第16話 小悪魔な小春ちゃん
辻城さんの存在を確認した俺は、すぐさまスマホで彼女の事を調べた。
辻城小春。現16歳
15歳の時に『ヤジマ』に所属。それからファッションモデルを中心に活動中。
……甘かった。
外見が小柄だから、小学高学年か中学辺りかと思っていた。
彼女、俺と同い年じゃないか……!
「では新入生の諸君、入学おめでとう。私がこのB組の担任である……」
入学式を終えた俺達は教室の中にいて、そこで教師の話を聞いていた。
本来ならば、この人が担任になるかぁとかそんな事を思っていたはずだ。
でも今は思わない。
何故なら辻城さんがこっちを見ているからだ。
それはもう、俺の身体に穴が開くくらいにずっと。
おそらく何か言いたいのだろう。先ほどまで辻城さんの周りに生徒達が集まっていて、そんな余裕すらなかったのだ。
それにだ。
彼女は俺が『ヤジマ』でバイトしている事を知っている。
瀬名さんと仲が良い事も知っている。
それが何らかの拍子で彼女の口から明かされたら、俺の命は亮によって尽きるかもしれない。
「どうした勇人、顔色が悪いぞ?」
教師の話が終わってから、生徒達の下校が始まった。
そんな中で荷物の準備をしていたところ、亮に話しかけられた。
「き、気のせいじゃないのか? 俺は元からこんなんだ」
「そんな血色悪いのは初めてなんだけど。もし悩みがあったら言えよな? 相談に乗るからさ」
お前に言えない事だから困ってるんだろうが。
辻城さんの方はというと、相変わらず人だかりによって質問攻めに遭っているらしい。
モデルという人と接しやすい職業についている影響か、本人は嫌な顔せず質問に答えている様子だ。
「しっかし、辻城さんと同じクラスだなんて俺思わなかったよ」
「亮は辻城さんに興味ないのか? モデルだぞ?」
「俺はサーヤ一筋。もし彼女とお近づきになった際にはお友達から始めて下さいって言って、そんで彼女が好きそうなところにデートしたいレベル」
「そ、そう……」
意外とピュアだな、コイツ。
もう1回辻城さんを見てみると、彼女が生徒達に囲まれながら出て行くのが分かった。
なるべく彼女から離れるように帰ろう。
今回は情報量が多すぎて、彼女とはあまり会話できないと思う。
「そろそろ行こうか」
「ああ」
亮を連れて教室を後にする。
それで昇降口の下駄箱を開けると、何故か文字が書かれた紙が置かれていた。
『話がありますので廊下の奥に来て下さいね! 新人モデルの小春より♡』
「…………」
家に帰って情報を整理しようと思ったけど、そう問屋は卸さなかったらしい。
しかも置き手紙にハートマークって……。
「……亮、悪いけど先帰ってくれる? 忘れ物しちゃった」
「おいおいだらしないなぁ。じゃあまた明日なぁ」
「おぉ……」
亮が昇降口を出たのを見届けた俺は、すぐに廊下の奥へと足を運んだ。
ガラクタや道具などが置かれていて、人の気配は全くない。
辺りを見回していると、
「友田さーん!」
元気そうな声と共に、辻城さんが現れた。
どうやら物陰に隠れていたらしい。
「や、やぁ……」
「やっぱり手紙気付いてくれたんですね! いやぁ、皆さんの目を搔い潜りながら友田さんの下駄箱入れるの大変だったんですよ! そんで『あーっと、忘れ物したので戻ります!』って言ってからここまで来まして!」
「そう……。ていうか辻城さん、俺と同い年だったんだ……調べるまで気付かなかったよ」
「あー、友田さんもそうだったんですか? あたし、見た目がこうだから年齢より下だと思われてしまうんですよねぇ。全く困ったものです」
「……前に言っていた『またお会いましょう』って、もしかしてこうなるって気付いていたから?」
「さぁ、どうでしょうねー」
指を頬に付きながらニッコリと。
ぶりっ子タイプかな彼女。嫌いじゃないけどさ。
「それよりも友田さん、今あなたはこう思ってるんじゃないですか? 自分と佐矢香さんの関係がクラスに知られたらどうしようって」
「そりゃあ思っているよ。友達が瀬名さんのファンだから、気が気じゃなくてさ」
「そうですよねー。特に友田さんが佐矢香さんと同居している件、マジでヤバいですからねー」
「…………はっ?」
辻城さん、なんて言った?
佐矢香さんと同居……ドウキョ……?
「……な、何でそれ……!? あっ……」
反射的に周りをキョロキョロしてしまったけど、それを見た辻城さんがクスクス笑う。
「誰もいないですって。いや、盗み聞きするつもりなかったんですけど、応接室に入る前にそんな話が漏れていたもんですから。あと友田さんと佐矢香さんが遠縁だという事も!」
「……あの時か……」
まさか聞かれていたなんて……あの応接室、防音じゃなかったのかい。
辻城さんに俺達の秘密を知られて、なおかつ同じクラスにいる。
ますますヤバい。本当に知られてしまったら……。
「不安でしょうけど、この事は絶対にバラしませんって。あたしを信じて下さい」
「……本当に?」
「本当に本当。そもそもあたしにとって、佐矢香さんは大切な人なんですよ。だからあの人を困らせるような事はしません」
笑顔はそのままだけど、声音は先程のおどけた感じとは違い真面目なものになっていた。
彼女の言っている事、本当なのかもしれない。
「まぁ、信じられない気持ちがあるでしょうから交換条件といきましょうか。秘密を漏らさない代わりにあたしが条件を出す……これでいいでしょう?」
「条件……何を出すんだ?」
「そうですねー。ならば……」
まるで小悪魔のようにニヤリとする辻城さん。
俺が固唾を吞んでいると、その条件を口にしたのだ。
「あたしの友達になって下さい!」
「……へっ? それだけ?」
「それだけです」
……なして?
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