第17話 衝撃的な頼み事
「友達……それでいいのか?」
てっきりお金でも要求するかと思いきや、まさかそんな簡単な事だったなんて。
いや、お金は言いすぎか。モデルで稼いでいるんだし。
「はい。中学までの友達は他の高校に行っちゃいましたので……だから一緒にいてくれたらいいなって」
「さっきの取り巻きは?」
「別に嫌いとかそういうのじゃないですけど、でもやっぱり友田さんがいいです」
どういう理屈だろう?
でも亮がいる俺はともかく、友達のいない辻城さんは色々と不安なんだろう。
仕事で知り合った者同士、助け合いは必要だ。
「俺でよければ……いいけど」
「本当ですか! 嬉しいですありがとうございます!!」
俺がOKをすると、その表情を太陽のように明るくさせた。
眩しい……。
「これで解決ですね。それじゃあまた明日!」
辻城さんがここから立ち去ろうとしていた。
ただ俺はそんな彼女を引き留める。
「待って。ちょっといいかな?」
「はい、何でしょう?」
「さっき瀬名さんを大切な人だって言っていたのが引っ掛かって。あれってどういう意味なんだ?」
「あー、それはですね……」
俺の問いに対し、辻城さんが懐かしむような表情を見せた。
「あたし、モデルになる前は人見知りなものでして、よくお母さんの後ろに引っ付いていたものです。目を合わせる事も出来なかったんですよ。でも大きくなるにつれてこれでいいのかな、こんなんで今後上手くいけるのかなって思ったんです」
「…………」
「そんな時にあたし、書店で佐矢香さんの雑誌を見つけたんです。ページに映っていた佐矢香さんの目はハッキリとカメラを意識していて、目を合わせられない自分とはかなり違っているように見えました。後に撮影イベントにも行ったのですが、あの人はギャラリーの目を臆してませんでした」
言われてみればそうだ。
イベントや仕事の時でも、瀬名さんは多くの視線を受けても動じてはいなかった。
動じていたら仕事にならないと言われればそれまでだけど、俺がその立場だったら緊張してそれどころじゃないだろう。
「それで思ったんです。あたしもモデルになれば変われるんじゃないかって。そんで佐矢香さんが所属している『ヤジマ』に頭下げて、今に至る訳です」
「なるほどな……」
「そのおかげで人見知りも治りましたし、目線も合わせられるようになりました。瀬名さんはあたしの人生を変えてくれた恩人といってもいいくらいです」
そこまで話してくれた後、ハッとした顔をする辻城さん。
「えっと、瀬名さんにはこの話内緒にして下さいね! 知られると恥ずかしいので……」
「分かっているよ。辻城さんも俺の秘密を知っている事だし、お互い様だよ」
「そうですね! にしても友田さんと佐矢香さん、遠縁なのにあまり似てないんですね」
「似てたらそれはそれでおかしいがな」
君は遠縁と従弟をごっちゃにしていたのか。
血が繋がっていると言っても、かなり離れていたら似なくて当たり前だ。
「まぁ確かに。それでは友田さん、先に帰りますね!」
「ああ」
俺は立ち去る辻城さんへと手を振った。
ここで辻城さんの人となりを知るとはね……しかも彼女と友達になった。
まぁ悪くはないからそれはいいとして。
「そういえば瀬名さんがモデルになった理由、聞いていなかったな」
辻城さんがモデルとしての道に入った理由は分かった。
では瀬名さんは? それが気になって仕方がなかったのだ。
もちろんそれを答えてくれる人なんていないので、俺も学校を出て帰宅を始める。
数分して、瀬名さんのアパートに到着。
事前に教えられた暗証番号を打って、門のオートロックを解除。2階に上がってから、これまた事前に渡された合鍵で扉を開けた。
「ただいまぁ」
「お帰りなさーい。どうだった高校?」
奥から瀬名さんがやって来たので、俺は嬉々として答えた。
「思ったよりも悪くなかったですね。瀬名さんの方はどうでした?」
「すごいよかった! 高校の時とは違ったし、女の人なんか化粧したりオシャレなんかしてね。全体的に垢抜けていたよ。それと自慢じゃないけど、『あのモデルの瀬名さん!?』って言い寄られちゃった」
どうも辻城さんと同じ事が起こった様子。
俺は同情を抱きながら、瀬名さんと共に居間へと向かった。
「それは災難でしたね……やっかみとか生まれなかったでしょうか?」
「災難だなんて思っていないよ。『あなたの大ファンなんです!』って言ってくれたのは嬉しかったし、やっかみなんてもう慣れっこだよ」
「そうですか。いらぬ心配かけてしまってすいません」
「いいよいいよ。それよりもゲームやらない? 最近面白い奴買ってきたんだけど」
「ああ、ぜひ」
どんなゲームだろうと思いきや、瀬名さんが見せてくれたのは某大手ゲーム会社のファンタジー作品だった。
それも最近発売された続編ものだ。
前作が世界の隅々まで探索できるオープンワールドもので、今作はそれに加えて空まで冒険できる。
これ結構好きなんだけど、買うに買えなかったんだよな。
今月のお小遣いが中々厳しいものだから。
「へぇ、小春ちゃんと一緒のクラスに? そんで友達になったんだ」
瀬名さんと交代交代でやる中、俺は辻城さんの事を話した。
「最初はビックリしましたよ。で、俺が瀬名さんと一緒に働いている事を秘密にしてくれると言ってくれました」
「そっか。よかったら小春ちゃんの事、これからも見守ってくれるかな? あの子は私の大事な後輩だからさ」
「瀬名さんがそう言うのなら」
ここまで期待されては応えなくてはな……。
と、俺はある事を思い出す。
「瀬名さんはどうしてモデルになったんですか? なんか目標があったとか?」
「えー、何急に?」
「気になったんですよ。もし嫌なら言わなくてもいいですけど」
「うーん、嫌って訳じゃないけどねぇ。実は『ヤジマ』の社長とお父さんが知り合いで、その縁でモデルに入ってみないかって誘われたんだよ」
あまりにもあっさりとした始まりに、俺は意外だと思ってしまった。
「そうだったんですか」
「社長にそう言われた時には悩んだけど、もしかしたら自分の知らない面が分かるかもしれないって思って、それから入ってみる事にしたの。ただね……あんまり言いたくないんだけど、お金を稼ぐ手段が出来てラッキーって浮かれてた自分もいたと思う。貯金とかもしたかったから」
それから寂しそうな顔をして、こちらへと振り向く。
「私、こう見えて俗物なところもあるんだよ。世間に知れ渡っているイメージとは程遠いくらいの。……ガッカリしたでしょ?」
「……いや全く。お金を稼ぎたいなんて誰でも思いますし、むしろ瀬名さんも俺達同じ人間なんだって親近感が出ました」
「本当?」
「本当本当。今やっているゲームなんか小遣い足りなくて、買うの断念したんですよ。お金欲しいなぁ宝くじやろうなぁって思っちゃって、実際に宝くじ買ったんですけど……まぁ見事に外れました」
「それは残念。宝くじって当たりそうだなぁって思っているほど当たらないよね」
「そうそうそれそれ。ツキが回ってきたって思ってたら掠りもしなくて。あれは悔しかったですよ」
「勇人君にツキが回るほど運がいいの~?」
「いえ、全くないですね。何であの時そう思ったんだろう?」
しょうもない話をするうちに、俺も瀬名さんも笑みが浮かんできた。
瀬名さんと話しするの、何か好きになってきたな。
「……ねぇ勇人君」
「はい?」
「いきなりなんだけど、あなたに頼みごとがあるの。聞いてくれる?」
「瀬名さんの頼みなら、何だって引き受けますよ」
我ながら臭い事を言ってしまったけど、それはさておき。
どんな頼みごとなのか耳を傾けたところ、
「その、私を縛ってほしいんだけど」
「……はい?」
まさかの緊縛プレイ(?)だった。
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