第15話 いよいよ入学式
モデルの仕事は毎日あるという訳ではなく、瀬名さんが言うには1週間に2~3回あったりする程度という。
高校の入学までに時間があるので、その間に俺は瀬名さんと勉強したりしていた。
意外と瀬名さんの教えが上手くて助かる。
そうしてとうとう、入学式の日がやって来た。
奇しくも瀬名さんの大学入学もあるという。
「いよいよ新しいステージに突入できるね、お互い様に」
「ステージですか……確かに緊張しますね」
俺達は入学に備えて朝食を採っていた。
ご飯と鮭の西京焼き、なめこの味噌汁。
ちなみに全部俺が主体、瀬名さんが手伝いで作ったものだ。
「そんなに気張らなくても大丈夫だよ。確か勇人君、一緒に入学する友達いるんでしょう?」
「ええ、まぁ」
「なら心配する事はない。胸を張りなさい
「瀬名さんも若人じゃないですか」
「そうだった。にしても味噌汁美味しいね。ほんと勇人君は料理が上手い」
瀬名さんが、俺の作った味噌汁を飲みながらうっとりとしている。
味付けとかは特にこだわっていないんだけどなぁ。
「本当ですか?」
「嘘を言ってどうするの。それに味噌汁作れる人は、色々と器用でもあるんだって」
「へぇ、そうなんですか」
「あっ、知らなかったみたいね。その言い方だと」
まぁ、かれこれ長いこと味噌汁作ってきたけど、それは初耳なので。
そのまま俺は自作の味噌汁を飲もうとするも、瀬名さんがトントンとテーブルを指で叩いていた。
「ん?」
「んっ」
そのまま指である物を差す。
それは紛れもなく、俺のスマホだった。
「……時間押しているんで、一回だけですよ」
「言わなくても分かるようになってきたね。以心伝心ってやつ?」
「スマホ取れって言われたらねぇ」
瀬名さんは俺に対して撮影してくれと要求してきたのだ。
そう、この間の時と全く一緒。
期待していないというと嘘になるけど、この人のとるポーズが際どいからな。
果たして俺の心臓が持つのやら。
「じゃあすぐに終わらせるから。ほらっ」
「!!」
瀬名さんがとった行動。
何と豊かな胸をテーブルに置くというものだった。
テーブルに置けるほど大きいという事か。
触ったら絶対に柔らかそう……ってそうじゃなくて! やっぱり俺の心臓を止まらせにきているよこの人! こんなの仕事でやらなかったじゃないか!
「瀬名さん……この間もそうだけど、からかわないで下さいよ……」
「だってあなたの反応見るの面白いもん。男の子ならこういうの好きでしょ?」
俺が目をそらす中、瀬名さんがニヤニヤしていたのが視界の隅で分かった。
はい、好きです。嫌いな男性なんていないはずです。
「……本当にいいんですか?」
「ん、どうぞ……」
「…………」
絶対に公表させないという意志を持ちながら、俺はスマホで撮影していた。
なんかこうやるのも慣れてきた感がある。
相変わらず瀬名さんのポーズには、目のやり場が困るけど。
「はいOK。ていうか自分でやっておいてなんだけど、これポーズじゃないね。失敬」
「失敬じゃないでしょ……」
呆れている俺に対して、舌をペロッと出す瀬名さん。
そんなしれっと愛らしい仕草をしないでほしい。
というかスマホ内のフォルダどうなってるのかな。
すぐに調べてみると、案の定というか瀬名さんの写真で埋め尽くされていた。
最初の前屈みのポーズを始め、流し目を送りながらの寝そべり姿、乳寄せした姿、そして猫の物真似など。
連続して撮影したせいか、写真の数は実に50以上も達していた。
気付かない内にこんなにも撮っていたとはな。
そんでもって、どの瀬名さんも魅力的で悶々するというか……。
「……ん? げっ、もうこんな時間かよ」
時計を見ればそろそろ学校に行く時間だった。
鑑賞している場合じゃない。
「瀬名さん、そろそろ」
「あーはいはい」
俺達は慌てて朝食を完食させ、登校の準備をした。
瀬名さんは大学に向かう際にも、帽子やサングラスを使うらしい。
ファンに足止めされる可能性を考慮しての事だろう。
瀬名さんほどの人気者なら「サイン下さい」とか言われるだろうし。
「じゃあ勇人君、頑張ってきてね」
「瀬名さんこそ。では行ってきます」
俺達の目的地である高校と大学は別方向にある。
アパートの外に出た俺達は、そう挨拶を交わしてから目的地に向かおうとした。
ただ背を向けた俺に対し、背後から瀬名さんの呼び止める声がする。
「勇人君」
「はい?」
「いつかまた撮影の続きしようね♪」
「……するんですか。別にいいですけど」
この人、俺を悶え殺す気か。
◇◇◇
アパートが高校近くにあるだけあって、数十分で到着できた。
『大塚高等学校』。
4階立ての建物が2つあり、その間に通路が設置されている。グラウンドの広さも中々。
今日が入学式である為か、既に大勢の新入生が校門を潜り抜けている。
まるで巣穴に帰るアリみたいだ。
ともあれ、ここが俺の母校となるのか。
何だか実感が湧かないけど、ワクワクもしてきたぞ。
「おーっす勇人」
「おっと、おはよう亮」
後ろから来た亮が、俺の肩を叩いてきた。
コイツは確か電車通学だったな。ご苦労な事で。
「いやぁ、前に来た時にも思ったけど、すごく広いよなぁ」
「だな。とりあえず中に入ろうか」
「ああ……ん、勇人……」
「ん?」
「……お前から女の人の匂いがするんだけど、何なん?」
何……だと……?
コイツ、父さんみたく服についた匂いから性別を当てやがった……!?
というか気持ち悪っ! 俺の周りの男性どうなっているの!?
「そ、そんなに匂うのか……?」
「ああ……それにこの匂い、前に撮影会で握手したサーヤのとそっくりなんだよな……。どういう事なんだ……?」
瀬名さんの匂いだとも当てた!? ますます気持ち悪っ!!?
というか今の亮がヤバい。
ヤンデレ目になっているし、マジで俺を
「お、俺が遠縁の家に住んでいるって言ってただろ? 実は遠縁の方が既婚者で、その奥さんの香水かなんかが付いたんだと思うぞ……」
「…………ああ、なるほど。それなら早く言ってくれよな」
俺が嘘の説明をしたところ、亮の目に光が戻っていく。
よかった、一歩間違えたらこの場で殺人事件が起きるところだった。
「さてと行こうぜ。そろそろ入学式始まるらしいしよ」
「あ、ああ……」
全く、入学当初からヒヤヒヤさせないでほしい。
俺は抑えきれない緊張感を抱えながらも、亮と一緒に昇降口を上がり込んだ。
と、下駄箱の奥に妙な人だかりが出来ているのを発見する。
「何だろ?」
「さぁ?」
亮に振っても分からなかったようなので、その人だかりへと近付いてみる。
すると……、
「まさかモデルと一緒の学年になるなんてな! 俺達ツイているぜ!!」
「ねぇねぇ、やっぱモデルの仕事って忙しいの!? どんな感じ!?」
「ちょちょっと! そんな立て続けに質問されても困りますよ! 順番順番!」
……この声……。
俺が集まっている生徒の中を探ってみると、その中央に見知った顔が。
「あれ、確か新人モデルの辻城小春じゃねぇか。この高校に入学してたんだな」
「…………」
「あれっ、勇人どうした?」
何で辻城さんがここに……。
その辻城さんがこちらに気付いた途端、「おやっ?」と言いたげな顔をしていた。
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