第22話 アパレルショップでのイチャイチャ

 俺達は最寄りかつ行きつけのデパートに到着した。


 2階構造となっていて、1階が食品コーナーやフードコート、2階が服売り場などといった構成になっている。

 またこの隣にはもう1つ建物があって、そこが『ラウンド711セブンワンワン』と呼ばれる遊技場になっているのだ。


 休日という事もあってか、中々人が多い。

 それでも瀬名さんを見る人がいない辺り、彼女の隠密スキルがよく分かる。


「勇人君、せっかくだから色んなお店回ろうよ」


「それもそうですね。どこに行きます?」


 どのみち、食品は後回しにしなければならない。

 先に買ってしまうと野菜やら冷凍系やらが痛んでしまうからだ。


「アパレルショップ」


「アパレルというと服か。傷んだりしたんですか?」


「痛んだという訳じゃないけど、ちょっとキツくなってきてね。そろそろ買い替えようかなって思ったの」


「…………」


「どこかキツいのかって聞かないんだ」


「聞いてどうするんですか……」


 そのキツくなった理由なんて一目瞭然なんだよな……。


 だって瀬名さん、これ見よがしに自分の胸を触れているんだし。

 要はそういう事でしょう? 胸が大きくなったとかでしょう? でも男の俺が聞くのはセクハラだから黙っているしかないんだよ。


「……胸見ちゃってるね、勇人君」


「うっ……」


「私は気にしていないから大丈夫だよ。男の子の本能あるある」


「……瀬名さん……」


 多分、俺の顔はトマトになっているはずだ。

 どうしてこう、瀬名さんは俺をからかうのだろうか。


「……そうと決まれば行きましょうか。ほらっ、早く」


「あっ、勇人君早いってば。ていうか照れてる?」


「照れてません」


「そうかなぁ?」


 ニヤニヤするのもやめてほしいです。

 とにかく俺達は2階へと向かい、大手アパレルショップ『ユニコン』にたどり着いた。

 

「オシャレな服を買いたいなら『ユニコン』を選べ」なんて言葉があるくらい、ここには種類豊富な服装が並べられている。

 俺も何回かお世話になっているし、今着ているジャケットとかもユニコンで買ったものだ。


「ねぇ、見て! サーヤのポスターだよ! やっぱキレー!」


「お前、女なのにサーヤが好きなのかよ」


「ええ!? 女を好きになってもいいじゃない! あんたにはサーヤの魅力分からないの!?」


 そんな時に男女の声が聞こえてくる。


 どうもユニコンの出入り口付近にポスターが張られていて、1組のカップルが覗いていたらしい。

 そのポスターには、でかでかと瀬名さんの御姿が。

 

 この分から察するに、ここで素顔を晒したらゲームオーバー間違いなしだ。


「気を付けて下さいね」


「分かってる分かってる」


 ともあれ、ここに用があるのは瀬名さんだけだ。

 女性の服選びは長くなるというし、俺は店の外で待機でもしよう。




 そう思っていたのに……。


「……あの、本当に来てよかったんですか?」

 

「もちろん。勇人君に服の審査してもらいしね」


 俺は試着室のベンチに座ってしまっている。

 そして瀬名さんは試着室の中だ。


 何故か俺は瀬名さんに連れていかれて、こうして試着を待つ事になったのだ。

 俺に審査してほしいと言われても、あまり服のセンスがないんですが……。


「よし終わり。勇人君、そこに他の人いる?」


「いないですよ」


「じゃあ、ごたいめーん」


 なんか瀬名さん、口調からしてテンション上がってません?

 そう思っていた時にはカーテンが開き、彼女の新しい姿が露わになった。


「……おお」


 ベージュ色のツーピースだ。

 腰辺りには大きめのリボンがこさえられていて、それが良いアクセントになっている。


「どう?」


「……清楚って感じですね。95点」


「まさかの点数付き。それほんとなの?」


「ほんとですよ。ただ服をチャコール色にした方が似合うかな…って、これは余計だったか」


 我ながら失言してしまったと思っていたら、瀬名さんがキョトンとした顔でこちらを見てきた。


「どうして? 別に余計だなんて思っていないよ?」


「いや、瀬名さんはモデルだし、そういったセンスは俺よりも知ってるはずでしょうから……」


「雑誌の服装はあくまで会社側が用意したもので、私のセンスとは関係ないのよ。むしろその意見、結構参考になるんだけど」


「そう……ですか」 


 瀬名さんが「なるほど、チャコールの方がいいんだ」とツーピースを見下ろしているので、多分本音なんだろう。

 俺、もしかして服装のセンスあった?


「勇人君ならスタイリストになれるんじゃない? というか私の専属になろうよ」


「そこまで才能ないと思いますよ。第一、スタイリストになったら着替えの手伝いとかしないといけないし」


「私の着替えを手伝うのは……嫌?」


「えっ?」


 俺がその言葉を聞いて呆然としてしまう。

 だけど、その間にも瀬名さんの顔が赤くなっていって……。


「……さすがに言いすぎた。ごめん……」


「何想像しているんですか……。というかあれだけ色んな撮影してきたのに」


「身体の一部を見せるのと全部見せられるのとじゃあ、全然違うでしょ?」


 ああ……それは納得かな?


 というか、試着室でなんて会話しているんだ俺達は。

 身体が熱くなってきたじゃないか。


「勇人君」


「……はい?」


「アドバイスしてくれたご褒美に、今の私を思いっきり撮影してもいいよ」


「ここではアレなので、家に帰ってからで問題ありませんか?」


無問題モーマンタイ


 ともあれ俺は瀬名さんの手助けになったらしい。

 それはそれで悪くない気分だ。


「ちなみに、これから下着も買ってみようかなって思ってるんだけど」


「でしたら、俺は外で待機しておきますね」


「ええ~」


 なお瀬名さんが服を購入した後、俺は戦略的撤退を果たしたのだった。

 さすがに下着は……なぁ。

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