第10話 にゃんにゃん♪

「ふぅ、こんなもんだろ」


 テーブルには俺達が作った料理が並べられた。

 

 まずクラッカーに肉や野菜、チーズを乗せたやつ。

 これは『カナッペ』というものらしく、瀬名さんらしいオシャレな料理だ。


 で、俺は用意された食材を利用してオムライスと唐揚げを作ってみた。


 オムライスの卵はトロトロタイプじゃなく、古き良き食堂によくある薄膜タイプ。

 俺は前者よりも後者の方が好きなのだ。


 唐揚げも2度上げをしたので、カラっと揚がっているはずだ。


「勇人君、オムライスと唐揚げ作れるなんてすごいね」


 俺が仕上げた料理に感心する瀬名さん。

 それから手掴みで、唐揚げをぱくりと食べてしまう。


「んっ! このサクサク感、これぞ唐揚げって感じ」


「どうも。瀬名さんのカナッペも美味しそうですよ」


「フフッ、おだてちゃって。そんな事言っても何も出ないよ」


 とか言いながら、瀬名さんが俺の脇腹を突いてきた。

 アウッ!!


「そ、そこはやめて下さい……」


「あれ、もしかして弱い? じゃあえい、えい」


「アッ、イヤッ! ま、待って! マジで弱いんで!」


「もういじり甲斐があるんだから。あなたって本当に最高ね」


「そんな嬉しそうな顔しないでくれます!?」


 嗜虐心たっぷりな笑顔をしやがって……。

 そこも魅力的だと思った自分がいるのが恨めしいけど。

 

「と、とりあえずご飯にしましょう……冷めちゃいますし」


「そうね。せっかくだし乾杯しましょうか」


 テーブルに座った後、瀬名さんが自身のコップを差し出してきた。

 ちなみに入っているのは白ぶどうジュースだ。


「ああ、じゃあどうぞ」


「2人の進むべき未来に乾杯」


 お互いのコップを突き出し、カツンとみやびな音を反響させた。

 

 そうしてジュースを飲む瀬名さんの姿は、実に色っぽい。

 飲む姿でさえ絵になるなんて、さすがモデルさんだ。




 ――それから数分経って、料理もケーキも完食。

  

 とりあえず満腹になったな。

 特にカナッペなんかレストランに出してもおかしくないレベルだったよ。これが瀬名さんの自作なのだから驚きだ。


「瀬名さんのカナッペ、中々イケました」


「今回は結構張り切っちゃったからね。勇人君のオムライスも美味しかったよ」


「ありがとうございます。こうして住まわせてもらっているので、腕によりをって思いまして」


「ふーん。優しいんだ、勇人君って」


 優しい……かなぁ。自分ではよく分からないけど。

 でも嬉しいは嬉しいので、ありがたく受け止めておこう。


「……じゃあ、そんな優しい勇人君の為に1肌脱ぎますか」


「えっ?」


「今の私、ブレザーでしょ? こういう姿もスマホで撮ってほしいの」


「……あれ、またやるんですか?」


 ルームウェア姿の時と同様、今の瀬名さんを撮影しろという訳だ。

 てっきりあれで終わりだと思っていたのに。


「あれでオシマイって言ってないしね。私は何度でもOKだから」


「OKって……」


 今、彼女は上着を脱いでYシャツ姿になっている。


 こういう姿を撮るなんて……。

 シャツに包まれた胸なんかも大きくて、思わず息を呑んでしまう。


「(やっぱり胸が好きなんだね。これはイケるかも……)」


「今なんて?」


「独り言だから気にしないで。それよりもあなたが好きそうなポーズ、今思いついたからやっちゃうね」 


 瀬名さんがテーブルから立ち上がった後、隣にあるカーペットの上に立つ。

 両腕で巨乳をぎゅうっと乳寄せさせて、さらに強調させるよう前屈みになる。


 ……エッロ。


 腕に包まれた事で、さらにたわわになっている胸。

 それでいて誘うようなポーズと艶めかしい表情……これがモデルの成せる業なのか……。


「……どう?」


「……良いポーズです。瀬名さんスタイル良いから余計に……」


「体型には気を付けているからね。運動とかダイエットとか結構しているの」


「へぇ……」


「…………」


「…………」


「……あの勇人君、そろそろ撮ってくれると……この体勢キツくて」


「あっ、すいません……!」


 思考停止してどうするんだ、瀬名さんを困らせるなバカ。


 そんでもって何スマホを手に取っているんだ俺は。

 断る事も出来るだろうに……本能に忠実という証拠かおい。


 しかし体勢がキツそうなので、悩んでいる暇はない。

 俺は無心に、瀬名さんの姿を撮影していった。


 ――パシャ、パシャ。


「撮れました……よ」


「よぉし。じゃあこれは?」


 すると、瀬名さんがシャツのボタンを開けて……開けて?


「ちょっ、瀬名さん何を!?」


「大丈夫大丈夫、下はキャミソールだから。ほらっ」


「いや、ほらっじゃなくて!」


 確かにシャツの下はキャミソールだ。いきなりブラジャーとかじゃない。

 でも鎖骨が……瀬名さんの色白の鎖骨が見えてしまっている!


「まだまだ序の口だよ……待ってて……」


 今度は肩のシャツを降ろす瀬名さん。


 結果的に肩や鎖骨、そしてキャミソールを露わにした刺激的な姿になった。


 一見すれば、昨日の寝間着姿にも似ている。

 しかしシャツのボタンを開けたという「普通ではありえない」シチュエーションに、俺の理性が揺らぎ始めた。


 しかもキャミソールがあると言っても、彼女の白い谷間が見えてしまっている。

 心なしか薄ピンクのブラジャーまで……。


 身体が熱い……汗が出ててきそうだ。


「早く撮って勇人君。この制服はどの雑誌にも載らないレア中のレアなんだから」


 ほんの少しだけ、瀬名さんの頬が赤くなっていた。


 瀬名さんが恥ずかしがるなんて珍しい。

 それに部屋に入る前、俺をからかった時も同じようにしていたはずだ。


「どの雑誌にも載らない……」


「そう、勇人君にだけの特別。あなたにだけ見せる私の姿。撮らないと損だからね」


 そう、俺を惑わすように艶やかなウインクをしでかす。

 

 まるで彼女にリードされているみたいで、複雑な気分だ。

 そんでもって、本能の赴くままに撮影ボタンを連打している俺も俺もだ。


 ……よし、ここは仕返しでもしよう。


 ちょっとヤケになっているけど、まぁ大丈夫なはず。

 このまま、瀬名さんに良いように扱われる訳にはいかないんだから。


「次のポーズ、リクエストしていいですか?」


「ん、いいよ」


 シャツを整えている瀬名さんは「どんと来い」と言わんばかりだった。

 ならばその鼻を明かしてやる……。


「猫の真似して可愛くにゃんにゃん言って下さい」


「えっ?」


 フフッ、戸惑っている戸惑っている。


 俺の予想通りなら「それは恥ずかしいじゃない」って、顔を赤くして言うだろう。

 さぁ、彼女はどう出るか?


「……そんなの私のキャラじゃないな。自分で言うのもなんだけど、『可愛い』って感じじゃないというか」


 あれっ、なんか予想とは違う。

 しかも可愛い感じじゃない?


「……あー、もしかして『綺麗』って言われた方が理解できる的な?」


「率直に言われると照れるけど……まぁそんな感じ。私に『可愛い』は似合わないよ」


「そうですかね? 俺、瀬名さんが可愛いって思ってますよ。撮影で会った時からずっと」


「…………」


「……?」


「……ゆ、勇人君……そんなしれっと……私が可愛いだなんて……」


 一瞬ポカンとしてから、初々しそうにうつむく瀬名さん。


 おかしい……確かに顔が赤くなったけど、俺が想像していた展開と違う。

 俺なんかやらかした?


「あのー、瀬名さん?」


「…………にゃんにゃん♪」


「!?」


「ど、どう? 割と勇気いるんだけど、これ……」


 俯いていた顔を上げた瞬間、即座に猫のポーズ。

 これは……相当なクリティカルヒットだ。


「可愛かった……です」


「……そ、そう……なんか、ありがとう……」


 俺も瀬名さんもオドオドとする始末。

 何でこうなったんだろう……俺はただ瀬名さんをからかいたかっただけなのに。


「瀬名さん」


「ん?」


「撮り損ねたので、もう1回お願いできますか?」


「だと思った。もう……あと1回だけだからね?」


 でも、可愛い瀬名さんが見れたので別にいいかな。

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