第18話 緊縛プレイ

「えっ? 縛って……えっ?」


『うわああああああああああ!!』


「あっ」


 俺が呆然していた時、ゲームの主人公が高所から落下してしまった。

 しかも当たり所が悪すぎてゲームオーバーに。

 

「ああごめん。変な事言っちゃったね」


「変な事すぎてポカンとしちゃいましたよ……。その、縛るってどういう……」


「説明が足りなかったね。明日の仕事なんだけど、『両腕を縛られながら恍惚な表情を浮かべる』というポーズがあるの。でも縛られながら恍惚な表情だなんてピンと来ないから、勇人君の手を借りて練習しようと思って」


「そんなのがあるんですね……」


 たまに雑誌にエロいポーズがあったりするので、おそらくその類であろう。

 

「それで俺はどうすれば?」


「いつもみたく私の顔を撮影してほしい。それを私がチェックするから」


「はぁ……」


 妙なのを要求されてしまったなぁ……。

 でも今の瀬名さんはマジの顔をしているし、ここで断る訳にはいかないな。


「俺でよければいいですけど……」


「ありがと。本当に助かるよ」


 瀬名さんが顔を近付けさせながら、嬉しそうな表情を浮かべる。

 美貌が至近距離に……うわ、まつ毛が長い。


「瀬名さん、あの……」


『あああああああああああああ!!』


「あっ」


「また落ちちゃったね。勇人君って動揺すると操作ミスるんだ」


「いやいや、誰のせいですか。誰の?」


「さぁ、誰でしょうねぇ?」


 この人は全く……。

 そもそも他に頼る人がいないとはいえ、そんな大事な練習を俺に任せてよかったのだろうか。


 それこそ俺、罰として地獄に落ちたりしない? 今さっきのゲームの主人公みたいに。


「じゃあ夕飯の後にしようね。ちょっとご飯温めてくるから、その間ゲームしてて」


「あれ、もう作ってあったんですか?」


「私の方が早く帰れたから。今日はクリームシチューだよ」


 そう言って台所へと消える瀬名さん。

 シチューは期待しかないけど、練習の方は不安だ。


「大丈夫かな……」



 ◇◇◇


 

 瀬名さん特製の温かいクリームシチューを食べた後、彼女から「はいこれ」とある物を手渡された。


 それは何の変哲もない青いリボンだ。

 ちょうど両手を巻けるような長さはあるだろう。


「これで瀬名さんの両腕を巻けと」


「理解が早くてよろしい。2本あるから両足にもやってもいいのよ?」


「さすがにそこまでは……しないと思いますよ……」


「台詞の割には、声がやけに小さ……」


「さっ、始めましょう。とりあえず両腕出して下さい」


 言われる前に、ササっと次のステップを踏む事にした。

 すると瀬名さんがベッドに寝そべり、仰向けの体勢になる。


「はい、どうぞ」


「……そう来ましたか」


「さすがにここまで来ると慣れてきた感があるね」


「誰かさんの影響ですよ、多分」


 とか言ったものの、これは緊張する。

 あくまでも自分だけかもしれないけど、普通に座っている女の子を縛るよりも、寝そべっている女の子を縛っている方が幾分かエロいのだ。


 というか前にも思っていたけど、仰向けになっているのに胸が潰れていないのがすごい。

 いつしか視線がそこに行ってしまって……、


「……気になるでしょ? 88のFくらいあるんだよ」


「!? な、何の事ですかね……さっぱり分からないです」


「分からない? じゃあ私から教えようかぁ?」


「結構です!」

 

 本当にもうこの人は……からかうのやめてほしい。

 マジで先が思いやられるよ。


「とりあえず巻きますので、じっとしてて下さい」


 ほぼヤケクソ気味に瀬名さんの両腕を縛った。

 だけど加減を誤ったせいか、縛った瞬間に彼女がビクンと跳ね上がる。


「あっ……!」


「っと、すいません! 痛かったですか?」


「い、いや、ちょっとビックリしただけ……むしろもっとキツくしてくれない?」


「えっ?」


「駄目……?」


 悩ましい上目遣いをされて、俺は喉を詰まらせた感覚を覚える。

 言われた通りさらにキツく縛ると、


「ん……! すごっ……」


「せ、瀬名さん……?」


「勇人君、今だよ! 私すっごくエロい表情してると思う……だから早く!」


「は、はい!」


 スマホを用意して連続撮影……するのはいいけど、俺達何やっているんだろう……。


 それに今の瀬名さん、確かにエロい表情をしている。というか感じていると言っていいか。

 拘束されて身動きできず、ただただ身をよじるしかないもどかしさを味わっているのかのよう。


 まさにその表情は『痛い』という苦痛と、『ほどいて』という懇願が入り混じっていた。

 さらにあと1つ、何かしらの感情が顔に出ているけど、それが何なのか分かりかねない。


 ともかく十分に撮影したところで、俺は瀬名さんに写真を見せた。


「えっと、今の瀬名さんはこんな感じでして……」


「うわっ、私めちゃくちゃエロいじゃない……何これ痴女じゃん……ハハッ」


 自嘲気味に笑う瀬名さん。

 

 とりあえず合格といったところか。

 早めに終わらせたいし、そろそろリボンを……。


「でも中途半端だね……もっとこう……蠱惑さが足りない」


「足りない? そんな事は……」


「雑誌の表紙になる予定なの。だから集客率をアップするには、もっと心に来るような感じじゃないと。……だから勇人君、両足にも巻いて」


「……ええ……」


 両足にだなんて……もう完全に身動き取れないじゃん。


 そうなってもいいと思っているのは、俺を信頼しているから? 

 少なくとも俺は、そんな状態の女の子をどうにかしようだなんて思っていないけど。


 そう悩んでいると、彼女がまた潤んだ瞳でこちらを見てくる。

 これはもう……据え膳食わぬは何とやらだな。


「ああ……。いい……いいよ……」


 そうして両足を縛ると、瀬名さんの頬に紅が差す。

 両手両足を縛られ身を捩る美人モデル……これなんてAV?


「……勇人君」


「はい?」


「先に風呂に入っていて……私この状態のまま模索するから」


「えっ!? いいんですか!?」


「え、ええ、心配しないで……。それで風呂から出たら、もう1回私を撮影してくれれば……」


 何でこんな事になった?

 緊縛された事で、瀬名さんの何かが弾けたのか?


「……えっと、じゃあお風呂お借りします」


 心配にはなるけど、俺は言われるがまま風呂へと向かった。

 

 にしても瀬名さんが本当にエロくて、頭の中に未だにこびりついている。

 そんでもってそんな彼女を置いておくなんて。


 これ……要は放置プレイというものじゃないか?

 大丈夫なのかな瀬名さん……。

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