第20話 勇人だけの写真
それから数週間の事。
「おーす」
「おお、勇人ちぃーす」
俺が高校の教室に入っていくと、真っ先に亮が挨拶してくれた。
どうも奴は雑誌を読んでいる様子。
その雑誌をよく見てみれば、表紙に瀬名さんの姿があった。
「それ、瀬名さんのか」
「ああ。今回のサーヤ、無茶苦茶エロいんだよなぁ。両腕縛りとか最高かよ」
表紙の瀬名さんは、仰向けになりながら両腕を縛られていた。
まるでそう、数週間前の練習と一緒。
浮かべている表情もあの時と変わっていなかった。
「あー……本当にサーヤ可愛い……可愛すぎて死んじゃう……」
勝手に死んどけ。
あの練習の翌日に撮影が始まった訳だけど、これが大成功。
ディレクターはおろか男女のスタッフがメロメロになってしまい、空間全体がピンクな感じになってしまった。
『瀬名さん、すごくよかったです!』
『同姓なのに惚れ惚れしちゃって……もしよかったら私と食事に!』
特にスタイリスト辺りが、瀬名さんへとわいわい集まったなぁ。
結局、瀬名さんは食事には行かなかったけど。
ともかく緊縛の写真を乗せた雑誌は、昨日発売された瞬間から爆売れの勢いだった。
その証拠に、亮の他にも雑誌を持っている生徒が何人かいる。
「おっ、それってサーヤの新しい雑誌じゃん!!」
「ああ、今回の写真いいよなぁ! 特にこの表紙!」
「分かる分かる! このエロさたまんねぇよな! さすがサーヤだよ!!」
その表紙の為に、俺と練習していました。
なんて言っても信じないだろうし、ここでバラすつもりもない。心の中に押し留めるのが一番だ。
押し留めると言えば、俺のスマホ内は瀬名さんの写真でいっぱいだ。
どれも世に出回る事がないだろう、
バレたらどうしようという不安があるけど、ほんの少しだけ愉悦感を抱いていたりしている。
まぁそんな事を感じていたら、まるで瀬名さんを独占しているみたいでキモく感じるのだけど。
「……おい勇人ぉ。そんなに見たいなら自分で買えよぉ」
「悪い、あとで自分で買うから。ちょっと見させて」
「ちぇ、別にいいけどさぁ」
ともあれ確認でもしようと、亮の持っている雑誌を見てみる事にした。
ウインクする瀬名さん、豊かな胸を突き出すようにする瀬名さん。
映りもいいし、ポーズも完璧。
写真だけでも、これだけの色気を出しているのは流石と言うべきか。
「おはようございまーす!」
「あっ、辻城さんおはよう!」
「はようでーす!!」
俺達がページをペラペラめくっていると、扉から声がしてくる。
辻城さんが入ってきたようだ。
新人モデルとして知れ渡っているおかげか、彼女はクラスにおける人気者になっていた。
彼女自身も分け隔てなく明るく接するので、さらに人気度が上がったのは言うまでもない。
そんな彼女がこちらへと近付き、挨拶してくれた。
「おはようございます! 友田さん、赤坂さん!」
「ああ、おはよう」
「おう」
「おっと、それは売れ行き最強の雑誌じゃないですか! あたしの写真見ました!?」
亮の持っている雑誌に食いつく辻城さん。
もちろん、瀬名さんとペアで撮った写真も拝見している。
俺としては、以前にも見た百合百合な2人が好きだったな。
「ああ、すごく可愛かった。なぁ、亮?」
「まぁな。悪くなかったぞ」
「むぅ、赤坂さんって佐矢香さんの事になるとテンションアゲアゲなのに、あたしに対してはぬるま湯ですね。ちょっと不満です」
「悪いね、俺はサーヤ一択だ。……というか辻城さんって、サーヤと知り合いなんだろう? サーヤにコンタクト取れたりする?」
「駄目ですね。それはさすがに」
「だよな……悪い、忘れてくれ」
亮が目に見えて落胆している中、辻城さんが俺へと振り向く。
ニコッと軽く微笑みながらだ。
「絶対に秘密を言いませんから安心して下さい」と言いたいんだと分かり、俺は内心彼女に感謝する。
ほんと、彼女が周りにバラすような悪魔的性格じゃなくてよかったよ。
「時に友田さん。さっきあたしの事を可愛いって言ってましたけど、あたしと佐矢香さんどっちが可愛いと思うんですか?」
「えっ?」
「正直な感想でいいので」
2人のどっちが可愛いか……。
これには答えがあるのだけど、正直に言っていいだろうか。
かといって代案なんてないしな……。
「……どっちも選ぶ事が出来ないくらい可愛い」
「ほぉ。テンプレですね」
「テンプレなのかどうかは分からないけど……辻城さんは明るくニコニコしているところが可愛い。瀬名さんは……クールそうに見えて抜けているところが可愛いって感じだな」
「……フフッ、なるほど要素の違いってやつですか。なるほどニコニコかぁ……」
俺の答えを聞いた辻城さんが、ヤケにはにかんでいた。
そんなに嬉しかったのだろうか?
「とりあえず合格かな?」
「ん? まぁそうですねぇ。……ただ友田さん、瀬名さんの感想は危なかったですね。赤坂さんに聞かれたらマズいですよ」
「あっ……」
確かに瀬名さんの感想、彼女を近くで見ないと言えないものだ。
真っ先に亮を振り向いたけど、奴は雑誌に夢中で目もくれていない状態だ。
危なかった……。
「とまぁ、そろそろ席に戻りませんと! それでは2人とも失礼いたします!」
「あ、ああ」
俺が軽く手を挙げた後、辻城さんが自分の席へと戻った。
何というか、辻城さんには頭が上がらないな。
こうして普通に生活していられるのも彼女のおかげなんだから。
「……なぁ、勇人」
「ん、何?」
「今更なんだけど、辻城さんってお前によく絡んでいるよな? いつの間に仲良くなったのか?」
「ああいや……彼女の気質もあるんじゃないかな? ほらっ、誰にでも対等に接するし……」
「はぁ……なるほど……な?」
俺の秘密を守ってもらう代わりに、友達になったのだ。
そんな事を口が裂けても、亮とかに言える訳がない。
「辻城さん、よく友田と一緒にいるよな?」
「もしかして付き合っている? いやまさかな……」
「いいなぁ友田はよぉ。俺も辻城さんにお近づきになりてぇ……」
周りの声が聞こえているけど、無視でシャットアウトだ。
気にしていたらアカンよこれは。
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