第19話 隠れM体質

 風呂に入っている最中でも、瀬名さんの事が気掛かりだった。

 本人は心配しないでとは言ったものの、やっぱり緊縛された女の子を放置するのはそれはそれでアカンだろう。


 なので今日は早めに上がって、部屋に戻る事にした。


「瀬名さん、戻り……」


「……ハァ……ハァ……」


「えっ、顔が赤い!? 大丈夫ですか!?」


 仰向けになったまま縛られているのはそのままだ。

 だけど、その瀬名さんが荒い息を立てながら顔真っ赤にしていたのだ。


 もしや風邪でもひいた!?


 そんな姿を見たのを初めてだった為、思わず慌てながら駆け寄った……けど。


「あっ、勇人君……実はこういう状況に興奮しちゃって……」


「そういう事!? 新たな扉に目覚めちゃいました!?」


「かもね……結構悪くないんだこれ。しばらくこうしたい気分……」


 ……いけない。このままでは瀬名さんが戻ってこれなくなる。

 早めに練習を終わらせておかなければ。


「顔を撮影したらほどきますよ。いいですね?」


「えー、こうしたいんだけど」


「駄目ですよそれは」


「むぅ……しょうがないなぁ」


 やっと瀬名さんが折れたよ。

 冷や冷やさせおって。 


 俺が撮影している最中でも、瀬名さんの荒い息が部屋中に響き渡る。

 それに加えて切ない表情をするのだからもう……。


 ところで俺はさっき、瀬名さんが『痛い』『ほどいて』という感情が入り混じっていた顔をしていたと考えていた。

 その際、もう1つ何かしらの感情があった事にも気付いていた。


 これは推測になるが、瀬名さんが先の2つ以外に思っていた感情。

 台詞からして『気持ちいい』という感情じゃないだろうか。……いやまさかな。


「はい、これが今の瀬名さんの顔です」


「……OK。じゃあ、ほどいていいよ」


「言われなくても」


 すぐに両腕や両足のリボンをほどく事にした。


 ほどく最中、瀬名さんが「んん……」と艶めかしい声を出すし身体を捩らせる。

 その姿、男子に毒ですよ。


「はい、ほどきましたよ」


「ありがと。冷静に考えたら、ちょっと情けなかったね。反省しなきゃ……」


「すべきですよこれは。でもちょっと性癖曲がった方が親近感が湧く……ああいやすいません、失言でした。今のは忘れて下さい」


「……勇人君って、私がMの方が萌えるタイプ?」


「えっ?」


 失言だったのに、何故かそこに食いついてきた件。


 ……瀬名さんがMか。

 縛られて興奮する瀬名さん、言葉責めを食らう瀬名さん、あんな事やこんな事をされる瀬名さん。


 ……なんか悪くない……かも。


「勇人君、顔赤くなったね」


「……えっとこれは……」


「よかったね。私、この経験で実は隠れMじゃないかって思ってきたんだ。嬉しいでしょ?」


「……かもですね」


 ヤバい。

『瀬名さんがMの方か。よかったぁ』と思った自分がいた。瀬名さんの事を言えないよ。


「……とりあえずいい写真は撮れましたし、明日の本番はその調子で行っちゃいましょう」


「うん、私もだいぶコツを掴んできたからね。さっきの写真は保存してもいいから」


「これもですか? ……まぁ、お言葉に甘えて」


 改めて俺は、スマホに収めたさっきの写真を見た。

 

 縛られながら、不安と興奮が入り混じった表情を浮かべる瀬名さん。

 冗談抜きでいい絵かもしれない。亮や父親が見たら鼻血の海に溺れるだろう。


「……本当にありがとうね、勇人君」


 俺がスマホを見ている際、また瀬名さんがお礼を口にする。

 見上げてみると、いつもおっとりとした彼女には珍しい神妙さがあった。


「どうしました? そんな改めて」


「そう言いたくなったの。私がアパートに住んでようが、金目的でモデルやってようが、変な練習させせようとも、勇人君は嫌な顔1つ見せずに付き合ってくれている。あなたには感謝してもしきれないよ」


「……そりゃあまぁ、別に瀬名さんがどうしようが瀬名さんの自由ですし、俺は同居の身として恩義に報いているだけです。でもこれだけはハッキリ言えます」


「何?」


「『楽しい』です。瀬名さんこうしているの、驚きはしてますけど楽しいんですよ」


 俺は瀬名さんと最初会った時、良くも悪くも真面目そうだなと思っていた。

 でも瀬名さんと話していると楽しくて、さらに彼女の知られざる一面も目の当たりにする事が出来た。


 こんなの、人生でまたとない体験だろう。


「……勇人君、嬉しいよ」


 瀬名さんがそう言った後、俺に近付いてくる。


「えっ……?」


 ――ギュッ。


 何がどうなっている? えっ?


 今の俺、瀬名さんに抱き締められている?


 身体中に色々と柔らかい感触が……えっ?


「やっぱりあなたと同居できてよかった……」


 瀬名さんの囁きが俺の耳元をくすぐる。

 身震いしてしまった。


 それから瀬名さんが離れて、すっと立ち上がる。


「それじゃ、私もお風呂入るから。適当にくつろいでいて」


「……はい」


 風呂場に消えていく瀬名さん。

 

 ふわふわとした気分が俺に襲い掛かってくる。

 それからさっきのゲームの続きをしたけど、上の空だったせいか『うわああああああああああ!!』と転落死の連続だった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 隠れM体質はこのような展開を作る上で、自然とそんな設定を入れちゃった感じです。

 悔いはないですね(笑) 


「面白い」「続きが気になる」と思った方は、ぜひとも☆や♡やレビューよろしくお願いします!

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