「どこに置こうかなぁ」とニヤニヤしながら口にしていた。


 そうして小物店を後にした俺達だけど、歩いている途中に瀬名さんの足が止まる。

 何かを見ているようなので視線を辿っていくと、そこにはアイスクリーム屋があった。


「勇人君、アイスクリーム食べる?」


「ああ、いいですね。俺払いますよ」


「えっ、そんな割り勘でいいのに……」


「これくらい大丈夫ですって。何買います?」


「じゃあ……ストロベリーミックスで」


「了解」


 瀬名さんはバニラ&イチゴのストロベリーミックス。

 俺はバニラ&チョコのチョコミックスを選んだ。


 店員さんから受け取った後、近くにベンチがあったのでそこに座る事に。


「ありがとうね勇人君。後で立て替えておくよ」


「いいですよ、たかが300円程度ですから。さっ、溶ける前に食べて下さい」


「そう……? じゃあ」


 そっと舌でアイスクリームを舐める瀬名さん。

 よほど美味しかったのか、それはもうパァっと目を輝かせていた。


「美味しいー。ほらっ、勇人君も」

 

「はい。……うん、美味いです」


 俺がそう言うと、瀬名さんが嬉しそうに微笑んでくれる。


 何だがこそばゆい気分だな……。

 癒されるものを見て浄化される気分って、まさしくこういう事なんだろう。


 そんな中で、瀬名さんがもう1回アイスを舐めている。

 その様子を見ていた俺は、無意識と言うべきかスマホを取り出していた。


 ――パシャッ。


「えっ?」


「あっ、つい撮っちゃって……もし嫌だったら消しますので」


 マズイ、今回は無断で撮ってしまったぞ。


 瀬名さんとの撮影をしている内に染み付いてしまったのか? 

 いずれにしてもこれは失礼だったかも……。


「……どんな顔?」


「えっ?」


「その写真の私、どんな顔してるの?」


 しかし瀬名さんは咎めるどころか、妙な質問をしてきた。


 言われた通りさっきの写真を見てみれば、そこには美味しそうにアイスを舐めている瀬名さんが映っている。

 率直言って……壁紙にしたいくらい可愛い。


「……すごく良い顔しています」


「ならば受け取って。私からのサービスだよ」


 そう調子の良い事を言って、俺の頬をまた小突く。

 ……アイスクリーム代、これでチャラにしておくかな。

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